#59 ファリース侯爵の後釜
次郎吉たちが怪盗キャリコのことで動いていることなど全く知らない王族たちは予想通りの状況に陥っていた。
「私は怪盗キャリコに何度も盗みに入られた被害者です! ファリース侯爵の後釜には私こそが相応しい!」
一人の両手に宝石の指輪を付けている小太りの坊ちゃん貴族がそういうと別のノッポの坊ちゃん貴族が意見を言う。
「それを言うんだったら、僕の家からあいつは高額な絵画や壺、大きな宝石を盗み出したんだぞ! 被害額なら僕が一番大きい!」
これに怪盗キャリコの被害者の会が次々声を出す。これを聞いている王様たちからするとこれは一体なんの暴露大会だろうって思ってしまうのは無理もない。ここでまともそうな若い政治家が声を上げる。
「待ってください。侯爵ですよ? そんな被害で考えるよりも政治での貢献度で選択するべきです。私は北の田舎道を整備を進言して、魚をより安値で流通させることに貢献しました」
これに対して長年政治に関わって来た老人の政治家が発言する。
「北の道なら既にあっただろうに……それと比べるなら儂の農地の拡大で野菜の値段を下がったほうがわかりやすいと思うがの? 戦争が発生した時に兵糧で困ることが無かったのは儂の功績と言っても過言ではないぞ?」
この発言に対して中年の政治家が声を上げる。
「それをあなただけの功績とおっしゃるのは無理があるというものですよ? 確かにあなたが発案者の一人ではありましたが他にも複数の政治家が進言していたはずです。私の引退した父もその一人でした。勝手に手柄を独り占めしようとする人が侯爵に相応しいとは到底思えませんな」
「何もしらん若造が偉そうに言う出ないわ。儂が声を上げたから他の政治家がそれに群がって来たんじゃろうが……お主の父も羽虫と同じよ」
「……あなたの父を羽虫ならあなたは芋虫ですな。国民が一生懸命田畑で作った財産を食い荒らすあなたにピッタリです」
「貴様……ここは政治を話し合う場じゃぞ?」
「始めたのはあなたのほうだと思いますが?」
ここで国政の補助役であるギルター宰相からストップがかかり、一旦場が落ち着く。しかしまた議論が始めるとまた場が荒れる。この光景をまだ幼く政治から距離を取らされているラピーシア王女とラピーシア王女専属騎士のルルが影で感想を言う。
「なんておぞましい光景でしょうか……これが国の中心で行われている政治と国民が知ったら、一体どんな顔をするんでしょうね」
「残念には思うでしょうが国民が声を上げるのは政治が決まった後ですからね。その政治で苦しんだら声を上げるのが国民です。もしこの光景を国民に映し出しても一部の政治や経済に詳しい人間は異議を唱えるだけで直接行動する国民は数少ないと思います」
「……結局自分たちがしっかりするしかないという結論になりそうです」
「それが王族の役割というものですよ」
そんなくだらない議論が続き、数日が経過するとギルター宰相から国王たちにファリース侯爵の後釜候補が告げられる。
「議論を纏めたところエターナス伯爵、コリダー子爵、ダリス財務大臣、ガガド経済大臣に絞ることにしました」
「理由を聞こう」
「は。エターナス伯爵を選んだ理由は政治及び国民への貢献度を考えたときに一番侯爵として相応しい人物だと思いました。彼ならすぐにでも侯爵としてやっていけるでしょう」
「エターナス伯爵が候補にあげるのは私も同意見です。父上。彼はかなり聡明で国民からの人気も高い。彼を後釜に選んだら、国民全てが納得すると思います」
第一王子の言葉に国王も無難な選択肢だと思った。しかし今回は有能な人材だけで選ぶと貴族たちの反感を買う難しい案件だ。なので国王は次の候補者のことを聞く。
「コリダー子爵は怪盗キャリコの被害者の一人です。被害者の中では被害総額と被害件数が多い貴族で今回、怪盗キャリコの被害者が後釜になるべきだと提唱している貴族や政治家の中では一番理知的に思えました」
