ep16 国境
あらから数日
幾度と戦い、いくつかの街や村を巡って王国最東端、国境の港街アプシーに辿り着いた。
エクスの向うジーポングはここから船に乗り、更に東へ向かった島国である。
「生きてここまで来れたんだ。」
自分の強さ、魔獣の強さ、冒険者の強さ。
全てが未知数だったこの旅が一つの区切りとなる国境に着いた事で安堵感が湧き出てきたのだ。
実際はエクスの戦闘能力が桁外れだった為、ヒヤリとする事すら無かったのだが、
それでも5歳の心は生と死に直面した重圧感がのしかかっていたのだ。
ジーポングとの交易で栄えるこの街は商人の数も多く、
東の貿易拠点として巨大な街を形成している。
街への出入りも多く、数多くの門番が忙しそうに対応しているが捌ききれずにいた。
列は5つ有り、貴族用、商人用、馬車用、冒険者用、一般用となっている。
一般用に並び、1時間ほどしてようやく順番がまわってきた。
「お前が噂の少年か。とうとうここまでたどり着いたのか。凄いじゃないか!」
追放者が街や村に入ると王都に連絡する事になっている。
どうゆう連絡手段かは知らないが、
ほぼ1日毎に街から街に移動していく一人の5歳児に王都はもちろん各街、村で話題になっていたようだ。
挙げ句に何処まで行けるか賭けをしていた人もいたらしい。
娯楽の少ないこの世界では、最高のエンタメだったようだ。
「何とか生きて辿り着けました。」
笑顔で答えるエクスだが、内心5歳児の生死で賭け事するなよ!と苛立っていた。
船が取れたら早々に出国するよう言われ街に入る。
門をくぐるとビッシリと建物が並び、所狭しと人が行き交う。
「ふわ〜・・・」
思わず声が漏れる。
王都よりも人口密度が高く、忙しなく人が動いている。
5歳の目線では自分の倍近い障害物が動き回っているようにしか見えない。
「取り敢えず港まで行って船の乗船券を買わなくっちゃ」
道の端を人混みを避けながら海に向かって進んで行くと目の前に大きな壁が広がる。
乗船券売場の文字を見つけ、その建物の中に入った。
「いらっしゃいませ・・・・ボク、お父さんかお母さんは何処にいるのかな?」
辺りを見渡しながら案内の人が声をかけてくる。
枷を見せながら自分の状況を話すエクス。
「かしこまりました。それではソチラにお並び下さい。」
一瞬驚いた顔をした案内の人は、すぐさま営業スマイルに戻り丁寧に案内をする。
流石国境の港街である。
その対応に感心しながら列に並び受付を済ませる。
出発は30分後で乗船は始まっているらしい。
せめて一晩だけでもゆっくりしたかったが、わがままを言える立場ではない。
乗船場所を聞き向う事にした。
出国用の港は街の外壁と同じく塀に囲まれている。
この塀の向こう側はもうエルマー王国ではないのだろう。
国境と言う塀は見た目以上の高さに感じ、
家族との絆がここで途切れる事を実感させられた。
入口に着くと係員が手招きをしてきた。
係員の元へ向かうと枷を見せるよう促してくる。
受付から連絡が有ったのだろう、その係員は、さも当然のように枷を解除する魔道具を使い呪文を唱える。
魔石から放出する魔力に枷が包まれた瞬間
エクスの枷は音もなく開き床に落ちた。
「国外追放の裁きは今ここで終了とする。
此処から先は他国の一般人として生きていくがいい。
しかし、10年間は戻る事が許されない事は肝に銘じておくように。」
その言葉に涙が溢れてくる。
心の枷も外れたかのように、溢れる感情が抑えきれずエクスは涙したのだった。
係員はエクスの頭をポンポン叩き、
「さぁ行きなさい。君の未来への船旅は此処から始まるんだ。」
少しポエムチックな恥ずかしい言葉に妙に納得しながら
「はい。行ってきます。」
と、笑顔で答えた。
船が出港する。
片道6時間程の船旅だ。
船尾で小さくなるエルマー王国を見届けた後、船室に設置された浴室に行き体と服を洗う。
この船には石鹸が常備されているのだ。
王都を旅立った時に浄化の魔法は創ったのだが、石鹸で洗うのは気持ち的に違うし、多少良い匂いがするのは心地良い。
4時間位仮眠を取り、甲板に向かった。
夕闇が海を黒く染めている。
その遥か先に明かりが見え始めた。
「ジーポングが見えたぞ!」
船員が叫ぶ。
それを合図に着港の準備で慌ただしく船員達が動きだし、船は大きく3回汽笛を鳴らした。
明かりの方からも音が聞こえる。
着港の合図だろう。
客室に行き荷物を整理するエクス。
インベントリとアイテムバッグの入れる物に頭を悩ませながら、他人から見て違和感の無いように整理する。
「港に着くぞ~」
船員の声が聞こえた。
エクスは下船口に向う。
船室の扉を開けるとそこには驚くほどきらびやかな港の風景が広がっていた。
アプシーも凄かったが日没後と言う事もあり、光り輝くその風景に正に絶句するのだった。
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