#60 アーキテの町と魔法使いキラー
ファリース侯爵の執事と別れた次郎吉が向かったのはバルバリス王国だ。次郎吉は透明化のソーサリーファクトで国境を無断で通過すると以前魔霧の森を訪れた際に訪れたパトフの町を超えた先にあるアーキテの町に入った。
アーキテの町はシルファリッド王国でのファクトライドの町というべき町でソーサリーファクトでかなり発展している技術の町だ。次郎吉はここの町のスラム街に用事があって来た。
当たり前の話だがよそ者の次郎吉は当然スラム街の人たちから警戒される。その結果、次郎吉は周囲を囲まれる。
「ここは俺たちの縄張りだぞ? 坊主」
「命が惜しかったら、金目の物を置いていくんだな」
「嘘が下手くそだな。お前ら。ここのボスはダーティーだろ? 配下でもない奴がそんなことを言っていいのか? 消されるぞ? お前ら?」
「「「「っ!?」」」」
チンピラたちはダーティーという言葉に動揺する。そんな彼らの様子を無視して次郎吉はスラム街の奥に向かうと家の扉の前でボロいローブを着て、酒瓶を持って座っている男に次郎吉が近づくと次郎吉は目の前でお金を落とす。
「なんだ? こいつは?」
「闇市への入場料だよ。ダーティーさん。ホーキングからあんたの話を聞かされてね。取引したくてここに来た」
次郎吉はホーキングにとあるソーサリーファクトを手に入れたい旨を相談しており、そのソーサリーファクトにはホーキングや他の裏社会の犯罪者たちも興味を持ったことで情報収集をしてもらっていたのだ。そしてホーキングからバルバリス王国のアーキテの町で開かれる闇市ならそのソーサリーファクトを買える可能性が高いと言う情報を得た。そこでボスの話も次郎吉は教えてもらっていた。
「……俺がボスだと? 笑わせてくれるな」
次郎吉も座り込んで視線を合わす。
「裏社会のボスともあろうお方が馴れない演技なんざするものじゃねーと思うがね」
次郎吉がこの男をスラム街のボスだと確信している様子を男も感じ取る。
「……ホーキングなら俺の情報は知っていないはずだが?」
「知っていなかったとしても裏社会のボスなら一目見ればわかるもんだろ?」
「なるほど……確かに一目見ればお前がどんな悪党がわかるのと一緒か。いいだろう。合格だ。家の中に入れ」
次郎吉はダーティーの案内で家の中に入り、奥の扉から出るとそこには闇市が広がっていた。そこで次郎吉は一人で歩き出し、目当てのソーサリーファクトの物色を始まる。そんな次郎吉の様子にダーティーの部下がダーティーに話しかける。
「ボス。いいんですか? あいつ、よそ者ですよ」
「そんなことはお前に言われなくても分かっている。ただあいつは一級品の犯罪者だ。俺たちの扱い方も知っている上に身に着けているソーサリーファクトも見たことがないものだった。向こうが俺たちに手を出さない限り手を出すんじゃねーぞ。下手するととんでもない被害を受けることになる」
「わ、わかりました。見張りはどうしますか?」
「それは付けとけ。向こうも警戒されることぐらい承知している」
初対面の二人だが裏社会のルールを知っている者同士言葉で伝えなくともある程度のやり取りが成立している。これはお互いに裏社会に関わって来た時間が長いが故に出来ることだと言える。
ここで次郎吉はお目当ての物を見つけつつ、他にも面白そうなものを買い込み、アーキテの町を出るとそのまま国境をまたしても無断で越えて、シルファリッド王国に戻るとここで完全にダーティーの監視もなくなった。
流石に無断で国境を越えてまで監視する理由は彼らにはない。それでも完全にバルバリス王国から次郎吉が離れるまで監視していたという事実がどれだけ次郎吉という存在をダーティーが警戒したのかという証拠とも言える。
とにかく目的の物を買えた次郎吉は長く留守にしていた自宅に帰って来た。
「ただいま」
「お帰りなさいませ。旦那様」
「留守の間、何かあったか? プラム」
