1 とある国の不気味な話
おや、お前がこの酒場に顔を出すなんて久しぶりだな。
ああなるほど、長期の護衛依頼を受けていたってわけか。商隊の護衛なんかになると、平気で半年くらい拘束期間があるからな。
ここ最近、冒険者ギルドでお前を見掛けなかったことにも納得だ。
ということはお前、もしかして依頼の報酬を受け取った直後で懐がかなり温かいんじゃないか?
それならばどうか頼む、俺に奢ってくれやしないか!
実は先日の依頼を無様に失敗しちまってな、その詫びとして依頼主に金を支払ったせいで、今はほとんど一文無しなんだよ。
いや頼むよ。本当に頼むよ。同じ冒険者としてのよしみってもんがあるだろ? ほら、もし奢ってくれるなら面白い話を語ってやるぜ。ああ、酒の肴にもなる話だ。
おおマジか! マジで奢ってくれるのか! いやぁ、ダメ元で頼んでみてよかったぜ! 頼んでみるもんだな!
この恩はいつか必ず返すからな! ほら、ダンジョンに潜る時とかに優秀な治癒術師を紹介してやるよ。
そうだよ、最近噂になってる例のめっちゃ美人な神官のお姉さんだ。一緒にパーティーを組めば、お近づきになれるチャンスだぜ?
そうだそうだ、酒の肴に話をするんだったな。もちろんそっちも忘れちゃいないぜ。
よっしゃ、いっちょ俺の語り口を披露してやるか。こう見えてもガキの頃は吟遊詩人に憧れてたんだぜ。
え、似合ってないって? いいから黙って聞きな!
西大陸には不思議な国があるらしい。
その国には七つもの王家が存在していて、それぞれの家の出身者たちが、次代の王となるために日々競い合っているんだとか。
その競争の中で他の候補者たちを蹴落として頂点に立った者こそが、王の器量を持っていると認められるわけだな。
そして本題はここからだ。
その七つの王家の出身者たちは不思議なことに、例外なく太陽のように輝く金髪を持って産まれてくるらしい。
例外なくってところが重要だ。
昔、他国の王族を婿として迎えた女王がいた。
彼女は夫との間に二人の男児と三人の女児を設けたが、その全員が金髪であったそうだ。夫の黒髪は欠片も引き継がれなかったんだ。
他にも、王家の生まれでありながらも家を出て、庶民の男と愛を育んだ女がいた。彼女は入念に髪を染めることで自身の出自を誤魔化し、庶民の生活に溶け込んでいたそうだ。
しかし二人の間に子供が産まれた時、その子の眩しいくらいに輝く金髪を目にした夫は、遂に妻の正体が王族だと勘付いてしまう。
身分の差を憂いた夫は姿を消し、妻は孤独から心を病んで子供と心中した。
金髪にまつわる、こういう類の話が山ほどあるんだ。話からも分かる通り、他家の血を取り入れても産まれる子は絶対に金髪。金髪は絶対的なんだ。
その国が建国されてから、ざっと三千年が経っている。その長い歴史の中で、王家であろうと少なからず他家との混血だって進んでいるはずだ。だというのに、金髪の絶対的な優位性は薄れない。
もはや遺伝だとか、そういう次元の話じゃない。不可思議な力が働いている、そう感じないか?
奇妙なのはそれだけじゃない。
七つの王家に産まれる赤ん坊は、母親の胎から生まれ落ちた時には既に、長い金髪が綺麗に生え揃っているそうだ。そんなこと普通は有り得ないだろ?
赤ん坊たちは自身の金髪にすっぽりと包まれて産まれてくるんだ。まるで蟲の繭みたいにな。
どうだ、面白かったか? そうか、酒が進んだなら幸いだ。もしかすると俺にも語り手としての才能があるのかもしれないな。
どうだ、俺も冒険者としては万年底辺のままだし、そろそろ本気で転職を考えてみてもいいのかもな。
おや、その『とある国』ってやつの国名を教えろって?
そうかそうか、気になるか。お前も随分とこの話にのめり込んでくれたようだな。嬉しいぜ。
いいぜ、教えてやる。西大陸の沿岸部に栄える黄金と名誉の国グゴーリア・ヘプターキーさ。
大幅に改稿しました。