ep12 東へ
エクスの今後はどうなっていくのか。
乞うご期待です。
快晴の空を見上げる。
一羽の鳥が仲間の群れを追いかけ北へ向かって飛んでいく。
「早く家族の元へ帰りなよ」
いつかその時が来る事を願って鳥と自分を重ね合わせるエクス。
あの一件から10日 東の果ての小国ジーポングとの間に有るエビライ領の領都に向かう荷馬車の荷台で揺られていた。
あの後ステータス鏡に表示されたのは、年相応の数値と見慣れたバグった文字。
神父様が危惧した最悪の結果だった。
その結果から死罪こそ免れたものの、最低でも10年の国外追放を命じられたのだ。
追放者に親族が付き添う事は禁止されており、
齢5歳の子供が一人で国外に行くには
少なからず神の加護が無ければ生き残る事は出来ない。
それでも未来の有る少年に少しでも生き残れる可能性、希望を残した国王の温情判決なのだ。
15歳で成人となるので、成人出来たら帰る事が許されると思えば分かりやすいか。
ジーポングではマリーの弟が商いをしていて、そこで面倒を見てもらう事になる。
なんとか生き延びる事はできそうだ。・・・もちろん辿り着ければなのだが。
荷馬車の主はアイテムショップロイ&マリーに納品に来た老夫婦で、話を聞き途中まで乗せて行くと言ってくれたのだ。
冒険者の護衛も3人いるので、行程の半分近くは安全に進む事ができそうである。
最悪な事態の中でも少しは運が有るようだ。
そこから先、エビライからジーポングはどうなるかは分からない。
もしものためにロイとマリーから渡された魔道具の使い方を何度も反復練習する。
子供の旅に大きな荷物は邪魔にしかならないので、渡された魔道具は小さく簡易的な物と最低限の荷物が入るアイテムバッグ。
それでも金貨何枚もする貴重品だ。
ジーポングにたどり着くかも分からない5歳の子供にそれを持たせたロイとマリーの愛情に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちがとめどなく溢れてくるのだった。
3日、4日と間に有る町や村に泊まり移動し続け5日目。
ようやく夕方頃にはエビライ領、領都フータリヌに到着出来る距離にきた。
冒険者達が荷馬車を止めるように合図してくる。
どうやら魔物が近くにいるようだ。
ここに来て初めての魔物である。
流石に王都近郊には殆ど魔物がいない。騎士団が定期的に討伐しているので
魔物や盗賊はほぼ遭遇しないのだ。
では何故護衛を連れてるかと言うと、高価な商品を輸送する時は当たり前として、
今回のように王都近郊以外で魔物や盗賊に遭遇する可能性。
片道だけ護衛が必要でも冒険者への依頼時に
互いの都合により往復依頼とすることがあるからだ。
100mほど先に5頭程の群れたウルフがいたらしい。
3人の冒険者は討伐に向かった。
何か引っ掛かる。嫌な予感が脳の回転を加速させる。
違和感はたった100m先の魔物と風向きだ!
『サーチ』
群れに対して風上から近づいているに獣が気づかぬ訳がない。
なのに気付かないフリをしている。なら答えは一つ 陽動だ!
『ウィンドカッター』
他に5体が後ろからこちらに向かって来てる。・・・近い!
ウルフは獲物を強襲する時、
森や草むらを60Km近いスピードで駆け抜け襲いかかる。
荷馬車の後方約20mの草むらからフルスピードで強襲してきたのだ。
視界に入った直後、ウルフ達はそのスピードのまま上下に真っ二つになる。
その体は惰性でグチャグチャに転がり、エクスの足元で沈黙した。
異様な感覚だった。思考よりも判断し行動することが先になってる感じだ。
例えば、思考から行動に移すまでの脳内のプロセスは
思考+言語化+認識+判断+行動の選択+行動の指示=行動 が通常の動きとすると
思考+判断=行動 が今の戦闘での思考だ。
思考をきちんと判断したのに、脳は認識するための言語化をしていて、
するべき行動をした時にはようやく脳が認識できた。
が、判断も行動の選択、指示、行動も終わった後なので脳が混乱しているのだろう。
エクスの一部始終を見ていた老夫婦は瞬きすら忘れ、見開いた目が乾く頃我に返る。
「い・・・今のは何の魔道具を使ったんだね?」
無理もない。5歳の子供が背後から突然現れた魔獣を瞬殺したのだ。
それだけの魔道具なら呪文も長いはずなのに出現直後の討伐。
2つ以上の魔道具の並列使用は魔力循環を覚えたての子供には無理だから
他の魔道具での索敵もあり得ない。
当然この世界で自分のMPを使い魔法を使うなんて思わないだろう。
「背後から来てたのはいつからわかっていたんだい?」
「呪文は何時唱えたんだい?」
エクスは苦い顔をしながら
「あ・・あ・ああ え・・えっと・・魔力循環をその・・3歳からやって・・」
その様子を見て老夫婦は『なるほど』な顔をして、
「そうか、早いうちから索敵して気づいておったんじゃな?」
「それで攻撃の魔道具も使えたと。」
「祝福で倒れたのも3歳から循環やってたせいだなこりゃ」
何やら勝手に話が作られて勝手に納得されている
下手に話を作る必要もなくて、楽だし納得してくれるし、
肯定さえしなければ後で何かあっても逃げられる。
人生の先輩が最後に取得すると言われる『答えを導くスキル』は
間違った答えでも『何となく正しい』と思わせる素晴らしいスキルである。
「変な目で見られてしまうので内緒にしておいてもらえますか?」
「大丈夫じゃ、誰にも言わんよ」
これで何とかなりそうだ・・・
冒険者達が帰って来た。ようやく戦闘が終わったようだ。
荷馬車の後方に散らばるウルフの死体に唖然とし、
「え?なんでウルフの死体がここに有るんだ?」
「いやいやウチ等だってすぐそこで戦ってたから、こっちで戦闘が有ればわかるだろ」
「気にして見てたけど3人で話をしてるだけだったぞ」
と混乱している。
老夫婦はすかさず、
「魔道具で一撃じゃよ。細かい事は企業秘密じゃ」
「・・・まあ無事だし良いか・・・」
「ワシらが襲われたのを気づかないなんて、依頼は失敗かのう」
「!!俺たちが群れを倒しに行く前に魔道具でちゃんと調べてるんだ
周りには他のウルフはいなかった。本当なんだ。勘弁してくれ!」
「冗談じゃよオヌシらの事は信用してる。
多分索敵の範囲外だったんじゃろう。」
「すまない。俺たちも3人ではなく、1人残して2人で行くべきだったよ。反省する。」
(まあ、普通は全員でゾロゾロ行かないよね)
素材を回収し、領都フータリヌへの道を進むのであった
読んで頂きありがとうございます。
また来てもらえると嬉しいです。