先生、さようなら
▼この連絡帳は伝達事項の記入だけでなく、先生とのコミュニケーションの場でもあります。今日あった出来事を、積極的に書きましょう。
◆今日の出来事
お父さんに、パンダのぬいぐるみを、買ってもらいました。
とっても、かわいかったです。
でも、わたしがほしかったのは、うさぎのぬいぐるみでした。
お父さんに言ったら「またこんど」と、言われました。
わたしは「こんどっていつなの」と、聞きたかったのですが、聞けませんでした。
▼先生からの一言
かわいいぬいぐるみを買ってもらって、よかったですね。
◆今日の出来事
友だちと、そとであそんでいたら、きれいな夕やけを見ました。
上のほうは、おひるみたいに青くて、下のほうはオレンジ色に光っていました。青とオレンジ色がまざったところが、とってもきれいな色でした。
色エンピツだと、きたない色になっちゃうのに、どうして空は、きれいにまざるのか、ふしぎに思いました。
先生にも、見せてあげたかったです。
▼先生からの一言
おそくまで外にいると、家の人が心ぱいします。
暗くなる前にかえりましょうね。
◆今日の出来事
今日のばんごはんは、カレーライスでした。
おとうとは、一人でなんばいもおかわりしました。
わたしも、おかわりしようと思ってナベをあけたら、すこししかのこっていませんでした。
お母さんは「お父さんのぶんものこしておいてね」と、言いました。
だから、ほんのちょびっとだけ、よそいました。
そうしたら、あとで、お母さんにおこられました。
「お父さんがたべるぶんがないじゃない」
と、わたしだけ、おこられました。
▼先生からの一言
先生もカレーライスは大好きです。
ニンジンもちゃんと食べられたかな?
◆今日の出来事
かみを切りました。
ふくも、いつもとちがうのにしました。
ぬいぐるみも、全部すてました。
かわりに、本をかいました。『アドルムの人間』という本です。アドルムというのは睡眠薬の名まえです。
とてもむずかしい話でしたが、一生けん命よみました。
ですが、よみおわったあとも、なにも変わりませんでした。
なにをやっても、むだだとしりました。
わたしは、一生わたしのままなんだと思います。
▼先生からの一言
先生は『魔法物語シリーズ』が大好きです。
楽しいお話なので、おすすめです!!
◆今日の出来事
おとうとは、いつも楽しそうです。
ちょっとしたことで、泣いたり、笑ったりしています。
いっしょにいると、さみしくなります。
おとうとにとっては、楽しいことなのに、わたしには、ちっとも楽しくないからです。
うらやましいです。
そして、とてもいやな気分になりました。
いやな気分のときは、笑うようにしています。
いやな顔をすると、お母さんに、おこられるからです。
▼先生からの一言
笑顔が一番!!
◆今日の出来事
つかれました。
気のめいることばかりです。
これもわたしの人生なのだと、あきらめること。
それが、かしこい生きかたなのでしょう。
わたしにはなかなかできません。
高い波と速い流れに、のみこまれてしまいます。
どんなに手足を動かしても、体はしずんでいくばかり。
息つぎのしかたをおぼえるまでは、いつまでも、もがき苦しまなければならない。
いつまでたっても前に進まない。
ゴールは、まだまだ先のようです。
▼先生からの一言
プールが始まったら、いっしょにがんばりましょうね。
◆今日の出来事
・・・もういいです。
先生、さようなら。
▼先生からの一言
三点リーダは『・・・』ではなくて
『……』を使いましょう。
この連絡帳は、少女の遺書となりました。
大人には、まったく理解できませんでした。