30 扉を破壊☆豪快女傑!!
「おいギルマス! その話、あたしに回しな!」
「……"首刈り"の女傑ヒッタイトか。ギルドの英雄であるA級冒険者が、何故このモラトリアムに?」
「……」
扉を乱暴に開け放った、いきなりの乱入者――ヒッタイトと呼ばれたその女性に対して、多少の驚きはありながらも冷静に対応するギルドマスター。そして黙りこくるストリングス。
「ん? そんなもん気まぐれに決まってんだろ!」
ヒッタイトはギルドマスターの問いかけにさらりと答えた。
「気まぐれで扉を蹴破られちゃぁ、こっちもたまったもんじゃねぇ。ったく……」
「はっはっは! 悪りぃな!」
呆れた様子で白髪の頭をかくギルドマスター。ヒッタイトはそれが愉快なようで、豪快に爆笑している。
ちりちりとした短い茶髪が、彼女の笑いにつられてガサガサと揺れる。
なんというか、天真爛漫、自由奔放の化身のようだ。
ヒッタイトは冒険者の級の中で実質的最上位である、A級を冠する者。
彼女のトレードマークは茶髪と巨体。執務室の天井に触れそうな程の長身は、天賦の戦闘力を示す。
多少粗野な所もある彼女だが、しかし決して悪い奴ではない。A級冒険者なのだ。武勇は勿論のこと、人望だって求められる立場にいる。
「扉の修理費は後できっちり請求するからな」
「そりゃ勿論さ! むしろ黄金の扉にでも改造するか? ここは黄金の国なんだからよ!」
「はぁ、まったく敵わん……」
多少荒々しいのだって、ご愛嬌だ。
「死海への調査隊か。こりゃまた胸踊るこっちゃ」
「お前だけだよ。あの死海に入るのを躊躇しない奴は」
ストリングスが執務室を去った後。ヒッタイトとギルドマスターは今回の重要任務、死海調査についての打合せを行っていた。
「で、ストリングスの奴の報告にあった、『樹海の主』候補との友好的接触が目標だな」
「そうだ。特に『友好的』って所を重視してくれ」
計画を綿密に擦り合わせていく両者。
ヒッタイトの顔付きも、A級の顔に様変わりしていた。
ギルドマスターは語る。
「先代の『樹海の主』だった九頭毒竜が突然姿を消してから二百年あまり。その間、樹海開拓は停滞し続けていた」
「それでお前ら、多方面から叩かれてたもんなぁ」
『樹海の主』とは言葉の通り、樹海の全てを統べる者のことである。
かつて人間たちは、交渉に交渉を重ねて、主から樹海開拓の許しを勝ち取ったことがあった。それが二百年前、ヒドラの時代のこと。
しかし、彼女は突如姿をくらました。幸い割譲された土地にこの街を築くことはできたが、樹海は再び人外魔境へと姿を変え、樹海開拓はふりだしに戻ってしまった。
「莫大な財宝に、聖遺物まで持ち出しての交渉だったらしい。結果として、グゴーリアの国宝の一つを差し出したことで交渉は決着した。主は人間の誠意と情熱を認めたのだ」
「でも姿をくらましたんだろ? その主は」
「それについては……未だに謎だ」
大きく溜め息を吐くギルマス。
この立場への就任以来、開拓停滞の皺寄せである非難の声を全て受け止めてきた男だ。額の皺も増える。髪の毛は減る。
「安心しな。あたしが今回の任務をバシッと決めて、万事解決してやるよ」
胸にどんと拳を当てるヒッタイト。その背中はとても頼もしい。猛者の風格というのだろうか、有無を言わせぬ信頼感をまとっている。
「……あぁ、頼んだ」
二人はガッシリと握手を交わした。
「じゃ、朗報を待てよ」
二人の会議が終了した後。
たてつけの悪くなった扉のノブに手をかけて、退室しようとしたヒッタイト。
その背中に、ギルマスから声がかかった。
「……最後に一つだけ」
「ん、なんだどうした? 寂しくなっちゃったか?」
揶揄うヒッタイト。しかし、彼の顔を見るや否や、その表情を引き締めた。
「もう一つ、極秘で頼みたいことがある」
深刻な顔で、ギルドマスターは吐き出した。
「死海に出現している……密猟者の確保だ」
第三十話です。また一つの節目を迎えることができました。
最近はじわじわと総合ポイントやPV数が増加しており、思わず頬がほころび、一層執筆に力が入ります。
今一度、読者の皆様に感謝を!!