ep19 オーク戦
次の街に向かうエクス。
会話の弾む馬車に起きた出来事とは。
30分程だろうか。
2人の乗る馬車は軽快に進んで行く。
流石に歩きとは違って馬車は早い。
早いと言っても若い人が走る位ではあるが。
もちろん馬単体で全速力で走ればもっと早いのだが、車を引いて半日も全速力で走れる訳もなく、小走りで負担のかからない速度をキープするのが一番効率が良いのだ。
寒空の下、馬の背中から湯気が登る。
「馬から湯気でてるよ。疲れたんじゃないかな」と聞いてみると
「いやいや。軽く汗かいてるだけだよ。
寒い時期はこのくらいが『ようやく体があったまってきた』って感じで馬にとっちゃぁ一番良い状態なんだよ」
なるほどである。確かに街を出たときにはゆっくり歩いてた。
馬の体があったまってきたから小走りにスピードを上げたのだ。
人の都合で走らせるわけだし冷えきった体の馬を酷使すれば直ぐに故障してしまうだろう。
馬は頭が良く、こうやって馬の事を気遣ってやると、きちんと理解して一生懸命働いてくれるのだ。
「馬さん頑張って!」
声をかけると「ブルッ」と鳴いて尻尾を左右にパシッパシッと振った。
「良かったなぁボウズ。気に入られたようだな。」
「うん!答えてくれた!」
一人ぼっちになったエクスには、この一つの繋がりがとても嬉しかった。
「おや?ありゃ何だ?」
道の先に何かが止まってる。
「おいおい!ありゃ馬車の荷台じゃねぇか!」
道のど真ん中に止まっており御者も馬もそこには居らず、血の跡だけが生々しく残っていた。
「盗賊にでも殺られちまったか?」
「ねえ!あれ見て!」
そこには獣の足跡があった。
しかも4本足の跡ではなく、2本足の跡だ。それも5体程だ。
「こ!この足跡はオークじゃねえか!!」
オークとは豚に似た頭部を持つ2足歩行の魔獣である。
雑食性で動く物は何でも食うと言われ、通常は森の奥に住んでおり、
背丈は2〜3m程で筋肉質な相撲取りのような体格をしている。
一般的に食うと言われてるが、他の魔獣と変わらず魔素が有れば生きていける。
では何故食べるのかと言うと、大気中の魔素を肺から取り込む事が出来ず、魔力(魔素)を持つものを食らって胃から吸収するのだ。
食べたものを消化して栄養とするわけではないので、何を食べても構わない。
喰らい尽くす魔獣なのだ。
「こいつはヤベえな。一旦引き返してギルドに報告するか。」
「道も塞がってるししょうがないよね」
そう。
道が塞がってるのだ。
違和感が拭いきれない。
常時サーチを使っているが、気配は無い。
(もし、もしもだ。頭の切れるヤツが居て、僕がサーチをしてるのを勘づいたとする。僕より広範囲の索敵能力を使ってだ。
そんな人間を食べるには、、、)
(道を塞ぎ逃げ道を無くし、、、後ろ?)
気付いた瞬間エクスのサーチに後方から迫る5体の反応が現れた。
「後ろから5体!敵が来ます!!」
「なにぃ?周りは森だし逃げられねぇぞ!」
「僕がヤります!さがって下さい」
戦闘態勢に入り魔力循環を早めるエクス。
その巨体から想像も出来ない静けさで迫るオーク。
中央に2体、その後ろに強い反応の1体、左右に回り込む2体。
統制が取れている。真ん中の1体は上位種だろう。
多分敵は両サイドが同時に来る。
片方に対応されればもう片方で背後から攻撃。
後ろは荷車で行き止まり。
前に逃げれば前後で挟み撃ちだ。
しかもこっちは1人子供がいる。
親玉オークは薄気味悪い笑顔を振りまいていることだろう。 だけど、
「甘いんだよ!」
胸の前でクロスしたうでを振り払うかのように左右に両手を広げる。
無詠唱で前方にウィンドカッターが放たれ、広がった両手の先から左右にアイスランスを放つ。
そのまま前方に飛び込み両手を戻しがてらアイスブレードを発動。
アイスランスは左右のオークの胸に突き刺さり、その後方の木に張り付ける。
アイスブレードはウィンドカッターを凌いだ前2匹を切断した。
残ったのは真ん中にいた上位種のジェネラルオークだけだった。
エクスは見上げながらヤレヤレといった顔をしてこう言った。
「親玉オークさん。薄気味悪い笑みは収まりましたか?
