ep15 冒険者
自分の体に何が起こっているのかを知ったエクスは気持ちも新たに東への進む。
昨晩の考察が長かったため少し寝不足なエクス。
しかしその顔は晴れやかで、その胸のつかえは無くなっていた。
軽めの朝食を取り昨日の冒険者が居た開けた場所に行ってみる。
もうそこには姿はなく、焚き火の跡は冷たくなっていた。
「早いな。」
夜に採取し易い物を取りに来てたのか、はたまた何かあったのか。
気にしても仕方がないと先を急ぐ事にする。
色々あって気にする余裕もなかったが、初めてこの世界の街の外を旅する新鮮さを実感する事ができた。
「気分が違うとこんなにも変わるもんだな」
白い息が朝霧に溶け込んでいく様子を見上げながら、そう呟いた。
その後2度戦闘をし昼を過ぎる頃、
血の強烈な匂いが森の奥から漂ってくる。
エクスはその匂いをたどり、森の奥へ入っていく。
すると、あの時の冒険者の1人と思われる遺体を発見する。
首はもげ、四肢は散乱している。
ウルフの多い街道沿いで現われそうなパワー型の魔獣とすれば多分ベアーであろう。
出会い頭で頭を一撃されたようだ。
夥しい量の血液の色はまだ酸化しきっておらず、
1時間位前ではないかと思われる。
種類によるが一度人を狩る事を覚えると喜々として人を狩るようになるので注意が必要だ。
獣と魔獣の違いだが、獣は地球と同じと考えていい。
魔獣は一般的には突然出現する獣で殺戮を好み、決して人と相容れず、
子を成す事もない。
生きる為に食事をする事はなく、獲物を噛み砕き、引き千切る事を快楽としている。
その姿形は獣のそれで、白目の部分が赤く染まっている。
充血の赤さではなく赤色なのだ。
魔人もそうだが何故人や獣と同じ見目をしているのかは謎とされている。
個人的な考えだと、この世で生きた人や獣の生体情報が星の記憶として残されており、魔素から生成される時に設計図の雛形として使われているのだろう。
冒険者の遺品をアイテムバッグに入れ、サーチを使い近くの魔獣を探る。
強い反応を追いかけると案の定レッドベアーがそこにいた。
返り血で赤黒くなっている。
魔獣は上位種になればなるほど魔素の動きに敏感になる。
それを利用しエアバレットを放ちダッシュする。
レッドベアーは即座に感知し振り向きざまに頭部に向かうエアバレットを避けつつ、
状態を崩しながらも視界に入るエクスに反撃を開始する。
レッドベアーの一撃必殺だった人の首をふき飛ばすほどの張り手はスピードが乗らず、エクスの両手から展開されたアイスブレードでその腕と太い首は切断された。
駆け抜けたエクスの背後で血の降る音と共に巨体の倒れる音が響いた。
「上位種でもこんなものか」
その後の展開まで予想していたエクスは、少し拍子抜けした様子で呟いたのだった。
レッドベアーを収納し、また次の街にむかうのであった。
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夕方に次の街に到着する。
前回の領都と同じく明日の朝一での出発を命じられた後で
冒険者の遺品を持って来た事を伝えた。
すると門番は顔色を変えて
「ちょっとまってろ」
と言った後、他の門番を走らせた。
しばらくして一人の女性が現れる
「ねぇ君、遺品を持っているって本当?」
「ええ。多分この街の方かなって思って。」
「そう、、、私この街のギルドで働いてるんだけど、そこで遺品の提出と見てきた状況を話して欲しいんだけど。いいかな?」
「わかりました。良いですよ」
ギルドとは日本のハローワークみたいなもので、そこに冒険者と言う職業がくっついた
と思えば分かりやすい。
ただ、冒険者自体は何でも屋的な意味合いも含まれている。
「じゃあ私について来て」
エクスは女性の後を小走りでついて行った。
「ここがギルドよ。さあこっちこっち。」
