ep32 功労勲章
領主邸に呼ばれたエクス
極度の緊張の中面会が始まる。
エクスは緊張していた。
右手と右足が同時に出るくらい。
造った笑顔が気持ち悪いくらい。
無理に伸ばした背中がツるくらい。
ロンフィール領、領主邸の応接室にエクスはいた。
「バリス叔父さん!もう1度聞きますけど、
僕は絶対に来なければならなかったのでしょうか?」
「ロンフィールの領主に呼ばれたら来るのは当たり前だろう。
文字伝達の魔道具借りるのにも迷惑かけてるし、
特許やら商品開発やらで名前が歩きすぎたんだよ。諦めよう。」
「う〜。ホントに吐きそう。」
いつもならシロガネを撫でて心の均衡を保つため冷静でいられるが、
今回はシロガネを同伴出来なかったので、心のやり場が無くテンパっているのだ。
因みにシロガネは家でお留守番をしている。
執事が扉を開ける。
「領主様がおこしになりました」
金の装飾が奢られ白を基調とした礼服を身にまとった男性が入室する。
バリスは片膝をつき頭を垂れる。
エクスは見様見真似でそれに習う。
「バリス。今日は非公式だから仰々しくするな!
少年も頭を上げろ。今日はヌシが主役なんだからな。」
バリスとエクスは頭を上げた。
「今日来てもらったのは他でもない。今回バリスの店で売り出した商品の事だ。」
「はい。この度の商品開発につきましては、ここにいる私の甥、
エクスがゴブリンの死後特性を発見し、作り上げたものにございます。」
「ああ。聞いておるぞ。
エクスはあの追放されてきた少年だそうだな。
よくぞここまでたどり着いた。」
「はい。僕の事で大事な魔道具を使わせていただいたようで、大変感謝しております。」
「よい。そのおかげで良いものを発明してくれたようだしな。
で、バリスよ。売り切れが続くような商品を開発して儲けているようだが、
便宜を図った私に何か手土産の1つも無いのか?」
エクスは慌ててアロマキャンドルと石鹸を取り出す。
「遅くなりましたが僕が開発した商品です。是非お納めください。」
「おお!エクスよ催促したようでスマンな。
バリス!お前よりエクスの方がしっかりしてるんじゃないか?」
「面目ないです。エクス君は5歳とは思えない程の利発な子供でして。」
「うむ。そんな子がこの国に来てくれたのは喜ばしい事だ。
エルマー王国は悔しがるだろうな。」
「この商品が出回れば直ぐに愚行だったと気付くとおもいます。」
「して、エクスよ。ロドスから聞いたが、
この商品を我が領土の特産物にすると聞いたが、構わぬのか?」
「はい。領主様への恩義もありますし、バリス叔父さんへの恩もあります。
生産地として委託したいと思います。」
「うむ。そうか・・・。
では領土発展に寄与したとしてエクスに金貨50枚と功労勲章を授けよう。」
「く!勲章ですか?」
「ああ。国ではなく領主からだからそんなに凄いものではない。
まぁ一般市民よりランクが上がる位だから重くかんがえるな。」
「あ、ありがとうございます。」
「よいよい。それだけの貢献をしたのだ。胸を腫れ。」
「は、はい。謹んでお受けいたします。」
帰路につくエクスは呆然としていた。
緊張から開放されたのもあるが、叙勲の方が呆けさせる事案だった。
たかが勲章と思う人もいるが、実際は領主が認めた証であり、
領主の後ろ盾が有ると証明するものでもある。
だが逆に行動1つで領主の顔に泥を塗る事もあるのだ。
追放されこの地にやって来たばかりの5歳児の行動を信頼したと言う事。
その信頼の重さと決断力に圧倒されたのだった。
「重く考えるなって無理でしょう、、。」
「エクス君はそう考えると思ったからこそ信頼して頂けたんだろうね。」
「うえええ。潰されそう〜。」
少しでもおちゃらけて気を紛らわせるエクスであった。
「そういえばエクス君、店で話題になってたんだが、
あれは何の花の香りだと思う?」
「あ、それ僕も気になってたんですよね。
香りを増やしたいと思った時に、そもそもこれは何の花の香り?って思って。」
「そうか、エクス君にも分からなかったか。
花と分かるのにどの花か分からないモヤモヤを解消したかったんだが。」
「あ〜気持ち解ります。
お客さんからも多分質問来ますね。」
「いや、もう来てるんだよ。
作った人に聞かないと分からないって誤魔化してるんだけどね。」
「心步凛花とか名前付けちゃいましょうか。
ゴブリン油の名前をそうすれば間違いでは無くなるし。」
「ゴブリンの油の匂いですとは言い難いしなぁ。
名前を心步凛花か・・・。
幻の心步凛花の香り!ってポップに書けば問題ないかな・・・。」
「後はまだ予想上の話なんですが、
あの花の匂いって全ての花に共通する匂いじゃないかと思うんです。」
「・・・言われて見ると記憶のどの花にも有る匂いかも知れない。」
「世界中の花の香りで世界花って名前はどうでしょう。」
「うん!何かシックリくるね。
全ての花の香りを持つ幻の世界花の香り!
うん!納得出来る香りと名前だ。それで登録しよう。」
「は〜い。お願いします。」
エクスの予想では、ゴブリンが造られる時の星の記憶に有る生態情報に
花や植物の情報が紛れ込んでいるのではないか。
そのせいで花の香りがしたり、他では見られないゴムの様な肉を持ってるのだろう。
と言うところまでで止まっている。
解明する手段が無いので止まったままなのである。
「少しぐらい謎が有る方がワクワクしていいよね。」
エクスは自分に話かけるのだった。
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