子供だと思って舐めるからこうなるんですよ。」
無論言葉は通じてないが、馬鹿にされたのは分かったようだ。
怒り狂い叫びながら大剣を振り上げるジェネラルオーク。
その腕を刀で斬り落とす。
ジェネラルオークは何が起きたのか理解出来ない様子でエクスを見た。
「叫ぶ時に敵から目を逸らすなんて、やっぱりタダの豚だったんだね。」
エアバレットを溝内に叩き込み、前かがみになったところで首を切断した。
エクスは刀を斜め下に振り抜く。
刀に付いたオークの血が半円を描きながら地面に飛び散った。
「またつまらないモノを切っちまったぜ」
刀所持者の一度はやってみたい事堂々第一位、二位をやってのけたのだ。
と言うか、これの為にわざわざ刀を使ったのだ。
言葉遣いが変わったのもなりきっていたからである。 5歳である。
「ボウズ!!大丈夫か?オークはやっつけたんか?」
「うん!全部やっつけたから心配いらないよ。」
「疑ってたわけじゃね~けどホントにツエーんだな。ボウズ!
街の冒険者のツエー奴、何人もいなきゃ倒せねぇんだぞ普通。」
「でしょ〜。」
「つ〜かよ!あれ使ってたろ。あれ。・・・刀ってやつ?
ありゃ魔道具じゃねぇんだろ。
ボウズはその辺の大人よりツエーじゃねぇか。すげぇよ!」
「そうかな?フヘヘ」
照れながら頭を掻く
「ねぇ。それよりオークは倒したけど、これからどうするの?
荷車なら吹き飛ばして退かす事も出来るけど。」
「いや。一旦戻るしかねぇなぁ。状況報告の義務があるからなぁ。
荷車も証拠だし、他にオークの群れが居ねぇとも限らねぇ。
この道を閉鎖して2-3日調査する事になるだろうなぁ。」
「えぇ?2-3日?、、、僕ここで降りて先に行ってもいいかなぁ。」
「あぁ。急いでるんだもんなぁ。
かまわねぇが・・オークを倒した証拠が必要になんだよ。」
「そっかぁそうだよね。
じゃぁ右の牙取ってくるから、それで証拠にならないかな?」
「ん〜冒険者の討伐依頼でもそんな感じらしいから大丈夫だろ。」
「じゃぁそうしよう。」
エクスはオークの牙を取り、残りをインベントリに入れた。
「はい!これ。」
「あんがとなぁ。後はこっちでやっとくからよ。」
「ごめんね。お願いします。」
「いやぁボウズは命の恩人だし、乗っけてってやりたかったんだが、スマンなぁ。」
「ううん。オジさんも急ぎだったのに僕だけゴメンね。」
「ボウズは将来スゲェ冒険者になりそうだな。
なんかあったら言ってくれ。何時でも助けに行くからよ。」
「えぇ、ヤダ!僕はのんびり楽しく暮らしたいの。冒険者なんて危険な仕事はやりたくない。」
「ガハハハ!そうかそうか、ボウズがそれを言うか! まぁ先の事は誰にも解らねぇからな。」
「僕は本気だよ!」
「あぁあぁ。
ボウズ。名前、エクス、、だったか?
気をつけて行けよ。早く叔父さんに会えると良いな。」
「うん。ここまでありがとうね。
馬さんもここまでありがとう。」
「ブルルッ」
「あぁまたなエクス。」
馬車はもと来た道を帰っていった。
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