「『アルバ』の人たちが何人かソーサリーファクトの魔力充電にやって来たぐらいです。後コーネさんが旦那様が帰ってきたら、連絡して欲しいと言っていました」
「なるほどね」
次郎吉がソーサリーファクトとお金で一杯の風呂敷を机の上に置くとプラムが興味を持つ。
「今回も無事にお仕事を成功されたようですね。これらのソーサリーファクトはなんですか?」
「かなり大きな仕事をまた受けることになっちまってな。それを成功させるためには俺っちのソーサリーファクトもより強力なものに更新しないといけなくなった。そもそもどんどん防犯のソーサリーファクトが強化されているからな。こっちも強化せざるを得ない」
「そこまで大変なことになっているんですか?」
「雑魚の貴族相手ならいいんだけどな。地位が上の貴族になると俺っちの犯罪のソーサリーファクトに対応した厄介な防犯のソーサリーファクトが出回ってきてる。実際に今回の犯罪で俺っちのハッキングのソーサリーファクトが一度対策されて失敗した」
次郎吉は今回の遠征で行った泥棒で成功は多いものの失敗の多い結果となった。その原因が防犯ソーサリーファクトの進化だ。特に次郎吉キラーとも言える防犯のソーサリーファクトの一つがソーサリーファクトに登録されていない人がアクセスしただけで警報が鳴るソーサリーファクトが開発された。
この結果、次郎吉のハッキングが完全に封殺されることになり、次郎吉は手出し出来なくなった。これは完全に泥棒としても魔道技師としても完全敗北を意味している。これを聞いたプラムは驚く。次郎吉のソーサリーファクトの中でも次郎吉の犯罪を支えてきたソーサリーファクトが無効化されたのは流石にショックと言える。それと同時に強化の必要性もプラムは理解した。
「人間の技術力には驚かされます」
「というか防犯のソーサリーファクトを作っている奴が凄いんだよ。しかも完全に俺っちを意識して作ってきてる。これは俺っちに対する挑戦状だな」
俺はお前のソーサリーファクトを攻略した。お前は次どうする?と次郎吉は聞かれている気がしたのだ。そもそもハッキングをするソーサリーファクトは次郎吉が知る限り自分しか使っていない。それなのに対策を講じるというのは完全に狙いすませていることを意味している。
最もどんな犯罪者にも対応してこそ防犯のソーサリーファクトとも言えるし、今でこそ出回っていないが次郎吉の犯罪が新聞に載れば載るほど、犯罪者たちは真似しようと考える。
その結果、類似のソーサリーファクトが登場するのは時間の問題とも言えるのだ。つまり防犯のソーサリーファクトの開発者はその未来を見越して先手を打った。犯罪者から先手を取るのは防犯の基本なのでこの流れは必然と言える。
一方で犯罪者側もここで停滞すると犯罪が出来なくなるので、防犯のソーサリーファクトを超えていかないといけない。ここはもう鼬ごっこになる。だが、そこが面白いと考えて逆に燃えてこそ真の犯罪者だ。
「楽しそうですね? 旦那様」
「あぁ。楽しいさ。プラム。これだから犯罪はやめらないのさ。ただ今回俺っちのお目当てのソーサリーファクトはプラムにも因縁があるソーサリーファクトだぞ?」
次郎吉が一人のソーサリーファクトを手に持つ。
「それがわたしくと因縁があるソーサリーファクトですか?」
「そうだ。商品名はソーサリーキラー。魔法を消滅させるソーサリーファクトだ」
「っ!? これが魔法を消滅されるソーサリーファクト!?」
次郎吉と出会う前のプラムが苦しめられたソーサリーファクトだ。その現物を次郎吉は遂に手に入れた。これで次郎吉は魔法に対して数少ない防御手段を手に入れたことになるかと思いきやそんな簡単な話ではない。
「これから俺っちは新しく手に入れたソーサリーファクトの魔法式の解析から新作の開発をしないといけない。プラムには手伝ってもらうことになると思うからよろしく頼むな?」
「はい! 喜んでお手伝いさせていただきます!」
こうして次郎吉は来たる大仕事に向けて、魔道技師としての仕事に精を出すことになるのだった。




