36 乙女の下着、再び
サピエンスたちの拠点、蔦の森にて。
少女たちが集まって何かをしているようだ。
「……異常なしだ」
「……ウジョジョ」
瞑っていた瞳を開けて、百足とメルトが呟く。
「そっかぁ……。二人とも、おつかれさま」
それを聞いた少女が苦い顔でそう言った。
「ぅぐあっ……」
余程疲れたのか、どさりと地面に倒れ伏すメルト。
「……我が部下たちよ、そちらはどうだ?」
側で同じように倒れている数体のウルフたち、彼らにも問いかけてみるメルトだったが……。
「キャフ」
「バフゥ……」
「ワフ」
「そうか、そちらもか……」
帰ってきた返事は、やはり芳しいものではなかった。
「ウィズダム、そっちは?」
「ウキィ……」
杖を持ち、ぶつぶつと呪文を念じていたウィズダムも首を横に振った。
そして彼もまた、力尽きたように倒れ伏した。
「ウィズダム殿よ、やはり傀儡の操作とは慣れないな」
「ウキィヤ……」
互いを労うメルトとウィズダム。彼らの顔には、尋常ではない量の汗が滲み出していた。
少女たちは今、メルトの妻子に凶刃を向けた人間の賊を捜索している。
百足をはじめとして、メルトやウィズダム、幾人かの覚えのある賢猿と深森狼が、ゴーレムによって樹海中を探し回っている最中だ。
勿論、相手に勘付かれないために、用いるゴーレムの大きさは羽虫サイズだ。
しかし――
「五日間探し続けても見つからないとは……くそっ」
悔しそうに呟くメルト。
彼にとっては愛する妻子の仇だ。言うまでもなく、鬼気迫る様子で、血眼になって捜索を行なっている。
彼だけではない。誰だって、仲間の仇を必死になって探しているのだ。
それなのに、手掛かりすら掴めない。
「むかで、これっておかしいよね」
「ウジョウジョ!」
少女が相変わらずの苦い顔で百足に問うた。百足もそれに激しく同意の意を示している。
確かに、樹海は恐ろしいほどに広い。賊が好むような絶好の隠れ家だって、幾つも存在しているだろう。
しかし、ここに集っているのは樹海トップクラスの実力者たちなのだ。しかも、百足というゴーレムのプロフェッショナルだっている。
百足など、一度の捜索に千匹を超える羽虫型ゴーレムを投入している。それに他の人員の力も加わっているのだ。
いくら樹海が広大だとはいえ、尻尾の毛の一本すら掴めていないこの現状は、はっきり言って異常である。
「主よ、やはり我々が直に出向いたほうが――」
「だめ」
嗅覚などに優れた自分たちが、直接出向いて探した方がいいのではないか。
痺れを切らしたメルトがそう提案するが、少女はそれを強い拒否で遮った。
「これ以上、誰かを死なせない」
強い意志が込められた言葉だった。
まわりくどい手段を取らざるを得ないのは、歯痒いことこの上ない。しかし、誰かがまた賊の犠牲になることだけは、なんとしてでも避けたいのだ。
「……でも、どうしよう」
そうは言った少女だが、現状が停滞していることは痛いほどに理解している。
ぎりりと歯を噛み、ぎゅっと強く拳を握った。
少女はゴーレムの魔法を扱えない。彼女の適正は毒疫魔法に恐ろしく偏っているからだ。
みんなの役に立てない。彼女はそれが悔しくてたまらない。
「シュ〜」
その時、俯く少女の腕に、蛇がするりと絡みついてきた。
「シュウゥ?」
「くすぐったいよ……」
慰めるように、彼女は少女の頬に頭を擦り付ける。
しかし、すぐに蛇は真剣な顔付きに変わり、そしてこう切り出した。
「シュ〜」
「え? 作戦がある?」
そう言って蛇が差し出したのは、白くて薄い物体――抜け殻であった。
まさかの抜け殻が再登場です。
蛇には白い体色に纏わる加護やらなんやらが大量にひっついています。そのために、抜け殻が化け物級の触媒となるわけですね。