17 真夜中☆遠征スパイダー
夜がふけた頃。
少女も百足も蛇も寝静まった中、蜘蛛が一人起き上がり、どこかへ向かって歩き始めた。
「カキュカキュ」
魔法でスピードを底上げし、魔獣の跋扈する真夜中の樹海を駆け抜ける。
立ち並ぶ巨樹の間を縫って進み、急流を越え、毒沼を渡って蜘蛛がたどり着いたそこは、大量の蔦が繁茂するエリア。木々に絡みつくように蔦が生い茂っている。
「カキュ……」
じっくりとあたりを見回す蜘蛛。眼だけでなく、全身に生えた毛にも意識を集中させている。
彼の毛はただの毛ではない。敏感に生物の気配を捉える感覚器官なのだ。
すると蜘蛛が、樹上に佇む一つの影を捉えた。
「カキュ!」
瞬間、そこに向かって魔法の火球を撃ち込む蜘蛛。
毎日果実を探して樹海中を行き交っている彼は知っている。
ここがサピエンスたちのアジトであるということを。
そして樹上の影が、じっと不意打ちの機会を伺っていたことを。
「ウキャアーー!」
火球を避けようとした樹上のサピエンスが、バランスを崩して落ちてくる。
それが開戦の合図となった。
「キィヤーー!」
「イイイーー!」
「ウアアーー!」
真夜中の闇の中に、ひとつ、またひとつと、怪しげに光る双眸が浮かび上がっていく。
樹上に潜む無数のサピエンスたちは、地上からこちらを見上げる蜘蛛を、滅すべき攻撃対象と定めた。
「カキュ」
蜘蛛の呪文詠唱。空中に生み出される火球、水球、石礫、旋風。四つの属性の魔法が発動した。
蜘蛛は、少女や百足とはまた違うタイプの魔法の使い手。
とにかく毒疫魔法を極めた少女、魔法の繊細さに特化した百足に対して、蜘蛛は扱える魔法属性の数で勝負している。
火炎、水流、大地、風嵐、etc……。いくつも存在している魔法属性。
本来生物の個体には、個々に得意な属性・不得意な属性が存在しているのだが、蜘蛛は天才。全ての魔法属性を自在に扱うことができる。
無数の燃え盛る火球が、しなる水の触手が、礫の雨が、風の檻が、迫るサピエンスたちを蹴散らし、追い詰めていく。
五分も経てば、百匹もいたサピエンスたちは皆地面に倒れ伏していた。
「カキュゥ……」
存外あっけないね、と言わんばかりの顔の蜘蛛。
ひときわガタイのいい白灰の背中の一匹を蔦で縛り上げると、それをずるずると引きずりながら少女たちの元へと帰っていった。
シルバーバックとかいってますが、サピエンスの見た目はニホンザルとテナガザルの中間あたりです。