#9 生まれた家での泥棒と殺し屋襲来
次郎吉は生まれた家に辿り着くと事前に試した通り防犯のソーサリーファクトをすり抜けて、裏口から潜入する。すると庭には執事や使用人の人が夜にも関わらずたくさんいた。
(こりゃ泥棒するタイミングが合わなかったな)
事前調査では夜にここまで人がいる家ではなかった。恐らく家の中にはいたのだろうがそんな彼らが外に出ているということは何か特別な日に当たったことを意味していた。ただこの状態をよしとするかどうかは泥棒によって異なる。
次郎吉の場合だと家に入ることすら困難な状況は好きではなかった。逆に言うと家の中に入ることが出来れば人がいても見つからない自信が次郎吉にはあった。逆に外に人がいたほうが見つからない自信がある泥棒もいる。監視網の一瞬の隙を付くタイプなどがこれに該当する。
次郎吉は様子を伺うと人がいなくなったタイミングで家の柱にくっつくと棒登りの要用で登っていくと屋根裏に潜入することに成功する。
(あぶねーあぶねーっと……さて、お宝はどこにあるかな?)
次郎吉が探っていると聞きたくもない声が聞こえてきた。
「奥様! もうすぐ旦那様が帰ってくるお時間でございます!」
「そんなことは分かっているのざます! そこのあなた! 手伝うのざます!」
「は、はい!」
どうやら顔も見たことがない次郎吉の父親が帰ってくる日だったらしい。お迎えするために家の人間が外に出ていたわけだね。それはつまり一瞬でもこの家の中から人がいなくなることを意味していた。
(これは運がいいな……今のうちに金の場所を絞るとしよう……ここだな。臭いからすると三階のほぼ真ん中の部屋か。用心深いな)
窓際に金庫がある部屋を設置しないところを考えるとかなり厳重に金を管理していることが分かった。逆に言うと泥棒の難易度はかなり上がったが今日の条件がいいので、次郎吉はいけると判断した。
次郎吉の母親とメイドたちが外に出ていく。この瞬間に人の気配が消えたことを知った次郎吉は屋根裏から四階廊下に降りると三階まで一気に降りて、目的の部屋の鍵をピッキングで素早く開けて潜入するとダイヤル式の金庫を見つけて、ダイヤルを回す。
二個目を解除したところでソーサリーファクトで動く車である魔道車が家に入ってきた。急がないと間に合わないと思った時だった。次郎吉の第六感に凄まじい気配を感じ取る。
(こ……この感じは……やばい!)
次郎吉は江戸時代の大名屋敷や武家屋敷で泥棒を繰り返した大泥棒である。それ故に相対するのは腕利きの用心棒が多かった。次郎吉が感じた気配はそんな用心棒より更に上。何人もの人を殺してきた殺人鬼の気配だった。
次郎吉が急いで解錠している頃、一人の冴えないサラリーマン風の男が煙草を吸いながら屋敷の中に入ってきた。すると防犯用のソーサリーファクトが発動し警報が鳴り響く。
「なんだ? 貴様?」
「ここは誰の家だと思っているんだ? 恐れ多くもシャギー伯爵の家」
「知っているよ。だから殺しに来たのさ」
男はそういうと急に手元から剣を取り出すと近づいてきた男二人の首を跳ねる。
「貴様!」
「旦那様の命が狙いか! 旦那様を守れ!」
庭にいた男たちが一斉に魔法を放つ。しかし殺し屋の男は魔法陣を展開すると飛んできた魔法を軽く避けて距離を詰める。これは単純に足を速くしただけだ。しかしそれだけでも殺し屋が使うのなら効果絶大だった。殺し屋は四人の男をすれ違いざまに斬ってしまう。
「ひぃ!? こ、こいつ! 魔術師だ! 只者じゃないぞ!」
