11 乙女と下着と鉄拳制裁
「ウジョウジョ」
「あ、これって……」
蜘蛛が持ち出してきた、杖にぴったりな素材。それは少女の腕ほどの長さをした、立派な二本の角だった。
そう、これは少女が昨日仕留めたブランチホーンディアの双角である。
以前、仕留めたバーバリアルボアを、少女が肉のみならず、骨まで平らげてしまったのを見た。獲物は骨の髄まで余さず活用するという、少女たちの考えが表れた行動だった。
少女の手元にディアの角が残っているのも同じ理屈。
少女の魔法によってディアの身体の大半は消し飛んでしまったが、頭部は無事に残っていた。そのため、使い道が見いだされるその時まで、少女たちが保管していたのだ。
そして時はきた。これからこの角は、少女の戦杖へと生まれ変わる。
自分を討ちとった強者(しかも可愛い少女である)の武器になれるのだ。天国のディア君も、きっとにっこり笑顔だろう。
少女の戦杖へと生まれ変わる、名誉な素材たちを紹介しよう。
その一、主役となるブランチホーンディアの角!
その二、魔法の触媒である魔石!
その三、白蛇の脱け殻!
以上三つである。
ちなみに魔石というのは、魔獣の体内で結晶化した魔力の塊のこと。体内に魔力が飽和したときに生まれるらしい。
そのため、大量の魔力を扱える強い魔獣からよく発見される。
そして、百足が素材の紹介を終えたその時――
「シャァァー!!」
ドガァッッ!!
「ウジョォァ!!」
なんと、百足に向かって蛇が殴りかかったのだ!
百足に向かって振り下ろされる、魔法で生み出された光の拳。さらに蛇自身も肉弾戦を仕掛け、尻尾をつかった往復ビンタを繰り出している。
その様子にあっけにとられる少女と蜘蛛。
「なにあれ」
「カキュ……」
どうやら蛇は『どうしてわたしの脱け殻を使おうとしてるんだ!』と怒っているらしい。
それもそのはず、彼女たちにとって脱け殻というのは、使い古して捨てた下着のようなものなのだから。
百足が彼女の脱け殻を使おうとしているのは、白蛇のそれには触媒としての高い価値があるからなのだが……。
さすがに、本人に断らずに使ってしまうのはいただけない。
鉄拳制裁やむなしである。
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