#66 黙って俺っちに盗まれろ
次郎吉は振り返ってエッティスチーフの問いかけに対して返事をする。この瞬間に次郎吉は初めてエッティスチーフと相対する形となった。
「僕のことでしょうか?」
「そうだ。お前のことだよ。ここは看守の中でも特別に所長から許可を貰った者しか入れない場所だ。お前のような普通の看守が入れる場所じゃない。お前……一体何者だ? 先ほど攻撃してきた奴の仲間であることは既に分かっている。抵抗せずに大人しく白状することだ。勝ち目も逃げ道もありはしないぞ」
「へぇ……勝ち目も逃げ道もないか。そんなことを言われたら犯罪者としては試したくなってしまうな!」
次郎吉の姿が看守の姿から泥棒の姿に変わると今までハッキングで使っていた右手とは別の左手を上に構える。それを見たエッティスチーフは次郎吉を凍らせる魔術を放った。しかしエッティスチーフの魔術は次郎吉の魔法を無効化するコートのソーサリーファクトによって無効化される。
「何!?」
「お前が言ったことが事実かどうか俺っちに確かめさせてくれよ!」
次郎吉の左手から稲妻が発生し、収容所が稲妻に包まれた。それを見た看守たちも一斉に次郎吉に魔術を放つが全ての属性がかき消される。
「なんだ!? こいつ!?」
「魔法が……魔術が通用しない!?」
「ならソーサリーファクトならどうだ! ん? んん? なんだ? ソーサリーファクトが発動しない!?」
「この収容所に存在する全てのソーサリーファクトを破壊させてもらった。これが何を意味しているかお前らにはわかるか?」
次郎吉がそういうと看守たちとエッティスチーフは次郎吉の忠告を無視して魔術を使用する。しかし先ほど同様に次郎吉には通用しない。
次郎吉への攻撃に集中している彼らの背後から聞きなれた金属音が聞こえる。彼らが振り返ったときには既に遅い。看守たちは魔法や拳にぶっ飛ばされる。
その光景を見たエッティスチーフは絶句する。
「お前……なんてことをしてくれているんだ!?」
この収容所全体のソーサリーファクトの破壊ということは牢屋のソーサリーファクトや犯罪者を拘束しているソーサリーファクト全てが壊されたことを意味している。つまりここに捕まっている凶悪な犯罪者たちは次郎吉のこの発言を聞こえたことで自分たちは自由の身になったことを理解して牢屋から出て自分たちを今まで苦しめていた看守たちを攻撃したのだ。
「俺っちが何をしたのか見ればわかるだろ? 精々頑張れ。犯罪者を捕まえるのがお前らの仕事だろ?」
次郎吉はそういうと五階まで飛びあがると怪盗キャリコが捕まっている牢屋まで歩き、牢屋のドアを蹴り飛ばすと捕まっている怪盗キャリコを見つける。
「あ、あなたはもしかして」
「お前さんと直接会うのは孤児院と王都で三回目だな」
「あ……あぁ……」
次郎吉のこれだけの発言で怪盗キャリコは自分を助けに来てくれた存在が鼠小僧であることを理解する。その結果、怪盗キャリコは両手を口で押えて涙を流す。
怪盗キャリコは誘拐されてからの記憶は曖昧で正気に戻ったのは収容所に送られてからだった。そして怪盗キャリコの尋問などを担当したエッティスチーフは今まで相対してきた彼女とはまるで別人のような弱弱しい姿に疑問を感じて刑務所に捕まっている彼女と面会していたのだ。
エッティスチーフがこの刑務所にいたのはこれが理由である。エッティスチーフは正気に戻った怪盗キャリコから改めて話を聞くとソリスの本部で尋問していた内容自体がうろ覚えの状態であったことを知り、彼女に何が起きたのか知るためにゴンドーラ刑務所に頻繁に訪れていた。そしてその面会の日と今日が偶然重なったという今日の流れになっている。
怪盗キャリコはエッティスチーフを通じて自分と外の情報を聞くことが出来た。自分の家族の死と自分の家の地位の失墜、更には自分が国家反逆罪で公開死刑が決定している事実を知った彼女は絶望したがそんな彼女の脳裏に過ぎったのが次郎吉だった。
「助けて……鼠小僧さん」
彼が刑務所にまで来て自分を助けてくれるなんて都合のいい話信じるはずがない。何せ自分が一方的に憧れて恋焦がれているだけなのだ。助けてに来るはずがない。しかし全てを失った彼女の唯一の希望が次郎吉だった。そして今、決して叶わないと思っていた出来事が目の前で起きる。彼女の感情が嬉しさなどで大爆発状態になるのも無理はないだろう。
そんな彼女の様子に次郎吉も付き合っているわけにはいかない。もう時間制限は始まっており、自分が刑務所の中に侵入したこともバレたのだ。ここからが本当に時間との勝負となる。だから次郎吉は怪盗キャリコに近づいて手を伸ばした。
「今日は泥棒としてお前さんを盗みに来た。事情を説明している余裕はない。黙って俺っちに盗まれてくれ」
「はい……はい!」
次郎吉の言葉を聞いた怪盗キャリコは嬉しくなり、力強く頷いて次郎吉の手を取る。出会いはかなり前で二人の接点は今まであったがお互いに直接触れあったのはこの時が初めてとなる。




