ep41 自己紹介
本決まりとなったクラスでの初日。
担任は自己紹介を促してくるが・・・
教室の扉が開く。
30前半だろうか、身なりを整えたインテリ風の男性が教壇の上に足を進める。
教室内をグルリと見渡し
全員が席に着いた事を確認すると男は、
少し不機嫌そうに話し始めた。
「あ〜。私がこのクラスを受け持つ事となったモルデンナート・ダイスローブだ。
名前から分かるだろうが、偉大なるダイスローブ侯爵家の出だ。
私は能力を買われ、
優秀な君達に明るい未来を歩ませる為に、
是非とも力を貸してほしい!
と懇願されたので引き受ける事にした。」
クラスの子供の家は伯爵以下の爵位であった為、
自分を優位に見せようとしているのが見え見えだった。
「そんな私が受け持つクラスに何故雑草が生えてるのか理解し難い。
だが君達との能力差に、いずれ枯れ果てるだろう。」
モルデンナートがこの学園の卒業生なのは
今の発言でよく分かった。
制服の色で雑草と言う言葉が出るのは卒業生でなければ出てこないからだ。
今までAクラスに一般人が入る事は無かった為に
学園はモルデンナートをAクラスの担任にしたのだろう。
しかし今年は運悪くエクスが高成績で入ってしまった。
今更変更する事が出来ず今に至るのだ。
「今日は各々自己紹介をしてもらう。
必ず家名と爵位を言うように。
では、名前を呼ぶので呼ばれた者が発表しなさい。」
名前を呼ばれた者からと言う事は
エクスを最後にするか、
忘れた事にして発表させる気がないのかのどちらかだろう。
わざわざ家名や爵位を言うようにと念を押した事や、
雑草と言った事から、推測できる。
しかし、そんな事よりエクスには気になっていた事があったのだ。
癖っ毛でそれらしく見えるのはいるが、
貴族の女のコ達に縦ロールが居ないのだ!
ドリルとも言われたその髪型を見たくてワクワクしていたエクスには
絶望とも言える焦燥感が漂っていた。
(異世界モノあるあるじゃないのか!
縦ロール無くして何が異世界だ!
ツインドリルは悪役令嬢かヒロインの二択になる程の必須アイテムなのに!)
うなだれるエクス。
それを見たモルデンナートはニヤニヤと含み笑いを浮かべた。
ひと通り自己紹介が終り、予想通りにエクスが残された。
スカイとルードはモルデンナートの意図を察し、ソワソワしている。
「あ〜それでは、、。
おっと!色が違うので忘れる所だった。
エクス、、、あ〜家名は無いのか。
フルネームは言ってしまったが、他に言う事が有れば、発表しなさい。」
「別にありま、、、」
エクスの言葉を遮りスカイとルードは口を揃えて発言した。
「「エクスはロンフィール伯爵に叙勲されてるんです!」」
教室はざわつき、モルデンナートの笑みが消える。
王家の者以外の子供は、家を継ぐまでは一般人と変わりない立場なのである。
ただ親の威光や将来の事もある為、
子供達は親の爵位で上下関係が出来上がるのであった。
伯爵から直に叙勲されたエクスは
この教室の誰よりも立場が上となるのだ。
モルデンナートは家が侯爵家であろうと、
ただの一教師である。
しかも将来性で言えば子供達の方がいずれ家督を継ぐ可能性が有り、
この時点でモルデンナートは一番低い立場となったのであった。
ざわつきを抑える為にもエクスは自己紹介を始めた。
「エクスと言います。僕はエルマー王国出身で、
とある事情からロンフィールに住む叔父さんのトコへ身を寄せました。
そこである発見をして、伯爵様から功労勲章を叙勲されました。
高等科への進学も考えているので一人で王都まで勉強しに来ています。
皆さんには失礼の無いよう努力するつもりですので、よろしくお願いします。」
当たり障りのない自己紹介で済ませようとするエクス。
モルデンナートの行いに腹を立てていたスカイはそこに続く。
「エクスは僕のお父様、ブルーフォレス伯爵に気に入られて
僕と対等の立場も授けられたんですよ。」
その言葉にルードも続く。
「つまりエクスにはブルーフォレス家とロンフィール家がついている。
僕の友達だからフォルパディ家もエクスについてるからね。」
スカイとルードはモルデンナートを睨みつけた。
「あの名高いブルーフォレス伯爵に認められた?」
「お父様にこの事を知らせないと、、。」
そんな声が教室を駆け巡る。
侯爵家の名前で子供達を従わせ、
一般人を叩く事でクラスをまとめようと画策したモルデンナートは
意気消沈となるのであった。
「あ〜、、。エクス君ありがとう、、。
今日は顔合わせの日でしたので、
本日はこれでおしまいとなります。
皆さん気をつけて帰って下さい。」
モルデンナートは肩を落とし早々と教室を後にした。
クラスの子供達も親に話すべくバタバタと退室するのであった。
「エクス!あそこはガツンと言わないと駄目だよ!」
「そうだよ!貴族は舐められたらおしまいなんだからね。」
「いや、僕は貴族じゃないし、目立ちたくなかったんだよ。」
「モルデンナート先生のやろうとした事分かってる?」
「まぁ予想はついてたしね〜。」
「それでもこのクラスでやってくには言わないと。」
「周りは貴族しかいないんだからね!」
「分かったよ。肝に命じておくから。
でも、二人が助けてくれるんでしょ?」
エクスはニッコリ笑った。
「「当たり前でしょ!」」
スカイとルードは声を揃えて返したのであった。
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