34 結界でつくる☆あったか温室
吹雪く豪風、積もりゆく雪と氷。ここは雪山、冷たい世界。
「ほーんと、雪と氷と岩ばっかりですね」
永遠と続く真っ白な光景に辟易した様子のソバ。
「そりゃあ雪山だからな」
ヒッタイトは慣れたように、それを右から左に受け流した。
現在、百鬼夜行の四人と一匹は樹海を目指して、山脈越えに挑んでいる最中である。
食料やその他諸々が詰め込まれた大きな背嚢を各々担いで、超特急で山を越える強行軍だ。
ざくざくと踏みしめられ、積雪に刻まれていく足跡。しかしそれも、降りしきる豪雪によってすぐに消し去られていった。
死海の外周をぐるりと囲む雄大な山脈。その高さ、いずれも五千メートル級。越えるのは容易ではない。
容易ではない。……そう、普通の人間には。
「コマチの結界があってよかったぜ、ホント」
しかし、ヒッタイトたちはこの極地でも存外けろっとしている。
「キャン!」
「ふふふ。結界って便利でしょう?」
この極寒の地でも彼らが平然としていられる理由は、東洋魔術師ミノ・コマチが展開している結界にある。
結界とは、此方と彼方を魔術的に区切る技術。東洋で特に発達を見せており、独自の体系から『結界術』と区別して呼称されることもある。
そして、その区切った内の此方側には、術者が自由に魔法を付加することが可能だ。
現在コマチは自身を中心とした球状の結界を展開しており、その内部を魔法によって暖かく保っている。
「とはいえ、これを永遠に続けることはできません。わたしの魔力が切れてしまう前に、山脈を越えましょう」
既に彼女たちは二日間不眠不休で登山を続けている。その間ずっと結界を展開し続けているコマチの魔力は、確実に底へと向かっていた。
「これを食べろ」
「あら、ありがとう笠松」
歩きながら、笠松がコマチに乾パンを差し出した。彼女はそれにぱくりと齧りつく。
コマチは結界の展開のために、手で印を結び続けている。
両手の塞がった彼女のために、笠松はぶっきらぼうにだが、優しさを差し伸べたのだった。
相変わらず笠を深く被っていて感情が読み取れないが、少なくとも笠松がコマチを心配していることは確かである。
その時だった。
「――キャンッ」
ソバの肩にいた狐の魔獣――茶太郎が、その大きな耳をピクリと反応させた。
「ああ、茶太郎。来るな……」
斥候役として索敵を行なっていた彼らが、迫る異変の気配を察知したのだ。
「前方……数は三……。まさか、この羽音は……!」
「ああ。死海山脈名物、翼竜のお出ましだ」
吹雪の幕を突き破って前方から迫ってきたのは――
「ギャオオオオオス!!」
大きな翼で白銀の斜面を滑空する、三頭の竜だった。
笠松……意外といい奴だ……。
そういや、笠松の性別だけまだ明かしていませんでしたね。
まぁ、そこは『ロマン』です。