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毒の魔法で華麗な日常を!!  作者: うなぎ大どじょう
第一章 死を育む樹海の中で
16/160

16 賢猿

前話に大きな加筆・修正を施しました。

一読していただければ幸いです。

 樹海のとある場所。

 昨日(さくじつ)の豪雨の影響で樹が倒れ、小さな広場のように開けたその場所で、揺れ動く二つの影が闘いを繰り広げていた。


 一方は、灰色の体毛に身を包み、石器の槍で武装した猿のような魔獣。


 そしてもう一方は、銀色の長髪をたなびかせながら舞うように戦杖を振るう、我らが少女である。


「アアアーー!」


 高速で放たれる槍での突き。槍の先端には、鋭く研がれた黒い石が光る。


「ほっ……」


 しかし少女は容易くそれを捉えると、紫涎(しぜん)で槍を受け流し、さらには猿のがら空きの胴体に蹴りを打ち込んだ。


「ギイイーー!」


 吹き飛ばされた猿の魔獣が(うな)る。


 さっきからずっとこの調子だ。猿の魔獣がいくら攻撃を繰り出しても、少女に全て受け流されてしまう。

 そして時々、今のように手痛い反撃をくらっては、憎らしげにこうして唸っているのだ。


「……いま引くなら、見逃すよ?」


「ギイイ……!」


 そう言い放った少女を、(にら)み返してやろうと顔を上げた猿の魔物だったが……。


「なぁに?」


 冷たい少女の瞳に射られ、途端にしなしなと萎縮してしまった。






 猿の魔獣が退却していった後。


 少女は百足にもたれかかって、うんざりしたように溜め息をついていた。


「最近さるがいっぱい……」


「シュ〜」


 そして労わるように少女に擦り寄る蛇。


 少女がうんざりするのも仕方がない。このところ、猿の魔獣――賢猿(サピエンス)たちによる彼女らへの襲撃が、加速度的に増してきているのだ。


 サピエンスとは、人間(ヒト)に最も()()と言われている類人猿。その脳の容積は人間の七割ほどであり、最近では直立二足歩行を行う個体も見られている。


 彼らは魔法を自在に扱うための十分な知能を有しており、聡明で強大な個体を(おさ)にすえて群れを成す。

 樹海にもそうして出来上がった群れがいくつか存在しており、少女たちへの襲撃を繰り返しているのもその中の一つだ。


「はぁ……」


 少女は強い。少女の毒疫(どくえき)の魔法は強い。

 だからこそ、サピエンスたちは少女を勢力拡大の障害と定めて、こうして襲撃を行っているのだろう。


「はぁ〜……」


 けだるげに吐息を漏らしながら、紫涎をきゅっきゅっと磨いていく少女。


 今のところ彼女たちを襲ってくるのは、いわば斥候兵(せっこうへい)たち。威力偵察を主な役割としているため、あまり強くはない。

 以前闘った枝角鹿(ブランチホーンディア)のような強者と闘いたい少女にとって、彼らはいささか退屈な相手なのだ。


「はぁ〜」






 この日の夕方。


 狩りを終えた各々が、食材を持ち寄って焚き火を囲んでいた。


「ウジョ」


「うんうん、おいしい」


「シュ~」


 骨付き肉をかじりながら談笑する少女たち。

 どうやら今日は豊作だったようだ。蛮猪(バーバリアルボア)の肉に、たくさんの果実、毒草まである。

 ちなみに、毒草は少女の好みのおやつ。


「カキュカキュ」


 蜘蛛が葡萄(ぶどう)のような果実の皮を、少女のためにせっせと()いている。


「ウジョジョ?」


「そう、さるはうんざり」


 サピエンスたちの相手が続いて疲労気味の少女。蜘蛛はそんな彼女をじっと見つめていた。


「カキュ……」


 その時、蜘蛛の六つの眼の奥底に赤い光が灯った。

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