#61 怪盗キャリコ脱獄後の計画
次郎吉たちが新たなソーサリーファクトの開発に勤しんでいるとコーネがやって来た。
「ジロキチ? いる?」
「旦那様なら作業場にいます」
「じゃあ、一息つくまで待ちますか」
そんなことを行っていると急に爆発音が響いて黒焦げ状態の次郎吉が昼休憩で作業場から出てくるとプラムと談笑しているコーネを見つける。
「来てたのか。コーネ」
「うん。お邪魔してます。なんかジロキチのその姿を見ると安心しちゃうな。おじいちゃんもよくそんな風になっていたこともあるんだろうけど、次郎吉も失敗する人間なんだなって思えてほっとする」
次郎吉が席に座って口を開く。
「新しい技術に挑戦しているんだ。失敗もそりゃするだろうよ。何も失敗せずに新技術が作れるなら誰も苦労なんてしやしないぞ」
「それを言われると確かにそうだよね。どうにも天才の人ってあたしの中だと一杯を一度もしたことが無い人間のような気がしちゃってね」
「まぁ、天才という定義にもよるだろうな。失敗を一度もしたことが無い人間は天才と言ってもいいと思うし、失敗しても世紀の大発明をした人間も同じく天才だと俺っちは思っている。俺っちで例えると誰もが手を出さないやばい金持ちから泥棒を成功させているから泥棒の天才だと自分で定義しているだけだ。他人から見たらどう思われているかなんて知ったことじゃないって感じだな」
「ジロキチらしい考え方だね」
ここでコーネはジロキチたちの家に来た本題を話す。
「ちょっとあの仕事の話をしたくてね」
「まぁ、そんなところだろうな」
次郎吉が椅子に座ると入れ替わるようにプラムが席を立ち、昼食の用意をしてくれる。本当によくできたメイドさんである。というか熟練夫婦のような連携と言える。
「プラムちゃんにはもう仕事の話はしたの?」
「詳しくはしてないな。とんでもない大仕事だとは言っている」
「まぁ、実際凄い仕事だよね……ジロキチはさぁ、今回の仕事どうなると思っている?」
「失敗するか成功するかの話か? それとも成功しても命を狙われることになるって話か?」
コーネは次郎吉が成功しても命を狙われることに気が付いていたことに驚いた。
「ちょっと待って! 気づいてたの!? 命を狙われることに!?」
「……あのな。新聞見ていればそんなことになることぐらいわかるに決まっているだろうが」
ファリース侯爵家が何者かに襲撃されたことも怪盗キャリコが自白したことは新聞に載っている。普通に見るならファリース家が侯爵の地位を剥奪されたことで後ろ盾を失ったことで降参したように見える。
しかし怪盗キャリコが自白なんてするはずがないと思っている人がこの新聞を見ると何者かによって自白をさせられたという話になって来る。そうなると怪しいのはファリース侯爵家を襲撃した犯人たちだ。それを考えると侯爵の家を襲える人たちは怪盗キャリコを公開処刑で消そうとしていることになる。
それを次郎吉が邪魔するとどうなるか?当然次郎吉はそいつらから命を狙われることになるという思考になる。それを次郎吉はコーネに説明するとコーネに呆れられる。
「ジロキチまさかそれを承知で仕事を受けたの?」
「そうだが?」
「どうして受けたの!?」
「お前が俺っちにそれを言うのかよ」
次郎吉の切れ味たっぷりの言葉の返しにコーネの精神はダメージを受ける。今回の次郎吉の仕事を手引きした人物の一人だと言えるからな。そんなダメージを受けたコーネに次郎吉は続ける。
「いいか? まず大前提を話しておくぞ? 犯罪をしている限り、命を狙われるのは当たり前のことだ。悪事をするってことはそういうことだぞ? 逆に言うなら命が惜しいならお前は今すぐ犯罪から手を洗うべきだ」
次郎吉の真剣な提案にコーネは返す。
「……それは出来ないよ」
「なら今ここで自分の命を犯罪に賭ける覚悟を決めておけ。たぶんビオラの姐さんたちからもう言われていることだと思うがな」
「言われている。自分の命を賭ける覚悟は出来ているつもり。でもそれがジロキチや他の『アルバ』のメンバーとなると話が別になっちゃうんだよね」
「仲間意識か優しさか……余計なお節介と言っても簡単に治るものじゃなさそうだな。お前の場合」
「あははは……おっしゃる通りです」
コーネが犯罪者ではなかったらそれは美徳とも言える。他人の心配を出来る人間は意外と少ないものだ。しかし犯罪者がこれになるとただ他人の足を引っ張ることになってしまう。今回のように覚悟を決めたことに対して待てをかけてしまうのだ。
それが結果的に良いことになる場合もあるが覚悟が揺らぐとミスをするのが世の常だ。次郎吉ぐらいの犯罪者なら揺らぐことはないが『アルバ』全体のことを考えると心配になる次郎吉であった。
「そうだな……それじゃあ、コーネが安心できるように俺っちが考えている今後の流れについて話しておくか。プラムにも関係がある話だから昼食食べてから聞いてくれ」
ここで三人はご飯を食べ終えると次郎吉は怪盗キャリコを脱獄させた後の計画を話す。
「まず俺たちは仕事をする前にビャク王国のサヤの村で第二拠点の準備を整えるつもりだ。その際にここの設備も丸ごと向こうに移す」
「それはつまりこの家を放棄するということですか?」
「あぁ。相手が侯爵に手を出せるほどの人間となるとかなり上の権力者だろう。本気で潰しに来ることが予想されるから先手で手出し出来ない場所に逃げ込むのが最善の安全策だと俺っちも考えている」
これが出来ない状況下だったら、次郎吉は今回の仕事は受けていない。最悪ビオラに他国の拠点を事前に用意してもらうことにしていたらまだ仕事は受けれたが相手が相当な権力者ともなると他国にも影響を与えてくる可能性は十分に高い。
そういう意味では獣人と友好を結び、人間が手出し出来ないところに逃げられるのは次郎吉にとって非常にありがたい話と言えた。
「その後はしばらくサヤの村で色々付きっきりの作業になるだろうな。人間対策のソーサリーファクトを作らないといけないし、俺っちのソーサリーファクトも強化しないといけない。生活と泥棒の準備が整えたら、泥棒を再開する流れになるな。その間、俺っちは『アルバ』の仕事はソーサリーファクト系の仕事しか受けれないと思ってほしいとビオラの姐さんに伝えてくれ」
「分かった……次郎吉は今後どうなると思っている?」
「……俺っちは捕まるのは時間の問題な気がしている。もちろん簡単に捕まるつもりはないけどな。こういう虫の知らせというか変な予感は当たるもんだ。ただ俺っちが危惧しているのはどうにも世間の雲域が怪しい。シルファリッド王国とバルバリス王国の王様が高齢なのが影響しているんだろうな。正直世間がどういう流れになっていくかが俺っととしては一番の心配事ではある。頼むから世代交代して開戦の狼煙じゃー! みたいな流れだけにはなって欲しくないと思っている」
次郎吉の開戦の狼煙ネタは残念ながらコーネとプラムには伝わることはないが次郎吉が時代の流れを危惧していることは伝わるのだった。




