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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第一章 死を育む樹海の中で
20/160

20 逆さ鱗に触れたなら

「うーん、すやすや……」


 ブートキャンプも終わりを迎え、少女のもとに平穏な日常が戻ってきた。みんなと騒ぎ倒すのも楽しいけれど、こうした静かな休息もまた尊いもの。


 頭上からこぼれてくる優しい木漏れ日の中で、少女は安らかな昼寝を謳歌(おうか)していた。


 もうすぐ夏が暮れる。少女の人生で十三回目となるこの夏は、その身に秘めたおびただしいほどの熱と光を、そろそろ使い果たそうとしていた。


「すやすや……」


 しかし、晩夏のこの静かなる日常は、そう長くは続かなかった。


「ウジョウジョォ!!」


「っ!? どうしたの!?」


 少女の懐に、酷く慌てた様子の百足が飛び込んできた。その長い長い身体の所々が、ぐちゃぐちゃに絡まり合ってしまっているほどの焦り具合だ。


 何かあったのだろうか。


「ウジョウジョ!! ウジョォ!!」


 取り乱しつつも、少女に状況を伝える百足。


「……うん、わかった」


 そして、百足との数秒のやり取りの後、少女の顔つきが変わった。


 急に眠りから覚まされた少女だが、それに彼女が(いか)ることはない。

 なぜなら、いつもお気楽な百足がこんなにも慌てるのは、緊急事態の時以外にあり得ないのだから。






「みんな、大丈夫!?」


 少女と百足は、サピエンスたちのアジトに駆けつけていた。


「ウジョ!」


「……!」


 そして目の前には、重傷を負った数十匹のサピエンスたち。痛々しい裂傷や、刺突によって穿(うが)たれた深い傷が身体中に刻まれている。


 大量に流れ出る血液で、赤黒く染まっていく彼らの体毛。


 酷い有り様だ。


「カキュ……」


「シュ〜……」


 先に到着していた蜘蛛と蛇が回復の魔法を施していたようだが、あまりの怪我人の多さに、魔力と体力が尽き果ててしまっている。


「……だいじょうぶ。わたしがやる」


 その様子を見た少女が一歩前に出た。


 何がどうなってこんな惨状が生まれたのかは知らないが、なぜ百足が自分に助けを求めたのかはわかる。自分のやるべきこともわかる。


 ――そう、今はこのサピエンスたちを助ける。


 少女の銀髪が淡く輝き、穏やかな魔力があふれだした。


「『グレイス・フェイス』」


 少女の掌から注がれたのは優しい光。

 その光は傷に(うめ)くサピエンスたちを包み込むと、その深々と刻まれた傷を瞬く間に消してみせた。


「イイイ?」


「キイイーー!?」


「ウキャア!?」


 痛みに呻いていた彼らの声が、次々に驚きと喜びの歓声に変わっていく。

 肉のえぐれた痕さえも、すっかり元通りになっていた。


「……よかった」






 『毒と薬は紙一重』という言葉がある。その通りで、禍々しい毒を秘めた植物でさえも、適切な処理を施せば薬効をもたらすようになることがある。


 少女の使った毒疫魔法、『グレイス・フェイス』の理論もそれと同じ。

 殺すことに特化した(たけ)る毒の魔力のエネルギーを、回復の魔術式に転用する。そうすることで、膨大な(いや)しの力を生み出すのだ。


 毒というものが象徴するのは、苛烈で残酷な二面性。

 殺す力であり、癒す力。そのどちらを振るうかは完全なる気まぐれ。

 それは自然本来の姿でもある。


 そして、毒の魔法の使い手である少女にも、それと同じことが言えるのかもしれない。






「ねぇ、だれがこれをやったの?」


 そう問う少女の瞳は、冷たい氷のようだった。

第二十話です。

ここまで続けられているのも、この小説を読んでくださる皆さんのおかげです。

これからも頑張って執筆していきます!

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