33 雪解けるモノクローム
「なまえ……? でもいいの? それって……」
「そうだ。お前の下僕になってやると言っているのだ」
少女に真意を問われても、狼は変わらず凛として答えた。
名前を与えられること。則ちそれは、名付けの主に従属することを意味する。
契約魔法による束縛を受け入れるということだ。
彼は巨大な群れを率いる長。強靭なる傑物。そんな彼が、自らをそれを申し入れるということは――
「お前の創る未来を、私は見てみたい」
つまり、絶対の信頼を意味する。
「私達の為に怒ってくれた。そんな人間を信じてみたいのだ」
狼の銀色の瞳が、なみなみの覚悟を湛えてそう言った。
「――わかった。貴方に、名前をあげる」
狼と少女は互いに歩み寄り、そして見つめ合う。
狼は少女の目線に合わせて屈み込んだ。
「実はね、貴方にあげる名前はもう思いついているの」
少女は目の前に据えられた狼の頬に、柔い両手を添えた。ふっさりとした毛の感触が伝わってくる。
互いの額をくっつけて、瞼を閉じて……。体温で通じ合う。
「貴方の名前は『雪解け』だよ」
「我が主よ、その名、謹んで受け取ろう」
そうして言葉が交わされた瞬間、二人の額を橋渡すように光の糸が結ばれた。
契約魔法の成立である。
溢れる魔力の優しい光が、少女と狼を包み込む。
「ウジョウジョ!」
彼女たちを祝福する百足。後ろに佇むゴーレムたちも、それぞれ思い思いの方法でそれに続いた。
「ゴオオオオオオオオオオ!!」
ドラゴンゴーレムが咆哮を青空に打ち上げた。
「これからよろしくね、メルト」
「ああ。誠心誠意、お前に尽くそう」
二人の微笑みが雪中に咲き、雪山の白銀風景が花園へと変わっていく。
闘いの末に、少女たちはこうして手を取り合えた。
少女はこれからも、その握った拳で樹海を変えていくだろう。
ちょい短めでした。
明日は多分ヒッタイトたちの視点になります。