31 奇人変人の百鬼夜行
「ヒッタイトさん、また無茶な依頼受けちゃったんですか!?」
冒険者ギルドの一階、酒場にて。その一角から、悲鳴にも近い叫び声が響き渡った。
「いやいや無茶じゃねぇよ! あたしらにかかれば!」
「いやいや無茶ですよ! あの死海ですよ!?」
ヒッタイトが陣取る酒場のテーブル。そこには、彼女の他にも三人の男女が腰掛けている。
「死海って超絶危険地帯ですよ! 侵入が禁止されているくらいの!!」
「あ、許可ならギルマスがくれたぞ」
「おいギルマス何やってんだ!!」
先程から絶叫しているのは、薄い灰色の髪を後ろで束ねた若い男。その肩には、小さな狐のような魔獣がちょこんと乗っかっている。可愛らしい。
彼はソバ。ヒッタイトの率いる冒険者パーティーの斥候役だ。
荒れる彼の様子を、ヒッタイトはさらりと左から右に受け流している。テーブルの上に置かれたナッツの盛り合わせをつまみながら。
「キャン!」
「ほらほら! 茶太郎も反論してますよ!」
ソバの肩に座り込んでいる狐の魔獣――茶太郎も彼の反論に加勢した。
実際は、ソバの絶叫がうるさいと文句を言っているだけなのだが。
「ソバ、それくらいにしては?」
しかしその中に突如、凛とした声が挟まれた。
「おいおい、コマチはヒッタイトに賛成かよ……。そりゃないぜ……」
その鶴の一声の主は、コマチと呼ばれた女性。ソバよりも少しだけ年上だろうか。
しかし、椅子に腰掛ける彼女の様子は、まるで牡丹。腰までたらりと伸ばした漆黒の髪の頂には、天使の輪っかの如き光の輪が浮かび上がっている。
はっきり言って超絶美人だ。はっきり言って、ちょっぴり粗野なヒッタイトとは真反対の空気をまとった美人だ。
彼女はミノ・コマチ。東洋魔術の使い手である。
「ヒッタイトさんが変な依頼を拾って来るのはいつものことですし、付き合ってあげましょうよ」
腕に飛び乗ってきた茶太郎を撫でながら、コマチは言った。
「ちぇ〜。そうだ、笠松はどうなんだよ」
味方を無くしたソバが最後に頼ったのは、先程から静かに酒をあおっていた笠松という小柄な剣士。
建物の中だというのに目深に笠を被っており、その表情を窺知ることはできない。
だが――
「……私はヒッタイトに賛成だ。そもそも、奴はどうせ言っても聞かん」
「嘘だろ〜」
「ハッハッハ! あたしってもんをよく分かってるじゃねぇか、笠松!」
笠松の賛成によって、波乱の多数決は決着した。
「くそ〜! こうなったらやけ食いだ! 最後の晩餐だぁ〜!」
そう叫びながら、酒の満たされたコップを大きく傾けるソバ。
「それ、毎回言っているじゃないですか」
そして冷静に突っ込むコマチ。
「いいぜ! 今日はあたしが奢ってやるよ!」
その様子を面白そうに見やるヒッタイト。
「……」
あいも変わらずに、無言で酒をあおる笠松。
一見ばらばらな彼女らだが、決して侮るなかれ。A級のヒッタイトに率いられて、コマチと笠松のB級が二人、斥候役としては上級であるC級のソバが続くベテランパーティーである。
元々はソバ、コマチ、笠松の東大陸出身者が集まって生まれたパーティーなのだが、西大陸を訪れた際にヒッタイトが加入したという経緯がある。
そして、このパーティーの名は『百鬼夜行』。
確かに、ヤバめなメンバー揃い踏みのこのパーティーにはぴったりな名前だ。
「さあ、早速今日の夜半には街を立つぞ!」
グラスを掲げてヒッタイトが叫ぶ。
大波乱の死海探索が幕を開けた。
なんと、総合ポイントの値が100を超しました!
第三十話のキリ番に続いて、100という大台への到達。めでたいこと続きで、作者の脳内は正に有頂天です。
これからもどうぞよろしくお願いします……!
(次回からは少女たちの視点に戻ると思います。)