44 剣を抜け、拳を握れ
「いいぜ! 戦おう!」
「ちょっとヒッタイトさん何言ってるんですか!?」
蟲たちの決闘の誘いに、なんとヒッタイトは間髪入れずに即答した。
彼女はニッコニコの笑顔である。きっと、樹海に入ってから一度も戦えていなかったために、少なからず欲求不満だったのだろう。
そして、ここぞとばかりに降りかかってきた決闘の申し出である。
申し出てきたのは相手の方なので、『樹海の主』との友好とか何やらかんやらを気にする必要もない。
存分に戦えるというわけだ。
いつの時代でも、生物の最終手段は暴力。
それと同時に、最良の相互理解はいつも拳のその先にあるモノなのである。
……一応断っておくが、これはヒッタイトたち脳筋の思考である。決してこの世界が世紀末の渦中にあるわけではない。……決して。
「ただ、一対一かつ、対戦の組み合わせはこちらで指定させてくれないか?」
「勿論。好きにしてもらって構わないよ」
そして、そうと決まれば後は早い。あれよあれよと細部の擦り合わせが終わり……。
「……じゃ、この組み合わせでいいか?」
あっという間に決闘の準備が整ってしまった。
「コマチはまだB級なりたて、ソバはそもそも索敵役で戦闘には向いてないからな。あたしと笠松、そして茶太郎が出る」
と、いうことで決定した決闘の組み合わせはこうだ。
『無双の女傑・ヒッタイト』対『傀儡使いの百足』。
『無言の剣士・笠松』対『全属性魔法使い・蜘蛛』。
『二尾の妖狐・茶太郎』対『白鱗の蛇』。
至ってシンプル。百鬼夜行の最高戦力三人をぶつけるというわけだ。
「……私の剣の抜きどころか」
「ふん、中々に面白そうな余興じゃな」
そして案外、笠松と茶太郎もこの決闘に乗り気のようである。ヒッタイトと旅路を共にしている時点で薄々察してはいたが、やはり彼らにも脳筋の気があるのだろうか。
「ウジョォ〜、一丁やるか!」
「新しい魔法を試すいい機会だね」
「ふふふ、私の鞭は痛いわよ?」
そして、それぞれ魔力をたぎらせる蟲たち。
わりと世界を揺るがしかねない世紀の対決が、世界の片隅、この死の樹海にて始まろうとしていた。
うわぁ〜脳筋だぁ〜。
コマチはまだB級に上がりたてです。それでもすごいんですけどね。
冒険者の級は『D→C→B→A→S』というふうに昇格していきます。実は、大体がC級で打ち止めという厳しい世界なのです。