魔術師とは魔術を使える魔法使いのこと。魔術とは魔法陣を使って発動する魔法のことを言う。この世界では魔法使いよりも魔術師のほうが魔法使いとして一段上の存在となっている。それを見た次郎吉の父は叫ぶ。
「じい!」
「ここはワシに任せてお逃げください。旦那様、奥様」
「わかった!」
「逃げすわけないでしょうが!」
殺し屋の男が更に四人の男を斬り裂くと次郎吉の父と母に迫る。しかしここで立ちふさがったのは執事の老人だった。執事の老人は鉤爪を両手に構えると右手の鉤爪で殺し屋の剣を止めた。そして空いていた左手の鉤爪で反撃する。
流石に予期しない反撃を見た殺し屋の男は一旦後ろに飛んで距離を取ると再び魔法陣を展開して剣を振る。すると鎌鼬が老人に襲い掛かる。それに対して老人も魔法陣を展開すると体で鎌鼬を弾いた。老人が使った魔術は体や服を硬くする魔術だ。
この隙に夫婦とメイドたちは家の中に逃げ込むことに成功する。殺し屋は執事の老人に言う。
「土属性の魔術師か……邪魔しないでくれないかな? あいつがどれだけ悪い人間か知っているでしょ? 所有する鉱山で金儲けの裏側で一体どれだけの人間を殺したと思っているのかな?」
次郎吉の父は自分が所有する土地に暮らしている人たちに鉱山で高収入の仕事があると嘘をつき、実際は低賃金で過酷な労働環境で強制的に働かせた。その結果、何人もの人が珪肺を発症し呼吸困難で死んでしまった。
これは殺人と言ってもいいだろう。早期に病院に行ければ助かっていた命だ。もっと言えば外に出て普通の暮らしに戻れていたら助かった命だと言える。しかし次郎吉の親はそれを許さなかった。死ぬまで働かせて自分の商売の口止めさせる最悪の商売をしていたのだ。
「ふぉっふぉっ。殺し屋が正義を語るとはな。人を殺した数のことを言えばお前さんのほうが多かろうに」
「そうだね。だから僕は罰を受けるつもりでいるよ。お前たちのような人間をこの国から消した後でね」
殺し屋の男が距離を詰めて攻撃する執事は再び受け止める。次の瞬間、殺し屋の男から鎌鼬が発生し、執事を斬り刻むが全て弾かれる。
「ダメか……流石に相性が悪い」
これを見た殺し屋の男はまた距離を取ることを余儀なくされる。
「お主は国からの回し者みたいじゃのう……どうする? 時間をかければ不利になるのはお主のほうではないのか? 騒ぎを聞き尽きたソリスがやって来るぞい」
戦闘ではそこまで強くはないが持久戦となると話は別だ。自らの身体を犠牲に主人を守る。執事として見るならこの老人は一級品と言えた。
しかも現状死者が出ているのはシャギー伯爵のほうだけだ。この状況をソリスが見たら当然シャギー伯爵のほうに味方するだろう。なので老人からすると時間稼ぎに成功すれば勝ちとなる。なので殺し屋のほうも時間稼ぎをさせまいと動くしかない。
「確かにこのままじゃまずいね……だから」
殺人鬼の男の魔力が高まると周囲に暴風が発生し、剣に魔法陣が発生すると剣に竜巻が宿ると剣を上段に構える。すると竜巻は屋敷の周囲に展開れている結界に触れると結界にひびが入った。それを見た執事の老人はすぐさま危険を感じ取る。
「ぬ!?」
「獲物が射線上にいてくれて助かったよ。魔剣技! アッシュズ!」
「ッ!? しまった!?」
殺人鬼の男が剣を振り下ろす。すると横向きの竜巻が家に落下してくる。その竜巻に触れた家の屋根が塵となっていく。ここで次郎吉も聞いたことがない竜巻の音と家が破壊される音を聞いて危険を察知する。
(……やばい!?)
