第6話(3)愛の国の姫
「……誰だ?」
タイヘイが首を傾げる。
「カ、カンナ様だ! カンナ様が来て下さったぞ!」
「これで勝てる!」
兵たちが大いに沸き立つ。
「カンナ様だと?」
「あなたたち……」
「!」
カンナと呼ばれた女の声に兵たちのざわめきが止む。
「わたくしに二度も同じことを言わせないで下さい……」
「は、はい!」
「お、お前ら、落ち着け!」
兵の部隊長らしき者たちが部下らに声をかける。カンナは頷く。
「そう……乱れた隊列を戻して、負傷兵は回収しなさい……」
「し、しかし、こやつはどうしますか?」
兵の一人がタイヘイを指差しながら、カンナに問う。
「わたくしが相手をします……」
「! き、危険です! 三将を倒した男ですよ!」
「……それは見ておりました」
「それではなおさら!」
「これ以上の戦力の損耗は出来る限り避けたいところです……」
「は、はあ……」
「ここでこの方を倒します」
「は、はっ!」
カンナの言葉に兵が敬礼する。タイヘイが口を開く。
「おい、カンナちゃんよ~」
「ちゃ、ちゃんだと⁉ カンナ様だ!」
兵の言葉を無視して、タイヘイが問いかけを続ける。
「お前さん、偉いやつか?」
「ええ」
「ひ、否定しないんだな……」
「否定する理由がありませんから……」
「っていうことはもしかして……」
「……」
「人の国の軍団長かなにか?」
「ふっ……」
タイヘイの言葉にカンナは笑う。タイヘイがややムッとする。
「なにがおかしいんだよ」
「いや、随分と的外れなことをおっしゃるものだと思いまして……」
「違うのか?」
「ええ、違いますね」
「そうか、それなら……」
「え?」
「悪いことは言わねえ、ここから撤退してくれ」
「……なんですって?」
「俺たちにとっては、ここら辺に新しい国を造るっていう挨拶代わりも兼ねてやってきたんだよ。だが、あくまでも目的はお前らの軍勢を追い払うってのが主な目的だ」
「ふむ……」
カンナが俯く。
「理解してもらえたか?」
カンナが頭を上げる。
「……国を造るということは三つの条件が必須です」
「む……」
「あなた……えっと……」
「タイヘイだ」
「タイヘイさん、その条件はご存知ですか?」
「え?」
「まず一つ目、『領土』です」
「領土? ああ、それなら心配いらねえ」
「ほう?」
「この緩衝地帯を丸々、俺たちの領土ということにさせてもらう!」
「そういうわけには!」
「……少し下がっていて下さい……」
「は、はあ……」
カンナの言葉に従い、兵が下がる。
「……この緩衝地帯が丸々、あなたたちの土地になるということですね」
「ああ、そうだ!」
「それならば、国を名乗ってもおかしくないほどの広さですね……」
カンナはいつの間にか取り出した、四国の地図に目を通しながら呟く。
「そうだろう!」
「もう二つ、条件があります」
カンナが右手の指を二本立てる。タイヘイが面喰らう。
「むう……」
「二つ目は『国民』です」
「国民?」
「土地があっても住む者がいなければ、国とは言えません」
「国民は大勢いるぜ!」
「ほう……」
「四国のどの国にも馴染めなかった、お前らの言う“はみ出し者たち”が肩を寄せ合って助け合いながら暮らしている!」
「ふむ……」
「これでいいか?」
「三つ目は……」
「まだあんのか?」
「『主権』です」
「主権?」
「自分たちの国の政治を、自分たちで決める権利です。つまり他の国からの支配はうけないということです」
「ああ、そういうことに関してなら、皆覚悟は決まっている! っていうか、他の国の連中からのちょっかいにうんざりしているんだよ!」
「そうですか……」
「これで文句はねえな!」
「いえ……」
「なんでだよ! 領土、国民、主権が揃っているんだぜ!」
「……周辺国の理解や承認を得なければなりません。そういったことに関しては?」
「……これからだよ」
カンナの問いにタイヘイはバツの悪そうな顔をする。
「……考えの相違があったとはいえ、いきなりわたくしたちの軍勢に殴り込んできたのはいささかマズかったのではないでしょうか?」
「ぐっ……」
「これでは平和的な話し合いなど望むべくもありません……」
「……なにが言いたい?」
「タイヘイ殿、あなたたちの目論見はのっけから破綻しているのです」
「あ~! お前さんじゃあ、全然話にならねえ! もっと偉いやつと話をつけりゃあ良いだろうが!」
「……いますよ」
「は?」
「わたくしが人の国……通称『愛の国』の姫、カンナです」
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