#6 魔法とソーサリーファクト
次郎吉はまず作り方を知るために本を買うことから始める。これが中々に難航した。三歳児が専門書を買うことに違和感を持たれてしまったのが原因である。
「じいちゃんが病気で倒れちまって……俺っち……どうにか父ちゃんの役に立ちたいんだよ! おっちゃん! 頼むよ! お金ならちゃんと払うからさ!」
秘儀、情に訴える。三歳児の姿で威力は倍増である。
「……あんた。売ってやりなよ」
「いや、ソーサリーファクトの専門書を簡単に売るわけにはいかねーことぐらい知っているだろ?」
どうやら子供以前に簡単には買えない書物らしい。考えてみると危険極まりない代物だから国のほうで規制されても不思議ではなかった。
「知っているけどさ。介護で新しい仕事をしないといけない事情も分かるし……親が動けない事情もあんたならわかるだろ?」
「そりゃあ……わかるがよ。あぁ~! もうわかった! お金はあるんだな? 坊主?」
「ある! 売ってくれるの? ありがとう! おっちゃんに綺麗なお姉ちゃん!」
「ちょっとあんた! 綺麗なお姉ちゃんだってさ!」
「お世辞に決まっているだろ……うご!?」
次郎吉が余計なことを言ったせいで店主のおっちゃんが蹴られてしまった。次郎吉は心の中で謝りながらソーサリーファクトの専門書を手に入れた。
その後、次郎吉はソーサリーファクトの専門書を隅々まで読んで作り方を覚えていく。実は生前の次郎吉は幼少時代には建具職人の弟子となっており、大人になってからは鳶人足をしていた。
建具職人は引き戸や障子、襖などを作る職人のことで鳶人足は建築や土木作業で足場の組立てなど雑務を行う者のこと。鳶人足においては高所の作業もしている。
つまり次郎吉は引き戸や障子に詳しく、建物の構造にも詳しくうえに屋根上での仕事をしているのが日常だったため泥棒が天職になる条件は整っていたのかもしれない。
そんな次郎吉の過去だがバリバリの職人をしていたことから手先は器用で教えられた仕事はちゃんとこなせるだけの知恵は持っている。だからソーサリーファクトの専門書を完全に理解はできないまでもある程度は理解した。
「後は実際に作業してみねーと作れるかどうかわかんねーな」
そしてここからが大変な作業となる。何せ子供にソーサリーファクトの部品を売るような人がまずいない。次郎吉が値段を確認すると次郎吉の予想通りピンキリはあるものの基本的には高級品だった。
「盗んでもいいが……物取りは俺っちの主義じゃねーんだよな」
そんなわけでソーサリーファクトの部品を扱うお店を調査する。流石に今回は情に訴える作戦は通用しそうにない。高級品でもあるし、そもそもソーサリーファクト自体が作り方次第で非常に強力な武器となる。そんな危険物を情に訴えて買わせてもらえるほど甘くはない。
「(店長確認……なるほど。そういうタイプの人間ね)」
次郎吉は店長を遠くから見て人間性を把握した。かなり危険ではあるがソーサリーファクトの部品は買えそうと次郎吉は判断した。かなり危険と思った原因は自分の存在が怪しまれてしまう点だ。今まで子供であることを最大限利用してきたがソーサリーファクトの部品を買うとなると自分の素性を見せざる負えないと次郎吉は考えた。
(今は動くべきじゃないな……)
次郎吉は一旦ここは引き下がる。次郎吉はずっとこの町に居続けるつもりはない。何せ孤児院があるからだ。たくさんいる赤ん坊の中から次郎吉のことを覚えている奴はそうそういないと思いたいが覚えている奴がいる可能性は十分にある。つまり自分の安全を考えるならさっさとこの町から離れるのが得策なのだ。
しかし次郎吉はまだ異世界のことをよく把握していない。まずこの世界のことをよく把握しつつ、泥棒するターゲットを絞って、全ての準備を整えてからソーサリーファクトの作製に手を出すべきと考えた。
そんなわけで次郎吉は数日間、町を物色して異世界の知識を得つつターゲットを探す。どうやらソーサリーファクトは乗り物にも使用されており、この異世界にもソーサリーファクトを使用した車やバス、トラックなどの乗り物が存在していた。船は存在しており、電車や飛行機のような乗り物は残念ながら存在していないようだ。