「旦那様ー! 奥様ー! ぬぅううう! メイドたち! 主人を守れ!」
「「「「は、はい!」」」」
「ふ……ぐわぁあああー!?」
次郎吉はとっさの判断で壁に張り付くと部屋の真ん中を竜巻が通過していき難を逃れた。
執事の老人は自分の背後に夫婦がいることに気が付くと夫婦に竜巻が届く前に受け止めようとしたジャンプしたが老人の硬くした腕が塵となる。殺し屋が放った必殺技は体を硬くしたぐらいで受け止められるほど優しい技ではなかった。
結果としてこの一撃で結界は完全に破壊され家は真っ二つになってしまった。夫婦はメイドたちが飛びついて竜巻から逃したことで生きている。ただ老人は跡形もなく消えてしまった。
(わかっていたことだが魔法ってこんなにやばい代物だったのか)
次郎吉も魔法の危険性には気が付いていた。手から火を出す魔法使いの子供の光景を見たことがあるだけにそれの威力が上がると一人から少人数を燃やすぐらい出来るようになると思うのが普通だと思う。しかし現実は御覧の通りだ。この技なら射線上にいた人間を一度に全滅させることが出来るだろう。
少なくとも一部隊を壊滅させることぐらいは簡単にできるほどの威力があった。この事実に流石の次郎吉も冷や汗を流す。
ただ威力が高すぎることに問題がないわけではない。何せ殺し屋は正体がバレないことが前提として存在している。それがこんな爆音を流したら、町中の人が起きてしまうのは避けられない。しかも強い魔術が使える人なんてそんなにたくさんいるわけじゃない。つまり殺し屋にとってはかなり正体が絞れそうな証拠を残す結果となったと言える。
「しょうがないとはいえ姐さんに怒られるな……まぁ、結界のおかげで外に魔術が見られなかったのは不幸中の幸いと言えるか。さて、覚悟はできているよな?」
殺し屋が次郎吉の父に近づいて言うと当たり前のように次郎吉の父は言う。
「ま、待ってくれ! 金ならいくらでもやる! だから助け」
「悪いが俺は金で働いてないのよ」
次郎吉の父親が斬られて死ぬ。次郎吉はそれを聞いてみっともないという感想しか浮かばなかった。すると次郎吉の母親も命乞いを始める。
「わ、わたくしは何も悪さなんてしていないのざます!」
(生まれたばかりの子供を捨てることは悪じゃないんだな)
話が筒抜け状態となっているので、次郎吉は母親の発言に心の中で呆れてしまう。悪行を悪と認識しない悪人は三下以下だと次郎吉は思っている。次郎吉からすると自分は悪人ですと言えて初めて立派な悪人だ。自分は悪人だと認識しているのに悪人と言えない悪人が次郎吉からすると三下となる。
「だから助け」
「無理だな」
殺し屋の男はそういうと次郎吉の母を殺した。次に男の目はメイドたちに向けられる。目撃者を消すのは殺し屋としては当然の判断だ。
「悪いが君たちも殺させてもらうよ」
「そんな……」
「なんで……」
「そういう仕事だからさ。恨んでくれて構わないよ」
メイドたちが逃げる中、次々屋敷にいる人間を殺し屋は殺していく。そんな中、次郎吉は気配を消して金庫の解錠に成功する。
(よし! 開けれた! 後はお金を詰め込んで逃げるだけ……しまった!? 気づかれた!)
「ん!? 誰だ!?」
次郎吉がお金を詰め込んで逃げ出そうとした時だった。突如風が吹いたことで殺し屋の男は自分以外の誰かの臭いがしていることに気が付いた。そしてその一瞬で相手が只者じゃないことを理解する。何せ殺し屋である自分が気配に気づけなかったのだから警戒するのは当たり前だった。
しかも殺しが終わったタイミングだったのもよくなかった。殺し屋は生き残りを気にすることなく、すぐに次郎吉に向かうことが出来た。そして殺し屋は風属性の魔法使いだ。速さと飛行能力を駆使して一瞬で次郎吉の前に現れることで次郎吉の退路を断った。
「逃がさないよ。ん? 子供?」
次郎吉の姿を見た殺し屋は一瞬思考がかき乱される。何せ目の前にいるのはほっかむりに麻袋を背負っている謎の三歳児だ。見るからに怪しすぎる姿にツッコミたくなるのはしょうがないことだろう。
(好機! 結界を壊してくれてありがとよ!)
「ん!?」
次郎吉は右足のソーサリーファクトを起動させる。次の瞬間、次郎吉の右足の靴が真っ赤なを輝くと同時に稲妻を発生する。これは磁力でプラスだと分かりやすいように赤く光るように設計されているためだ。逆にマイナスの磁力だと青く光るようになっている。
(ソーサリーファクト!? こんな子供がどうして使える!? いや、そんなことはどうでもいい。今からだと魔法の発動は間に合わない。それなら直接斬るまで! 逃げ場はないぞ!)