裏口から通され2階に上がり、突き当りの扉を開いた。
そこにはオールバックのインテリっぽい中年が座っていた。
「ここまで来てもらって申し訳ない。私はこのギルドでギルドマスターをしている者だ。
まず遺品の方からお願いしようかな。」
「はい、分かりました。えっとこれです。」
エクスはアイテムバッグから遺品を取り出す。
「おお!アイテムバッグ持ちか!そのバッグはどうしたんだい。
追放者には似合わない持ち物だが?」
ギルドマスターは片方の眉を上げてエクスを見つめた。
やっぱりそうなるよな・・と思いながら、これまでエクスに起きた出来事を王都を出た時までで話した。
「ロイ&マリーの子供だったのか。だったらアイテムバッグ持ちなのもうなずける。」
どうやら王都に呼び出された時にちょくちょく店に来ていたらしい。
「そうか・・・王も君を追放するのはためらっただろうな。
神の敵と断定するには尚早すぎる。
まあ教会との兼ね合いもあって死罪だけは逃そうとしたんだろうな。」
「はい、実際僕は生きていますから。」
「そうだな!よく生き残った。
でもどうやってここまで来れたんだ?魔獣に合わずに来れるはず無いからなぁ。」
エクスは本当の事を言うか迷った。しかしここで魔素の理論や魔石のヒビや欠けの事を言うのはリスクがあった。
モルモットにされ、最後は殺され、頭の魔石を検証をするとこまで行くかもしれない。
それほどこの理論や魔石の話は、街の、国の、世界の全ての人々の生活から常識まで
変えてしまうもので、ギルドマスターで止めておける話ではないのだ。
「父さん母さんに渡された魔導具で何とかウルフを倒せました。」
レッドベアーの事は伏せておいた。いくら最高の魔導具でも5歳が簡単に倒せるハズがないのだから。
「運が良かったなぁ。ベアーが相手だったら死んでたぞ。」
「僕もそうおもいます。」
その後、幾つか話しをした後 本題らしき会話になる。
あの死んだ冒険者は死亡保険に入っていたらしい。
身内は居なく、受け取り人はその仲間の冒険者だったらしいのだ。
首を突っ込みたくなったが、朝一でこの街も出なくてはならない。
見かけた時の事から体がバラバラだった事。その首がベアーに張り倒され千切れただろう事。見た事、考えられる事を細かく話した。
「そうか。良く分かった。長々とスマンな。
今からだと宿は埋まっているだろう。ここに泊まってけ。」
「ありがとうございます。」
エクスはそのまま一晩泊まらせてもらった。
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翌朝、ギルドが騒がしかった。
どうやら遺品の中に魔獣を誘き寄せる魔道具が有ったらしい。
コートに縫い付けられおり、魔道具を使用すると一緒に発動するようになっていた。
夕方にあそこの広まった場所に居たのは、
あの場所が『あの時間帯に冒険者が居ない』からなのだ。
街へ行く、街から出る冒険者が丁度寄らない場所だったらしい。
都合良くベアーの目撃情報もギルドに提示され遭遇確率が高かった。
もし他の冒険者が遺体を発見し、遺品を持って来るにしても
手入れもしてないボロボロの汚いコートは誰も持って来たりしないだろうと。
そこまで考えていたようだ。
あの日彼等は中堅どこの冒険者にしては珍しく採取依頼を受けており
森の中で一人になり魔導具を使うように仕向けたとの事だった。
悲しい事故と思っていたのに、仕組まれていたとは・・・
何処の世界も欲にまみれた人間って生き物は汚くて恐ろしい。
自分がそうならないよう気をつけなければ。と、心を正すエクスだった。
ギルドで魔石を買って貰い、そのお金で食料や身の回り品を買い込む。
「さて、行きますか。」
そう呟き、エクスはまた歩き始めた。
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