3 ゆめゆめはためく森の夜
「ムシャムシャもぐもぐバキッバキッ」
ところで、少女の豪快な食事風景にばかり気をとられていたが、どうやら焚き火を囲んで食事をしているのは彼女だけではないようだ。ゆらゆらと揺らめく焚き火に照らされて、少女のものとは別にあと三つの影が闇夜に浮かび上がっていた。
そして、目を凝らせば分かるだろう。少女と食卓を共にする者たちの、その異形の姿が。
不規則に蠢く無数の脚に、謎の液体が滴り落ちている牙、焚き火を反射して光る鱗、チロチロと出し入れされている舌、六つもある目玉。炎に照らされて浮かび上がった三つの影は、いずれも人間とはかけ離れた姿をしていた。
そう、彼らは人間ではない。蟲なのだ。
その正体とは、巨大な百足に、真っ黒な蜘蛛に、白い鱗に覆われた蛇。少女は異形の姿をした三匹の蟲たちと一緒に、楽しげに食卓を囲んでいるのだ。
蟲たちも少女と同じように、それぞれの牙を使って骨付き肉を頬張っている。
「シュ~」
チロチロと赤い舌を出し入れしながら、蛇が声を上げた。恐らくは「美味しい」とでも言っているのだろう。蟲の言葉はよく分からないが、それでもその声には喜びのような感情が宿っているように思える。
「そうだね、いのししはおいしい」
すると少女が蛇の言葉に返事をした。どうやら彼女には蟲の言葉が分かるようである。
蟲との食事。異形の存在との食事。傍から見れば、気色が悪いと目を逸らしてしまいそうになる光景だ。
しかしその輪の中で少女が浮かべている笑みは、まるで家族に甘える幼児のようにも見えた。それは間違いなく、少女がこの時間に幸せを感じていることの証明だろう。
それならば、なにも言うことはないはずだ。たとえ相手が蟲であろうと異形の存在であろうと、彼女にとっての家族団欒は今まさにここにある。普通の家族というものからは少しズレているが、これが少女の家族なのだ。
パチパチと盛んに火花を飛ばしていた焚き火が、その勢いを少し弱めてきた頃。夜空に浮かぶ星々を見上げていた少女が、眠たげに目を擦り始めた。彼女もまだまだ子供。もう寝る時間のようだ。
少女はまだ僅かに煙を吐き出していた焚き火を土をかけて消し、寝床へと向かって歩き始めた。
寝床というのは巨樹の根本に空いた大きなうろを利用したもので、中には乾燥させた苔などを敷き詰めてベットのようなものが出来上がっている。
「よいしょ、よいしょ」
敷き詰められた苔の山を手で整えて、簡単なベットメイキングをする。そうして好みの形に寝床を仕上げると、少女はその上に丸くなって寝転んだ。
うつらうつらとする彼女のもとには三匹の蟲たちも集まってきた。彼らは寝転ぶ少女に寄り添っていく。
百足は自身の長い体を少女の全身にゆるく絡ませ、蜘蛛は少女の長い銀髪の中に潜り込み、蛇は少女の股のあたりでとぐろを巻いた。
こうして少女と蟲たちは一つの塊のようになって、一緒に夢の世界へと旅立っていった。
今夜の月は、弓のように引き絞られた三日月だ。儚い月光が少女たちの寝床に差し込み、彼女たちのことを照らしている。少女の銀髪が月光を反射して淡く煌めいていた。
大幅に改稿しました。