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第2話(4)黒き翼のモリコ

「……はっ!」

 モリコが目を覚ます。

「モリコさん!」

「シロー……」

「良かった……」

「ジロー……」

「目を覚まさないかと……」

「サブロー……」

 横たわっているモリコを三兄弟たちが取り囲む。

「……ほんのちょっとで目を覚ますとは、さすがだな」

「あ、あなた⁉」

 モリコはガバっと半身を起こしてタイヘイのことを睨みつける。タイヘイが笑いながら肩をすくめる。

「はっ、闘争心も失っていないってわけか……」

「ええ、むしろ燃えてきたわ……くっ!」

 モリコが自分の胸を抑える。

「だ、大丈夫ですか⁉」

 シローが心配そうに尋ねる。

「だ、大丈夫よ……」

「やっぱりもうちょっと休んでいた方が……」

「へ、平気だから……」

 モリコがジローに応える。

「いつも抱いて眠っているぬいぐるみ持ってきますか⁉」

「そ、それには及ばないわ……って、な、なんでそんなこと知っているのよ⁉」

 サブローの提案にモリコが驚く。

「マジで元気そうだな……」

 タイヘイが感心する。

「そ、そうよ、これで勝ったと思わないでくれる?」

「……モリコ」

「よ、呼び捨て⁉」

「お前よりは良いだろうが」

「ま、まあ、そうね……そうかしら?」

 モリコが首を傾げる。

「モリコはあれか? その黒い翼……」

「ふっ、なかなか鋭いわね、そうよ……」

「カラスの人鳥か」

「ち、違うわよ!」

「違うのか?」

「コウモリよ!」

「コウモリ⁉」

 タイヘイが驚く。

「そんなに驚くことじゃないでしょう⁉」

「まったく予想だにしなかった……」

「逆さまで木の枝にぶら下がっている時点で分かるでしょう!」

「そ、そうか、コウモリか……」

「そうよ、この島の空の支配者よ」

「支配者とは大きく出たな」

「いいじゃないのよ!」

「そうだ、モリコさんは偉大なんだぞ!」

「良いこというじゃない、シロー……」

「その翼の美しさは他の追随を許さない!」

「照れるわね、ジロー……」

「この鳥なき島の女王だ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、サブロ―!」

「え?」

「え?じゃないわよ。『鳥なき島の蝙蝠』って言いたいわけ?」

「は、はい……」

「それって、見下している言い方じゃないのよ!」

「ええっ⁉ そうなんですか⁉」

「そうなのよ!」

「ヤバい……」

「……なにがヤバいのよ?」

「いや、かっこいいと思って、あちこちで言いふらしていたんですけど……」

「あちこちってどこよ⁉」

「えっと、この辺一帯に……」

「一帯に⁉」

「あ、俺も……」

「シロー⁉」

「お、俺もです……」

「ジローまで⁉」

「す、すみません!」

 サブローが頭を下げる。モリコが頭を抱える。

「私のリーダー的存在の威厳が……」

「まあ良いじゃねえか、そんなことは」

「良くないわよ!」

 モリコがタイヘイに向かって声を上げる。タイヘイが頭を下げる。

「わ、悪い……」

「素直に謝るのね……なんだか調子が狂うわ。大体、あなたは何なの?」

「ん? 俺はタイヘイだ」

「名前を聞いているんじゃないの? 超人だと思ったらむちゃくちゃ怪力だし、空は飛ぶし、おまけに風の斬撃まで操るときた……どういうことよ?」

「俺は……人と獣のハーフと妖と機のハーフの間に生まれたようだ……」

「ええっ⁉」

「なんて言えばいいのか……妖の、かまいたちのクオーターとも言えるのかな」

 タイヘイが腕を組んで、首を傾げる。モリコが呟く。

「そ、そんな存在が実在するというの……?」

「ここにいるだろう」

 タイヘイが自らの胸を右手の親指で指差す。モリコが絶句する。

「し、信じられない……」

「まあ、そんなことはいい……それよりもモリコ」

「な、なによ……」

「俺の仲間になれ」

「仲間?」

「ああ、リーダー的存在のモリコが仲間になってくれれば、この辺の腕の立つ連中が皆、俺に協力してくれるようになるだろう?」

「な、何をするつもりなの……?」

「俺はこの四国という島に、もう一つ国を造る。はみだし者たちの国をな」

「⁉」

「どうだ?」

「さっき胸がチクっとしたのは痛みじゃなくて高鳴りだった……?」

「モリコさん?」

「闘争心ではなく、違う心に火が点いたということ……?」

「何をぶつぶつ言っているんです?」

「……この『黒き翼のモリコ』、タイヘイ殿に喜んで協力させて頂きます」

「モ、モリコさん⁉」

 モリコが三つ指をついてタイヘイに頭を下げる。サブローたちが驚く。

「決まりだな」

 タイヘイが笑みを浮かべる。

お読み頂いてありがとうございます。

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