流石にこれを見た殺し屋は目の前の子供が只者じゃなく、自分の姿を見らえたことを認識して剣を振る。すると次郎吉はそれを見込んで殺し屋が踏み出したほぼ同じタイミングでソーサリーファクトが発動していない左足を使って前に飛んで転がる。
(何!? 間に合え!)
(魔法使いならこの状況で生身で躱してくるとは思わないよな……悪いが俺っちの読み勝ちだ)
その結果、斬撃ははずれ。次郎吉は殺し屋の背後に転がる構図となった。
殺し屋の男にとっては魔法を使わない通常の剣による斬撃だったが手加減したわけではない。次郎吉がソーサリーファクトを発動させて逃げていたとしても斬ることを意識していた。故に使わずに生身で前に出て転がって来ることは意識外の出来事であった。すぐ対応しようとしたが流石に間に合わなかった。
次郎吉からするとソーサリーファクトを発動されたことで殺し屋は急いで殺しに来ることは分かっていた。更に次郎吉は相手の力量を知っていたので、急いで逃げ出しても対応されると考えていた。故に相手の意識外であろう生身で初手の攻撃を躱す選択した。
今回の勝負は殺し屋側は次郎吉の情報を何一つ持っておらず、次郎吉は殺し屋の実力を把握出来ていたことが勝敗を分けたと言っていいだろう。
殺し屋はすぐさま振り返り、次郎吉に斬撃を放つが次郎吉は右足で床を蹴ると中央通りを雷速で通っていく。本来なら次郎吉はここで雷速で結界にぶつかっているところなのだが殺し屋が結界をぶっ壊してくれたおかげで脱出することに成功した。
「は? 死ぬぞ」
殺し屋がそういった瞬間だった。次郎吉が急に飛んでいる向きが変化して空高く上がると次の瞬間、斜めに急降下して殺し屋の視界から見事に逃げ切る。その結果に殺し屋は茫然となる。
「なんだ? 今の? どうして急に雷の向きが変わった? やべ!?」
ここでソリスの部隊が家に突入してきた。殺し屋もここで闇のソーサリーファクトを使用して姿を消すことで逃走する。
一方で次郎吉は溜池に浮かんでいた。
「いって~……安全装置があってこれかよ。改良の余地ありだな」
次郎吉は計画通り雷速で飛び出した次郎吉はビルの屋上に設置したマイナスのソーサリーファクトに引き合う形で向きを変え、ここで時間指定でマイナスのソーサリーファクトが切れたことで完全に引き合うことなく、速度を維持したまま空に打ちあがった。
このタイミングで第二のマイナスのソーサリーファクトが発動し、溜池に落下することが出来た。この際に安全装置も発動したことでダメージは受けたものの生きて歩けるぐらいのダメージで済んだ。
しかし次郎吉も完璧な天才というわけでもない。人間らしくちゃんとミスがある人間である。
「あ……いや、そりゃそうなるか。水に濡れてもこの金は使えるもんなのか?」
金を入れた麻袋ごと溜池に落下したので、当然お金は水浸しになる結果となるのだった。
しばらくすると殺し屋が溜池にやってくる。周囲を隈なく探したが次郎吉の姿は予想通りなかった。この国だと町中での魔法の使用は基本的に禁止されている。
魔法自体が危険極まりない代物である認識がちゃんとあり、犯罪に使われることが多いために犯罪者を特定するのが早くなるようにソリスや国所属の一部の部隊にしか魔法の使用許可は出ていなかった。
次郎吉からするとこの法律のお陰でお金を回収した上で逃げ出すことが出来た。
「はぁ……任務失敗だな。こりゃあ。姐さんに報告してあいつのことを探して貰わねーとな」
そう独り言をいうと殺し屋は次郎吉との最後を思い出す。次郎吉が転がった瞬間に見えた勝ちを確信した極悪人の顔をしていた。
「只者じゃないことは確かなだな……あの子供。殺さねーといけないがなんとか仲間に引きずり込みたいもんだ」
そういうと殺し屋の男は仲間に連絡するために町の中へと消えていくのだった。
珪肺:結晶シリカの粉塵を吸い込むことで発症する肺の病気の一種。鉱夫がよく発症する病気で酷くなると死ぬこともある。完治する治療法はないが症状の緩和や予防で命を助けることは可能な病気。