バスは公共交通機関としてお金を支払えば誰でも乗れる。ただ車などは現代のように誰もが乗れるような代物ではない。また現代の日本のように町の外まで道路が整備されている世界ではないようだ。
そんなことを次郎吉が調べていると次郎吉の鼻に反応があった。
(臭いとしては弱い部類だが……結構悪さして稼いでいるな)
次の泥棒のターゲットを見つけて、次郎吉はターゲットの後を追うとソーサリーファクトの車持ちの家に辿り着いた。家族構成を調べると父と母、病弱の娘が一人の三人家族。父親が貴族で現代でいうところの政治家らしい。
政治家なら裏金を持っていても不思議じゃない。というか次郎吉目線では裏金を持っていると確信していた。つまり次郎吉の狙いはその裏金となる。
母親はどうやら花屋を営んでいるらしい。父親は夜に帰ってくるか出張でいないかどちらかわからない。母親は確実に夜になると帰ってくることを確認した。また仕事する日が決まっているわけではなさそう。夫婦の会話を盗み聞きするとどうやら娘の体調に合わせて仕事しているようだ。母親ならそこは当然の選択にはなるだろう。
娘のほうは体調が悪い日のタイミングは完全にランダム。更にピアノという楽器の習い事をしているようだ。病弱なのによく習い事をするものだと感心するが次郎吉にとっては邪魔な存在となる。
今回の場合だと泥棒を狙うタイミングは昼間がベストだ。娘の調子が良ければ両親がいない時間帯になるからね。しかし娘の調子がいいと昼間にピアノの先生が来る可能性がある。これが来るのか来ないのか次郎吉には調べてもわからない不確定要素となった。
更にもう一つ次郎吉の障害となるのがソーサリーファクトだ。どうやら侵入者に対する防犯装置としてもソーサリーファクトは使用されるらしい。次郎吉も引っかかりそうになったが事前に知識を得ていたため防犯装置の存在に気が付いて難を逃れた。
「あれをすり抜けるためのソーサリーファクトの作製と逃走用のソーサリーファクト最低二つ作製しないときつそうだな」
更に次郎吉は自分が生まれた場所の調査も開始した。次郎吉のこの町での最終的な目的は自分が生まれた家での泥棒だ。ただここにもかなり高級な結界タイプのソーサリーファクトの防犯装置があった。
「邪魔だな……待てよ?」
次郎吉は自分が生まれてから外に出たときのことを思い出した。あの時にソーサリーファクトは何も発動していなかった。次郎吉は夜に屋敷に潜入すると案の定ソーサリーファクトは発動せず次郎吉は結界をすり抜けることに成功した。
「自分があの家の人間として認識されているからソーサリーファクトは侵入者として俺っちを認識しなかったわけか……くっくっく。これは致命傷だぜ?」
いずれにしても最初の犯行をするためには防犯装置突破用のソーサリーファクトは必須となる。ただ遥かに厄介なソーサリーファクトの攻略をせずに済みそうなのは嬉しい誤算だ。この町での泥棒計画も決まったことでいよいよ次郎吉はソーサリーファクトの部員を買いに行く。
「親父、ソーサリーファクトの部品を売ってくれ」
「あん? なんだ? このガキ? お前なんかに売れるわけねーだろうが」
「これを見てもそう言えるか?」
次郎吉はお札の束を店長に見せると店長の様子が変わった。
「お、お前!? そんな大金どうやって」
「知りたいのか? 知らないほうがお前の身のためだと思うが? それにお前が今するべきことはそこじゃないだろ? 交渉しようじゃないか。親父。あんたが俺っちに部品を売ってくれるなら余分にお金を出す。あんたは商売人としてどうするよ?」
親父が唾を飲み込むと札束を見る。次郎吉の予想通り金に目がないタイプの人間だった。
「……いいだろう。話を聞こうじゃねーか。クソガキ」
「じゃあ、まずは闇属性と雷属性の魔力蓄電池を見せてもらおうか?」
こうして次郎吉は孤児院から盗んだ金をほぼ使い切ってソーサリーファクトの部品を揃えることに成功した。そして作製に移る。まず防犯装置対策のソーサリーファクトからだ。
次郎吉が調べてたところ現代でいうところの赤外線センサーを使った防犯装置らしい。残念ながら赤外線センサーの代わりとなる光線は普通の人間の目では目視出来ない。しかし光線が出る場所が決まっているので攻略は可能だ。
