38 破天荒スタイル☆追い込み漁
「脚が棒みたいですよ……」
「そうだな……」
なんだか無気力気味な会話を繰り広げているのは、ヒッタイトたち百鬼夜行だ。
ここは樹海の最南端。グゴーリア・ヘプターキー側から死海山脈に挑んだ彼女らは、無事に人外魔境・死の樹海へと足を踏み入れていた。
「とはいえ、急がねぇと密猟者を逃しちまうからな……」
焚き火に焚べた枝木を、つんつんと棒切れでつつきながら、ヒッタイトは呟いた。
彼女らは現在、小さな洞穴の中に隠れ潜んでいる。明日から始まる『樹海の主』と密猟者の捜索へ向けて、英気を養っている最中だ。
「すぅ……」
一方、こちらは結界の使用によって魔力を使い果たしたコマチ。ごつごつとした洞穴の地面の上であるのにも関わらず、彼女は無防備に熟睡している。
「あーーん……」
そんな中、ソバが乾パンに齧りつこうとした、その時だった。
「グゴオアアアアアアアアアア!!」
「グゴオアアアアアアアアアア!!」
「グゴオアアアアアアアアアア!!」
「グゴオアアアアアアアアアア!!」
「グゴオアアアアアアアアアア!!」
突如として、耳をつんざく轟音がやって来た。
「っ!?」
「なんだぁ!?」
ソバは驚きのあまり乾パンを掌から落とし、眠っていたコマチは轟音に叩き起こされた。
そして、即座に武器に手をかけるヒッタイトと笠松。
しかし、その咆哮にも似た轟音に少し遅れてやってきたのは――
ぬめらぁっ……。
「こいつぁっ!?」
舐め回すように肌にまとわりつく、恐ろしいほどに異様異質な魔力の気配だった。
千匹万匹の蟲が身体中を這いずり回っているような、言葉にできない、言葉にしたくない不快感。
意思とは関係なく、鳥肌がびくびくと立ち上がって収まらない。
胃の中に、どうにも言えない気色の悪さが、澱のように溜まっていく。
「くそっ!」
この魔力を連れてきた奴の正体を見てやる。その一心で、ヒッタイトは洞穴の外へと躍り出る。
その瞬間、彼女にふわりと影が落ちた。
いや、彼女だけではない。あたり一帯の全てが、上空にいる何かが落とした、真っ黒な影に塗り潰されていた。
咄嗟に空うえを見上げるヒッタイト。そんな彼女が見たもの。それは――
「……嘘だろ」
それは真横に並んで飛ぶ、絶望の権化である最強種――十体の巨大なドラゴンの姿だった。