19 マッスル☆Kiss
「カッキュ!」
叫ぶ蜘蛛。
「キイイイイイ!」
叫ぶサピエンスたち。
「カッキュ!」
叫ぶ蜘蛛。
「キイイイイイ!」
叫ぶサピエンスたち。
「カッキュ!」
叫ぶ蜘蛛。
「キイイイイイ!」
叫ぶサピエンスたち。
……この絶叫する集団は一体何なのか。そのあまりの声量に、樹海の巨樹たちがわっさわっさと揺らされている。
ここは、ウィズダム率いるサピエンスたちのアジト。
そしてここで行われているのは、地獄の特訓『オニグモ☆ブートキャンプ』。傘下に入ったのならば、面汚しにならない程度には強くなってもらわねば困るということで、蜘蛛がサピエンスたちを鍛えなおしているのだ。
「カッキュウ!」
叫ぶ蜘蛛。
「キイイイイイ!」
叫ぶサピエンスたち。
筋繊維をぶち壊し、心肺機能を痛めつけ、その先に強靭な肉体への昇華の道を見いだす。
走り込むサピエンス、高速で腕立て伏せするサピエンス、バーベル代わりに巨石を持ち上げるサピエンス。汗と血のにじむブートキャンプだ。
「さるたち、がんばってるね」
「ウジョウジョ」
そしてそれを眺める少女たち。
普段はどちらかというと寡黙な蜘蛛。そんな彼が鬼軍曹としてサピエンスたちを鍛えている姿は、ギャップがあって中々に面白い。
ちなみに、百足と蛇も教官としてブートキャンプに参加している。
百足は様々な魔獣を模した戦闘型ゴーレムを生み出して、サピエンスたちに実戦を想定した訓練を提供。
そして蛇はというと……
「シューー!」
バチィンッッ!!
「ウキャアアッ!」
尾を鞭のように振り回して、走り込むサピエンスたちを追い立てている。その様は、まさに女教官。
ブートキャンプの熱気にあてられて、心の奥底にあった人格が目覚めてしまったようだ。
そんなこんなで日が暮れて、昇って、また暮れて。一週間が経った。
少女の目の前には、筋骨隆々になったサピエンスたち。軍隊のように整列し、少女に向かって敬礼している。
「みんな、おつかれさま」
「キイィ! キキッキイイィ!」
鍛え抜かれた百体のサピエンスたち。ファランクスでも組めてしまいそうだ。
「ウジョォ」
全員が百足の作った魔法の杖で武装している。しかし、杖が折れれば拳で闘い、拳が砕ければ噛みついて闘うその覚悟こそが、真の武器だ。
「みんな、がんばろー!」
「キイィ! キキッキイイィ!」
野太い叫び声が、樹海中に響き渡った。
閲覧数・ブックマーク・ポイントが急増していたので驚きました。華金明けの皆さまのおかげでしょうか。
創作の大きな励みになっています。ありがとうございました。