ここで魔法とソーサリーファクトの解説をしていこう。
まず魔法についてだが、この世界には風、火、土、水、光、闇、雷、爆発、草、氷の十種類の魔法の属性がある。魔法使いが使える魔法は一種類のみで魔法の種類によって魔法使いの評価も変わる。一番評価が高いのは爆発属性らしい。一番殺傷能力が高いのが原因だろう。
そして魔法の構造についても説明しなければならない。魔法使いは魔力コアという魔力を生み出す臓器のようなものを持って生まれてくる。次郎吉が孤児院で使用された謎の機械の正体は魔力コアを見つけるためのソーサリーファクトだったわけだ。
しかし魔力コアを持っていただけじゃ魔法は使えない。魔力を外に出すための管が必要なのだ。これを魔力ラインと言うらしい。人間でいうところの魔力コアが心臓、魔力が血液、管が血管のイメージでいいだろう。
そして外に魔力が放出されると空気に含まれる魔素というこの異世界にしか存在しない元素と魔力が魔力反応という現実で言うところの化学反応を発生させることで魔法が初めて人の目に見える形で出力される仕組みだ。つまり魔法の属性は魔力で決まり、魔素は同じ属性の魔力としか魔力反応を起こさないという話になる。
魔法の理論が分かっていただいたところで次はソーサリーファクトの説明だ。魔法の理論に当てはめて考えると魔力を蓄電する装置が魔力コアとなる。この魔力の蓄電でソーサリーファクトの属性が決まるわけだ。
そして魔力を流すための管を人工的に作成した道具に出力する仕組みとなっている。ここで重要となるのがスイッチの存在だ。
まず魔力コアの蓄電には魔法使いから魔法を蓄電してもらわないといけない。逆に言うと魔力コアに蓄電された魔力を使い切るとソーサリーファクトは機能しなくなる。つまりスイッチがないと魔力をずっと垂れ流す状態となり、すぐ魔力切れを起こしてしまうわけだ。
更にスイッチには外の空気を道具内に入れるという役割もある。先ほど話した魔素は空気中に含まれている元素だ。つまり外の空気をソーサリーファクトの中に入れないとソーサリーファクトの中で魔法が発動しないのだ。
ソーサリーファクトの理論を話したが簡単にソーサリーファクトのことをまとめると道具内で魔法を発生させることで様々な道具の効果を生み出すのが魔道具ソーサリーファクトとなる。
金属の種類によって魔法や魔力に反応しやすい金属があるらしく、警棒に使われていた金属がこれに該当している。つまりソーサリーファクトの作製には部品に使用される金属も重要であり、金属を使い分けてソーサリーファクトは作製しないとソーサリーファクトは作れないかなり難易度が高い道具と言えた。
そんなソーサリーファクトを次郎吉はトライアンドエラーを繰り返して完成させる。出来上がったのが箱型のソーサリーファクト。これは闇属性のソーサリーファクトで箱の頭上に闇を発生させることで光を遮断することが出来る。
つまり赤外線センサーに使われている光属性の光線を遮断することが出来るソーサリーファクトとなった。この光と闇の関係のように魔法の属性には有利と不利、もしくは相互関係が存在している。光と闇の属性は相互関係である。
相互関係の場合は力の強さで勝敗が決まる。今回の場合だと防犯のソーサリーファクトは家の周囲に光線を展開しなければならない。それに対して次郎吉のソーサリーファクトを頭上の光を遮断するという一点集中タイプのソーサリーファクトとなる。
流石に市販のもののほうが性能はいいはずだが、ソーサリーファクトの出力を一点集中するなら次郎吉のソーサリーファクトが上回るだろう。
「構造が複雑な故に単純な構造に出力差で負ける……ソーサリーファクトか。これははまりそうだな」
次郎吉からすると金持ちが自分のような貧乏人に負ける感覚と近い気持ちを次郎吉は得てしまった。何はともあれまずは最初のターゲットである政治家さんの家に泥棒する最低条件は整った。
ここで次郎吉のお腹の虫が鳴る。ソーサリーファクトの作製でお金が尽きて、食料が無くなっていた。
「逃走用のソーサリーファクトがないのは不安だが、やるしかないな。初陣だぜ。俺っちのソーサリーファクトちゃん」
そんなわけで次郎吉は初めてソーサリーファクトを使用した泥棒に挑むことになるのだった。




