奇妙な村
その村はとても奇妙だった。
と言うのも、村人全員が常に目隠しをしているのだ。
黄色。
赤色。
白色。
いずれもが一色で染めてある布。
それをぎゅっと強く結んで村人達は暮らしていた。
ある時、一人の旅人がその村を訪れて不思議そうに尋ねた。
「何故、目を布で覆っているのですか?」
心地良い暖かな日差しに照らされた景色を見ないのはあまりにも勿体ない。
そう思って問いかけたのだが、尋ねられた赤布の目隠しをした村人は震える声で答えた。
「恐れているのです」
「何をですか」
「赤色の球体を」
言って村人は耳を塞ぎ、旅人が何を言っても答えなくなってしまった。
旅人は次に黄色の布で目を覆っている老人に尋ねた。
「何故、目を布で覆っているのですか?」
老人は僅かに停滞した後、答えた。
「我々は呪いをかけられているのです。月を見ると化け物になってしまう呪いに」
「呪いにですか」
腑に落ちない声を出した旅人に老人は言った。
「悪い事は言いません。災いに触れられぬ内にこの村を出て行かれた方が良いです」
老人はそう言ってふらふらとした足取りで旅人から離れたので、旅人は独り残されてため息をついた。
得る物はなにもなさそうだ。
そう諦めて旅人は村の出口へ向かうと、そこに白い布をつけた少女が座っていた。
旅人が声を掛ける前に少女は笑う。
「あんた、信じたのかい。この村の話」
「信じちゃいないさ」
「なら、なんで逃げるんだい」
小馬鹿にした言葉に男はむっとして言い返す。
「逃げちゃいない。何もないから出て行くんだ」
少女は再び笑う。
「恐ろしいから逃げるんだろう?」
「恐ろしくないさ」
「なら、あんた。私の布を外してごらん。今は月は昇っていないだろう」
少女はぐいっと男に近づいた。
男は苛立ちながら勢いよく布を取り払う。
布の下から現れた小生意気に笑う少女の頭上には薄く白い月がまるで隠れているように浮かんでいた。