「あいつのことなら俺も覚えているぜ。被害者であり、侯爵の能力がある人間がなるべきとか当たり前のことを言ってた奴だろ? 被害者の意見を取り入れるなら俺もあいつはいいと思うぜ? 政治能力はあるんだろ?」
第二王子が質問するとギルター宰相が答える。
「あるにはありますが子爵であり、異例の特進になるでしょうからすぐにファリース侯爵のような役目をするというのは難しいでしょう」
「それは他の二人の大臣にも言えることですよね? 政治家と貴族とでは求められる役割がまるで違うのですから」
シルファリッド王国の政治を現代の日本で例えるなら貴族は都道府県知事や市長に該当する。政治家は現代と変わらない選挙で選ばれた議員であり、大臣は行政部門の長だ。
第一王子が言いたいことは貴族は自分の管轄の町や村で政治を行っている。それに対して政治家は国の将来について議論し、その結果を国に報告するのがお仕事だ。その報告を見て、国の行く末を決めるのがシルファリッド王国では王様となっている。
つまり政治家は直接政治を行ってはいないのだ。それがいきなり政治を行うようになると独断で突き進みがちだ。自分の理想論で政治を行った結果、失敗すると今回のように地位剥奪となる。侯爵でそんなことをされてしまったら、任命した国側にも責任が発生する。なので慎重に選ばないといけないのだ。
「王子のおっしゃる通りです。なので大臣の方でも政治に深く関わっており、怪盗キャリコの被害を受けたことがある二人を候補に選びました」
「ダリスとガガドなら確かに侯爵としてやっていけそうではあるな。しかしいくら大臣といえどいきなり侯爵をさせるのはな」
王様は大臣が侯爵になるのは反対のようだ。それだけ侯爵という地位は高く、責任が重いと言える。ここでギルター宰相から提案がされる。
「それでしたら、伯爵か子爵どちらかを侯爵に選び、抜けたどちらかに大臣を入れると言うのはどうでしょうか?」
「なるほどのぅ。よく選んでおる。流石じゃな。ギルター」
「恐れ入ります。王様」
ギルター宰相の考えを聞いた王様はギルター宰相の言いたいことを全て理解した上で決断する。その結果、エターナス伯爵が侯爵に選ばれ、コリダー子爵は伯爵となり、ダリス財務大臣はダリス子爵となり、ガガド経済大臣かガガド財務大臣となり、新たに政治家から年寄り政治家と言い争いをしていたゲーファムが経済大臣になることが決定した。
この結果を知ったビオラとラピーシア王女は密会を再び行う。
「今回の一件、ギルター宰相の思い通りに動いた感じがしてならないわ」
「その意見には賛成です。候補者を絞ったのは彼ですから。でも、最終的に決定したのはお父様たちなのでなんとも言えない感じです」
「王様が個人的に信用している人物を選んでも良かったからですね? いずれにしても結果的に今回は全員が地位が上がったことになった。つまり選ばれたメンバー全員にファリース侯爵を貶める動機がある。はたまた事件を起こして自分の思い通りの結果にならなかった場合もある」
「そうなると怪盗キャリコの被害者で声を上げていた人たちや侯爵の地位欲しさに声を上げていた人たち全員が怪しくなりますね」
ビオラとラピーシア王女は同時にため息を吐くとビオラが言う。
「鍵を握っているのは怪盗キャリコね。彼女が誘拐されて、その後自白したということは彼女が何か知っている可能性が高い」
「言われてみるとそうですね。あれ? でも、それってつまり今回の犯人は怪盗キャリコを消すつもりってことですか?」
「恐らくね。でも自分の手を汚すのが嫌だから公開処刑させるように仕込んだように思えるわ」
「えーっと……つまり彼女を助けちゃうと助けた人も命を狙われるのでは? 私、ビオラさんにお願いを言っちゃった手前、非常に申し訳ないのですが」
ラピーシア王女の言葉にビオラは笑顔で次郎吉はそんなことを気にするような男じゃないと断言してラピーシア王女を安心させるのだった。




