ep14 魔力細胞
今回はエクスがとある事をキッカケに、自分の体の謎を理解していく話です。
何度も書き直してますので、変な所があったらゴメンナサイ。
魔素の濃度が上がっていくのを感じる。
まとわりつくような大気が渦を巻くように集まっていく
銀河の星々のように、ゆっくりゆっくり。何かの意思が有るかのように。
目の前で高密度の魔素が大気中の粒子とリンクしていき、細胞が作られ、
更にそれらがリンクし合って個体と変化していく。
繰り返し繰り返しそして最終的に魔獣へと成形されていくのだ。
まるで何もない所から浮かび上がるように魔獣達は現れる。
神秘的でもあり、禍々(まがまが)しくもある魔獣誕生の瞬間だった。
エクスは自分の魔素理論が正しかったと言う優越感でしばし見とれていた。
半径100mに出現した魔物は6体。
ウルフタイプの個体で上位種も存在していた。
『アイスブレード』
手の先から1mほどの氷の刃を創り出し、
目の前に現れた1匹の懐に入り込む。
音もなく魔獣の首は切り離され
重力に引かれた頭部が落下し始めるより早く魔法を唱える。
『ウインドカッター』
切り終えた右手をそのまま後方に向け
真空の刃を扇状に放ち後方に現れた2匹の体をを分断する。
『エアバレット』
左手中指と人差し指を銃のように突き出し
前方から迫る3体の内の後方に位置する上位種に圧縮した空気を放つ。
『ウインドカッター』
『アイスブレード』
ウインドカッターで前2体の体を真っ二つにし、その横をエクスは駆け抜ける。
エアバレットが頭部に当たりのけ反る上位種の首をエクスは切り落とした。
この間『数秒』。その戦い方は高位の冒険者すら凌駕する立ち廻りだった。
「ふぅ~。魔素から魔獣が生まれるって考え、やっぱりあってたんだ。
しかしふぁ〜っと現れるのはカッコよかったなぁ」
6匹の魔獣を瞬殺したとは思えない的外れな感想だった。
「先を急がないといけないし、とりあえず魔石だけ取っておくかぁ」
倒した魔獣の魔石を取り出し残りはインベントリに放り込んだ。
空が薄暗くなり始めていた。やはり子供の歩幅では次の町には間に合わないようだ。
闇に包まれる前に寝る場所を確保しないといけない。
そう考えながら歩いていると小さく明かりが見えた。
開けた場所で冒険者が野営の準備をしているようだった。
エクスは木陰から様子をうかがう。
枷をした子供が森の中から一人で出て来たら警戒されるだけだ。
殺される可能性も考えておかないといけない。
中堅どころの5人パーティーらしいが身なりがパッとしておらず、
防具も整備しないで着続けているようだ。
魔導具でゴリ押しするだけの中途半端さが伺えた。
関わり合うとろくな事がないと感じ、500mほど戻り、そこで一晩明かす事にした。
太い木に登り魔獣に見つからない高さに枝で足場を作り幹に寄りかかって寝るのだ。
本当なら焚き火で暖を取りたかった仕方がない。
インベントリから温かい食事と熱湯の入った鉄容器を取り出す。
鉄容器は簡易的な湯たんぽである。
多分夜中は氷点下になるかもしれないので更に上着を羽織った。
食事も終え倒したウルフ達の魔石をぼ〜っと眺めていた。
「次の町で買い取ってくれるかなぁ
でも枷付き5歳児からまともに買い取ってはくれないだろうなぁ」
ブツブツ呟きながら魔石を色んな角度から眺めていると小さなヒビが入っていた。
「あ!これヒビが入ってる〜不良品だよ〜こんなの絶対に買い取ってくれないや!
しかも上位種の方じゃないか!運悪いなあ」
ため息を一つついた後、むくれっツラのまま眠ろうと目を閉じた。
?
??
「ちょっと待てよ・・・・」
「出現したばかりの魔獣だったよなぁ・・・
ヒビが入るような倒し方はしてないし。」
「魔石を取り出す時だって乱暴に取ったりはしなかった。
そもそも魔石は簡単に傷つかないしヒビも入らない。
魔石を加工するには専用の冶具が無いと
傷一つ付かないって言われてるぐらいだ」
「じゃあなんで?」
「頭の・・中で?」「中でヒビが入るには?」「物理的ではあり得ない」「内側からは?」「内側?高濃度の魔力が詰まってる。」「高濃度とは」「純粋な魔力つまり魔素」「魔石にはそれ以上の魔力が入ってる」
「高濃度を高圧縮してる?」「可能性は有る。」「何かの原因でキャパ以上の圧縮をした」「何かって何だ」
「何か?」
「頭に電気が走る・・・とか?」「とすると・・・」
エクスはその考え方で今の自分の状態が説明できる事に気がついた。
始まりは3歳の時。
鐘の音を聞いて脳に電気が流れる。
神父も言ってたが鐘の音は神の声。
3歳の男子には意味のない鐘の音は、それ以上の年齢を重ねた魂の記憶に対して
祝福を行おうとする。
しかし体は3歳なのでこの世界の理として祝福の拒否をした。
そのやり取りが魔力を入れすぎないように調整する器の機能を麻痺させ、限界値を超す魔力を吸収してしまい魔石にヒビをいれた。
それが脳に電気が流れた原因で、漏れ出した魔力が体の細胞を浸食しステータス値の異常をもたらしたのだろう。
そして5歳の祝福の時。
祝福を受けた時の身体の変化に普段からしている魔力循環が追い打ちとなり、膨大な魔力が魔石に吸収されたために負荷がかかり魔石のヒビの部分が破損したのだろう。
大量の魔力が一気に体内に流れ出し、激しい頭痛に耐えきれず意識を失ったのだ。
その大量の魔力に細胞が浸かりながら魔力循環をしていたために、魔力と細胞がリンクされた状態になり、例えるなら『魔力細胞』に進化したのだ。
魔力細胞は通常の細胞より耐久性、強度、修復力など様々な面を凌駕する。
長距離を歩いても疲れず、戦闘時の瞬発力は魔法を使っても出せないレベル。
思考の加速もそうだが、まだ何かありそうである。
魔力細胞になってもステータスの数値が変わらない事については
ステータスの測定は細胞の量や質、代謝効率から算出されるので
元の基本数値が表示されてもおかしくはない。
「これで全てが繋がった!」
魔力細胞論など未確定だが今回の事象が通常の細胞では不可能な事を考えると
あながち間違ってはいないのだろう。
「細胞が変わったって人は人だし。獣人だって亜人だって違う細胞持ってるしね」
多分心の何処かで引っ掛かったのだろう。
ただ今は全てが繋がる実際のことだろう仮説が導き出せた事で
久しぶりの本当の笑顔になっているエクスだった
今回も読んで頂きありがとうございます。
本業が1〜2週間ほど忙しいので、投稿は少なくなると思います。
お待ちいただけると嬉しいです。