第5話(2)突進
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「ほ、報告です! ヤヨイ様!」
鎧を着た兵士が列の後方に向かって走る。
「何事だい?」
ヤヨイと呼ばれた長いドレッドヘアーを後ろで一つにまとめた褐色の女性が尋ねる。屈強な体格を鎧で固めている。
「て、敵襲です!」
「敵襲? 妖の連中め、国境を固めているのはフェイクか!」
「い、いえ……」
「ん?」
「襲ってきたのは別の勢力です!」
「なんだと? 何者だい?」
「そ、それが……分かりません!」
「分からない?」
「は、はい!」
「それじゃあ報告にならないだろう!」
ヤヨイが兵士を一喝する。
「す、すみません……」
「ちっ、仕方がない……アタシが行く!」
「は、はっ!」
ヤヨイが隊列の前に出る。
「む……?」
そこには、兵士たちを薙ぎ倒すクトラの姿があった。クトラが笑う。
「これはこれは『怪力のヤヨイ』さん……お会い出来て嬉しいわ」
「あいつは……」
「『暴走のクトラ』と思われます……」
別の兵士がヤヨイに耳打ちをする。
「あいつはここから離れた南東の地域を根城にしているんじゃなかったのか?」
「わ、分かりませんが、あの戦いぶりは間違いないかと……」
「ふん……」
ヤヨイがゆっくりと前に進み出る。
「あら、お相手してくれるの?」
「お前は『機』の国に対してレジスタンス活動を行っていたんじゃなかったか?」
「よくご存知で……」
「何故ここにいる?」
「それは色々と理由がありまして……」
クトラが肩をすくめる。
「アタシらにケンカを売るっていうのかい?」
「ケンカを売ってきたのはそっちでしょう?」
「は?」
「ここはわたしたちの国よ。許可もなく軍勢を入れないでちょうだい」
「何を言っている? ここは四国の緩衝地帯だ」
「これからはわたしたちの国になるのよ!」
「!」
クトラが突っ込んで、拳を繰り出す。ヤヨイが剣を抜いて、それを受け止める。
「へえ、さすがの反射神経ね……」
「話が見えないんだが……」
「あなたがそれを知る必要はないわ。ここでわたしに倒されるのだから」
「はっ、面白いことを言う!」
「おっと!」
ヤヨイがクトラを押し返すと、すかさず剣を横に薙ぐ。クトラがそれをしゃがんでかわすが、彼女の後方にあった大きな岩が割れる。ヤヨイが舌打ちする。
「ちっ……」
「な、なんという豪剣……まともに喰らったらヤバいわね……」
「クトラ、アンタのことはそれなりに知っているよ」
「あらそう?」
「人と機のハーフ、人機だろう?」
「ええ」
「トラックに変化出来るんだよな?」
「……そうよ」
「ところがそれをしない。トラックで隊列に突っ込んできた方が手っ取り早く済むっていうのに。何故だろうな?」
「……」
「答えは至極簡単だ。このオフロードでは、トラックになってもまともに動くことすら出来ない……違うか?」
「……意外と……」
「ん?」
「頭が回るのね、ただの脳筋ちゃんかと思っていたわ……」
「! 言ってくれるじゃないのさ!」
ヤヨイが剣を振りかざす。
「‼」
「これでジエンドよ!」
「そうはさせない!」
クトラが再度、ヤヨイとの距離を詰める。ヤヨイが笑いながら剣を振り下ろす。
「トラックになれないあんたの突進なんて怖くないんだよ!」
「……これならどう⁉」
「⁉」
ヤヨイの剣が弾かれ、その大柄な体が後方に吹っ飛ぶ。兵士が叫ぶ。
「ヤ、ヤヨイ様!」
「ぐっ、なにを……⁉」
「ふふっ……」
立ち上がったヤヨイは目を疑った、クトラの右腕が大きなタイヤに変化していたからだ。
「ぶ、部分的な変化……」
「こういうことも出来るのよ!」
「なっ⁉」
クトラは四つん這いの体勢になると、左腕、両足もそれぞれ、タイヤに変化させる。
「至近距離からの突進を喰らいなさい!」
「がはっ⁉」
スピードに乗ったクトラの突進を受け、ヤヨイが倒れ込む。
「……こんなものかしらね」
人の体に戻ったクトラが立ち上がる。
「ヤ、ヤヨイ様……!」
「……あなたたち、ここで退却しないなら痛い目に遭わせるわよ?」
「くっ……」
「終わったような口を利くな……」
ヤヨイがゆっくりと立ち上がる。クトラが驚く。
「! へえ、かなりタフね……」
「アタシは、アタシたちは……人を超えた、超人の集まりよ」
「うん?」
「その力を見せてやろう……」
「もう立っているのもやっとみたいだけど?」
「黙れ……!」
「があっ⁉」
一瞬で距離を詰めたヤヨイの繰り出した拳がクトラの鳩尾を打つ。クトラは崩れ落ちる。
「ふん……」
「こ、こんな……」
「受けた衝撃を吸収し、返すことが出来る……これがアタシの力だ」
ヤヨイが力こぶをつくる。
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