21 掌に握ったもの
「キィヤ……」
「なるほど」
「シュ〜」
サピエンスたちのアジトの中でも、特段高い巨樹の上。蔦で編まれたカーペットの特別席で、少女たちは会議を講じていた。
「イイイヤ」
「けっきょく、敵の正体はわからないんだね……」
「ウジョォ」
ウィズダム曰く、今回の惨事は正体不明の襲撃者によって引き起こされたものらしい。
食料調達に赴いていたサピエンスたちが奇襲をくらい、そこに駆けつけた応援の部隊ごと蹂躙されたという。
しかし……。
「でもさ……」
「ウジョウジョ!」
そう、彼らは短期間とはいえ蜘蛛に鍛えられ、そして百足製の武器まで持たされた精鋭たちだ。
それを叩き潰してみせたとすると、敵の正体は……。
「たぶん、すごいつよい」
「ウキィヤ……」
長であるウィズダムですら対応できなかった相手だ。やはり強いに決まっている。
……と、なれば話は早い。樹海の強者たちを片っ端からあたればいいだけだ。
それに今回は、少女に少しばかりの心当たりがあるらしい。
「さるたちの肌、凍ってた」
負傷したサピエンスたちの中に、凍傷を負っていた者がいたのだ。
「よいしょ、よいしょ……」
「ウジョォ〜……」
ウィズダムとの会議から数時間が経った今。少女たちが何をしているかというと……。
「山、まだとおい……」
「カキュゥ」
樹海の端にそびえる山脈を目指して、徒歩移動の最中である。
樹海を囲むようにそびえ立つ巨大な山脈。そこには、樹海の中とはまた違った生態系が築かれている。
一年中雪や氷の溶けない標高の高いエリアには、氷雪に適応した魔獣たちが暮らしているのだ。
そして彼らは、氷の魔法を扱う。
今回の襲撃でサピエンスたちが負った凍傷から、襲撃者は山脈に暮らす魔獣であると少女は予測したのだった。
少女、以外とクレバーである。
「やま、まだとおいね」
「ウジョォ……」
今回は、少女と百足の二人だけの遠征隊。
蜘蛛と蛇はサピエンスたちの警護のためにアジトに残っている。
歩き疲れてへとへとといった様子の百足だが、それとは裏腹に警戒を怠ることはない。
少女たちの周りには、百足の操る数十体のゴーレムたちが息を潜めて奇襲を警戒している。
今回のサピエンス襲撃には、彼も思うところがあったのだろう。心なしか、いつもよりゴーレムたちの動きが鋭い。
「――! ウジョ!」
そのゴーレムたちの中の一体がぴくりと反応を見せた。
北西の方角から迫る影。二頭の蛮猪だ。
「ウジョ!」
「だいじょぶ、わたしがやる」
少女が紫涎をかざす。
「『ポイズンバレット』」
空中から打ち出された無数の魔毒の矢は――
「ブギャアッッ!!」
迷いなく、ボアたちの脳天を貫いた。
「ウジョウジョ」
「うん、ごはんゲット――」
「ウジョ?」
倒れ込んだボアたちを見つめる少女。
紫涎を握るその拳の中に、彼女は微妙な気持ちの悪さを感じていた。
樹海は中部地方と同じくらい大きいので、正直徒歩は無謀です。