37 なんかいっぱい出てきた☆ドラゴン
「ウジョウジョウジョウジョ……」
地面に描かれた複雑怪奇な魔法陣の前に構えて、ぶつぶつと呪文を詠唱する百足。
それに呼応するように、魔法陣に刻まれた無数の象形文字が眩い光を放つ。
「シュルルル……」
「カキュカキュ……」
「力あれ、智慧あれ、光あれ……」
蛇、蜘蛛、少女もそれに続く。
ほとんどの魔法を無詠唱でこなしてしまう少女たち。そんな彼女らが、わざわざ大層な長尺の詠唱を行ってまで召喚しようとしているものとは、一体。
象形文字の輝きが、魔法陣の中央に鎮座する触媒――白蛇の抜け殻へと注がれる。
その時、少女たちが一斉に眼を見開く。
「ウジョ!」
「シャァッ!」
「カキュ!」
「生命あれ!」
そして四者の詠唱が重なったその刹那、膨大な光が魔法陣から溢れ出した。
その光の中から生まれ出るのは、奔流の如き大量の泥。
間欠泉から吹き出すように、飛沫を散らして不定形にうねっている。
「ウジョ!」
「わかった! 『シェム・ハ・メフォラシュ』!」
しかし、少女が止めにそう言い放つと、その泥たちは途端に意志を持ったように動き始めた。
まるで、見えざる手に捏ねられているかのように、次々と、変幻自在に形を変えていく泥。
そうして泥が形作っていくのは、翼に、角に、鱗に、牙……。
そう、出来上がったそれは、紛れもなくこの世に君臨する最強種――竜の姿だった。
「グゴオオオオオオオオオオ!!」
咆哮が巨木を揺らし、嵐が吹き荒れるように魔力が乱れ舞う。
暴風にちぎり取られた木の葉が、ぺたりと少女の頬に衝突する。
顕現したのは、総数十体の巨大なドラゴンゴーレムだった。
「すごい……おおきい……」
しかし、今まで見てきたようなドラゴンゴーレムとは一味も二味も違う。
まずは圧倒的巨体。
以前見た百足製ドラゴンゴーレムの二倍はあるだろう。
次に見た目。
最後に言葉を刻んだのが少女だったからなのだろうか。その皮膚は毒のような強烈な紫色をしている。
しかし、白蛇の抜け殻という触媒も影響を与えたようで、その紫色の所々には白銀がアクセントとして美しく輝いていた。
そして極めつけは漂う魔力。
異質な魔力だ。少女、百足、蜘蛛、蛇の四者の魔力がこのゴーレムの中で渦巻き、そして混ざり合っている。
じっと見つめていると吐き気を催してくるような、歪な渦巻き模様の如き様相を呈しているのだ。
結果、ドラゴンゴーレムから放たれる異様なプレッシャー。
本物のドラゴンであっても、これには一瞥せざるを得ないだろう。
「成功だね!」
「ウジョジョ!」
「カキュ!」
「シュ〜!」
しかし、こんなモノを生み出して、一体何をしようというのだろう。
ゴーレムによる捜索では芳しい結果を得られないと、先程思い知ったばかりなのに。
だが、少女はにやりと笑った。
「これでおいこみ漁だ!」
蛇が提案した作戦。
それは、『見つからないなら、炙り出せばいいじゃない』というものだった。
抜け殻を使って生み出した、異常な威圧感を放つドラゴンゴーレム十体。これに樹海の上空をくまなく飛び回らせることで、一つの場所に――つまりはこの蔦の森へと賊を追い込むというのだ。
ドラゴン、それは恐怖の象徴である。
たとえ洞穴などに隠れていたとしても、ドラゴンの咆哮を聞けば、たちまち堪らなく不安になって外に這い出してくるだろう。
一秒後にドラゴンの気紛れによってあたりが火の海になったとしても、何ら不思議ではないのだから。
「ゴオオオオオオオオオオッ!!」
十体のドラゴンゴーレムが同時に吠え声を打ち上げる。
「これで、うまくいけ……ば……っ」
その様子を見上げて、胸に希望を抱いた少女だったが――
「ウジョッ!?」
――どさっ。
いきなり力を失い、ふらりと倒れてしまった。
Q、少女はゴーレムの魔法が使えないのに、どうしてドラゴンゴーレム召喚の儀式に参加しているの?
A、彼女は言霊を注いでいます。
ケーキ作りに例えてみます。百足たちが作ったケーキに、仕上げとして苺をトッピングするのが少女です。単に苺を乗せるだけなので、これにケーキ作りの技術は不要ですね。
少女はめちゃくちゃ強いので、彼女の放つ言葉にも当然強い言霊が宿ります。それを利用して、ドラゴンゴーレムの格を高めるために、少女に『強い言葉』を注いでもらっているわけです。
……ちょっと何言っているか分かりませんね。作者の中の設定厨が暴れていますので、どうかスルーしてください。