第2話(3)上から目線
「ふふふ……」
黒い翼で身を包んでいる美しい顔立ちのその女が妖しげな笑みを浮かべる。
「お前は……逆さま女!」
「⁉ 見たまんまじゃないの!」
女が妖しげな笑みを崩し、タイヘイに突っ込みを入れる。
「お前……」
「なによ……」
「頭に血が上らないのか?」
「余計なお世話よ! 私を見て最初に抱く感想がそれ⁉」
「だって、初めて会ったわけだしな……」
「私のことを知らないの?」
「あいにく……ちっとも」
「ち、ちっとも⁉」
女は愕然とする。タイヘイは申し訳なさそうにする。
「すまん……有名なのか?」
「有名もなにも!」
「!」
女が木の枝をくるっと半周し、タイヘイの方に向き直り、体を包んでいた黒い翼を広げて、高らかに宣言する。
「この辺を抑えているリーダー的存在、『黒き翼のモリコ』とはこの私のことよ!」
「黒き翼……?」
「そうよ」
「黒一色の間違いじゃないのか?」
タイヘイはモリコを指差す。黒い髪に黒い瞳、そして服装も上下黒で統一している。
「そ、そんな二つ名を付けるわけないでしょう!」
「似たようなもんだと思うが……」
「似てないわよ!」
「そうか?」
「あ、あなた……この辺のリーダー的存在である私に対して、良い度胸しているわね……」
「この辺のリーダー的存在って結構曖昧だな」
「う、うるさいわね! ただの人間が偉そうな口を!」
「ただの人間?」
「そうよ、あなたみたいなのは、私に頭を垂れるべきなのよ!」
「へえ……そうかよ!」
タイヘイはモリコが立っている太い木に思い切りぶつかる。モリコが驚く。
「なっ⁉ なにをするつもり⁉」
「その上から目線が気に食わねえから、引きずり下ろす!」
「ど、どうやって⁉」
「こうやってだ! うおおっ!」
タイヘイが木を引っこ抜く。モリコが驚く。
「ぶ、物理的に……⁉」
「そらっ!」
「くっ⁉」
タイヘイが木を投げる。
「はあ、はあ……どうだ?」
「危ない、危ない……」
「ん⁉」
モリコが空中に浮かびながら腕を組み、タイヘイに尋ねる。
「ひょっとして……あなた、『超人』?」
「は?」
「それならばその怪力も説明が付くわ……でもそれなら、三兄弟に喰らわせた石頭は一体どういうこと? まさか天然?」
「何を訳の分からないことを言っていやがる! 降りてこい!」
モリコはタイヘイの言葉を鼻で笑う。
「はっ、降りるわけがないでしょう。怪力自慢とまともにやり合う気はないわ」
「そうか……よ!」
「えっ⁉」
タイヘイが足裏から火を噴き出して、モリコの高さに到達する。
「どうだ、これでもう見下せねえな!」
「高さを保っている……? 超人は人並み外れた能力は一つくらいしか体得出来ないはず……ほ、本当にどういうこと?」
「面食らっている暇あんのかよ!」
「むっ⁉」
タイヘイが足裏から火をさらに噴き出し、モリコに向かって突っ込む。
「行くぞ!」
「ちっ!」
「のわっ⁉」
モリコが翼をはためかせ、強風を起こして、タイヘイを後退させる。
「き、気安く接近させるわけがないでしょうが……」
「ぐっ……な、なんて圧だ、さっきの連中とは違う……」
「当たり前でしょう! リーダー的存在をあんまり舐めないでちょうだい!」
「どわっ⁉」
モリコがさらに高速で翼をはためかせ、より強い風を起こし、タイヘイを後方に吹っ飛ばす。モリコは笑みを浮かべる。
「はん……私が本気を出せばざっとこんなものよ……」
「そ、その翼が厄介だな……」
「ん?」
「まずそれを黙らせないと話にならないな……」
「そうね、接近すらままならないものね」
「ああ、よって……」
「よって?」
「その翼を黙らせる!」
タイヘイはビシっとモリコの黒い翼を指差す。モリコが首を傾げる。
「はあ?」
「悪いがそのご自慢の翼、無力化させてもらうぜ」
「出来るものならやってみなさいよ、出来るものならね!」
「ああ、やってやるよ!」
タイヘイの両手が鋭い鎌のような形状に変化する。モリコが驚く。
「なにっ⁉」
「行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待った!」
「待たねえよ!」
「マ、マズい……!」
危険を察知したモリコが慌てて回避行動を取ろうとする。
「逃がさねえよ!」
「ぐっ⁉」
タイヘイが両手を振るうと、風の斬撃が飛び、モリコの黒い翼を傷つける。モリコはバランスを崩し、空中でよろめく。
「もらった!」
タイヘイがモリコとの距離を詰める。モリコが呟く。
「な、なによ、その斬撃は……?」
「これは俺に受け継がれる妖の……『かまいたち』の力だ」
「はあ⁉ あ、妖の力? そ、そんなのあり?」
「これで決まりだ! おらあっ!」
タイヘイがモリコの頭に頭突きを喰らわせる。
「ぐふっ! ……」
空中から地面に叩き落とされたモリコが動かなくなる。タイヘイが額をさする。
「ふう……」
お読み頂いてありがとうございます。
感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしています。