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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
青年期編
57/65

#57 次郎吉とファリース侯爵の執事

ビオラが変な入れ知恵を行っていることなど全く知らない次郎吉は貴族や政治家の家をターゲットに東の町を中心に泥棒を行う毎日を送っていた。そんなある日、いつも通り泥棒に向かっている途中で視線を感じ、視線を切るように横道に逃げ込んだ。


「誰だ? ソリスではないことは確かだが……俺っちに気付かれたことを知っても近づいてくる? ……逃げるか」


次郎吉はこの日の泥棒を諦めて、謎の人間から逃げることを選択した。相手が只者じゃないと次郎吉は本能で感じ取ったのだ。そして次郎吉の予感は的中する。


「またあいつか……明らかに俺っちを狙ってやがるな。貴族や政治家の追手か何かか?」


次郎吉が場所を変えて泥棒をするとその相手はすぐ察知して、次郎吉を追ってきていた。完全に鬼ごっこをしているかのような状態だ。


「参ったな。このままの状態で家に帰ることも出来ないし、プラムに連絡も出来ないぞ」


自分が付けられている状態で家に帰るなんて選択肢を次郎吉は取れない。まだ第二拠点を完成させていない上にプラムや『アルバ』に危害を与える可能性が極めて高い危険な行動だ。これが一人だったり、罠などがあるなら誘い込む手もあるが現状の次郎吉ではその手は使えない。


そうなると何処かで決着を付けないといけないわけだが、次郎吉は『アルバ』に連絡を入れて、コーネが次郎吉と合流する。


「あ、いたいた! どうしたの? ジロキチ?」


「ちょっとまずい状況でな。宿屋で話させてくれ」


次郎吉はコーネに最近何者かに追跡されていることを話すとコーネには当然心当たりがあった。


「え……それって」


「なんだ? 何か心当たりでもあるのか?」


「ふぇ!? いや~……その~……心当たりがあるというかないというか~」


次郎吉は歯切れが悪いコーネを見た瞬間、何か隠していると確信し、立ち上がるとソーサリーファクトを漁り出す。それを見たコーネは慌てる。


「ちょ、ちょっと待って! どんなソーサリーファクトを取り出すつもり!? まさかまたあたしの下着を」


「その程度で済むと思っているのか? あれから何年経過していると思っているんだよ。プラムで実験するわけにもいかないからな。ちょうどよかった」


これを聞いたコーネの顔は絶望と共に顔が真っ赤になって慌てる。


「もう実験される前提で話を進めないで! わかった! ちょっとだけなら話すから許して!」


あっさり次郎吉に白旗を上げるコーネである。次郎吉としてはコーネがどんな想像をしたのか気になるところではあるが乙女にそんな質問をするのは野暮という物だ。


「よし。じゃあ、聞かせて貰おうか。俺っちを執拗に追いかけてくる奴の正体について」


「えーっと……たぶん正体はファリース侯爵の執事さんだよ」


「ファリース侯爵の執事? ファリース侯爵って言うのは確か最近侯爵の地位を剥奪された貴族の名前だったな」


「そう。今、王都ではその事件で市民同士が衝突したりして大変なんだよ」


怪盗キャリコやファリース侯爵が好きな市民がたくさんおり、逆に怪盗キャリコは犯罪を犯しているのだから裁かれるのは当然であるという意見もあることで市民同士がぶつかってしまったのだ。


「ファリース侯爵がどれだけ市民に寄り添ってくれたのか忘れたのか!」


「忘れてねーけど、娘が犯罪を犯したんだ! 親にも責任が生じるのは当然だろうが!」


「今までの良いこと全てが一つの悪事で全部無かったことにするというのか!」


「犯罪を犯した時点でそいつはもう犯罪者なんだよ! それまでどれだけ良いことをしてもな! それが法律で国の決定なんだよ! 受け入れるしかねーだろうが!」


擁護派の意見もわかるし、実際に国ではこれまでのファリース侯爵の功績を考えて減刑の意見が出ていた。しかし非難派の犯罪は犯罪。責任は取るべきという意見に押し切られた形だ。


実際にこの世界の法律でも現代の法律でもどれだけ良いことをしていても一つの犯罪で捕まり、裁判で有罪が確定したならその人は犯罪者となる。つまりどれだけ良いことをしても一つの悪いことをすることが許さないのが法律だ。


「王都の騒ぎはどうでもいいがどうしてファリース侯爵の執事が俺っちを追ってきているんだよ」


「えーっと……ジロキチとお話したいだけなんじゃないかな?」


「お話だぁ? 確認しておくが面倒事じゃないよな?」


次郎吉の嫌そうな視線がコーネに向くとコーネは視線を逸らして元気に発言する。


「……ジロキチならたぶん大丈夫だよ!」


「よし。面倒事だな。なら話は終わりだ。ありがとさん」


「わー! わー! ちょっと待って! この話にはちょっとした事情があるんだよ!」


「なんだよ。面倒臭いな。事情があるかどうか知らないが面倒事には違いがないんだろ? なら俺っちはお断りだ」


次郎吉は今回の一件は逃げる気満々である。何せサヤの村で第二拠点の準備などをしなければならない上にいつサヤの村が人間に見つかり、襲撃されるのかわからない状態なのだ。他の件に首を突っ込む時間も余裕もない。それでもコーネは譲らなかった。


「いいから座って聞いて! 実はそのファリース侯爵の執事の話はラピーシア王女も色々思うところがあるらしくて、出来ればジロキチに仕事を受けて欲しそうにしていたんだよ」


「……俺っちの話をしたのはラピーシア王女なのか?」


次郎吉の疑惑の視線がコーネを貫くとコーネは慌てて、否定する。次郎吉としてはラピーシア王女が自分の情報を他人に渡す行為は許せる物じゃない。そこらへんはラピーシア王女も理解している。


「違う違う! ラピーシア王女はファリース侯爵の執事さんが次郎吉に依頼したい仕事の内容を知っているだけだよ」


「……ほーん」


次郎吉からするとラピーシア王女が白なら残すのはビオラや『アルバ』の関係者だけとなるのだが、コーネはその事実に気付いていない。


「と、とにかく話だけでも聞いてみて! わかった?」


「断る!」


「断らないでよ!」


次郎吉はコーネの駄々っ子攻撃も面倒臭くなり、話だけでも聞くことにした。その日の夜、次郎吉からファリース侯爵の執事が泊っている宿屋に窓から次郎吉は侵入に成功し、二人は初めて接触する。


「幻の姿で失礼。あんたがファリース侯爵の執事でいいか?」


「その通りでございます。鼠小僧様。まさかあなたのほうから接触してきてくださるとは思っていませんでした。ずっと追い続けたことお詫び申し上げます」


「邪魔になったのは事実だがそっちにはそっちの事情があったんだろ? 俺っちを追い続けた根性に免じて話を聞きに来た」


コーネから話を聞いた次郎吉はファリース侯爵の執事が何を考えて次郎吉を追いかけていたのか理解している。ただ次郎吉と接触したいだけではない。それならアルバを通じて次郎吉に連絡を入れて接触すればいいだけの話だ。


それをせずに自力で次郎吉を追おうとしたということは次郎吉に自分の腕を見せようとしたということ。初対面の犯罪者に仕事を依頼しようとしているのだ。まず依頼主として実力を見せようとするのは当然と言えば当然の判断と言える。


「ふふ。根性ですか……なら追い続けた甲斐があったというものです。では私があなたに依頼したい仕事の内容についてお話いたします」


ここで次郎吉は初めて仕事の内容を聞いた。


「俺っちに刑務所に捕まった怪盗キャリコを盗み出して欲しいか……言っとくが俺っちは泥棒の天才であって誘拐や救助の天才ではないんだからな?」


「それは存じております。しかし刑務所の防備は極めて厳重です。凄腕の犯罪者でも侵入すればほぼ捕まってしまうでしょう」


「そりゃ犯罪者が簡単に侵入や逃げ出せたら、刑務所の意味がないからな」


「その通りでございます。その難攻不落の刑務所を突破するためには見張りに見つからないことはもちろんのこと、牢屋や手錠の鍵開け、数多く設置された防犯のソーサリーファクトの突破が要求されます。私の中でこれに成功できる人物はあなたしかいないと思っているのです」


次郎吉はファリース侯爵の執事を高く評価する。あくまで泥棒として難易度が滅茶苦茶高い挑戦するように誘導している。泥棒という犯罪に心を支配された人間の心理をよく理解していると思ったのだ。


「なるほどね。それで? 報酬はなんだ?」


「ファリース侯爵の全財産でどうでございましょうか? 失墜しても財産は残っております。残念ながら私の権利ではなくお嬢様にしか引き出せる物ではありますが」


「親が死んだら、財産権は子に行くからな」


「その通りでございます。それでいかがでしょうか? 何かご要望があるならお聞きいたします」


次郎吉は即答する。


「そうだな。報酬があんたらが使っている情報筋の共有とあんたらが裏で取引している人物の紹介だったら、その仕事受けてもいい」


次郎吉の答えにファリース侯爵の執事は驚きの余りに目を丸くする。


「え? それって財産はいらないと言うのですか? 一生は軽く遊んで暮らせますよ?」


「だろうな。けどそれは俺っちが欲している未来じゃない。俺っちは貧乏でいいんだよ。貧乏だから泥棒をして、豪遊してまた貧乏になる。それが俺っちが欲している未来だ。一生遊んでばかりの人生なんてつまらなくて俺っちはごめん被る」


この次郎吉の考えを聞いたファリース侯爵の執事は次郎吉という泥棒を余りにも軽く見ていたことを自覚する。なんという犯罪の無限ループだろうか。それは次郎吉が真の犯罪者である証拠とも言える言葉だった。


「……お嬢様の気持ちが少し理解出来た気がします」


「何か言ったか?」


「いいえ。こちらの話でございます。鼠小僧様がお望みの報酬でよろしいのでしたら、ご用意できます」


「なら話は決まりだな。お前さんの仕事、鼠小僧が引き受けた」


こうして次郎吉は交渉に成功して、仕事を受けることになるのだった。

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