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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
青年期編
55/65

#55 ラピーシア王女とビオラの密談

ビオラはラピーシア王女と連絡を取り、事情を説明すると夜に面談する流れとなった。そこで今回起きている国が把握している流れが説明される。


「まず今回の事件の発端はファリース侯爵の失脚を狙った何者かの陰謀である可能性が高いとわたしくたちは考えています」


「怪盗キャリコとかどうでもいいということでしょうか?」


「その通りです。あくまで彼女はファリース侯爵を失脚させる口実として利用されたとわたしくたちは考えています。そしてその証拠を知る新聞会社が潰された流れになっている」


「それはその通りだと思いますわ」


今回の一件の発端は新聞記事だ。裏で何かが動いているなら必ず発端となった新聞会社とその何者かの繋がりが無ければならない。そしてその何者かによって、新聞会社は潰されて自分との繋がりを絶ったというわけだ。


もし新聞会社が残っているならその何者かを調べるために『アルバ』が新聞会社に密偵を送り込んでいた。相手の狙いが侯爵の地位なら貴族や権利が高い政治家が今回の事件に関与している可能性が高いからだ。


しかしその動きを警戒したのかわからないが新聞会社を潰れたことで『アルバ』としては動けなくなったと言える。


「問題は今回の一件が誰によるものかですがそれはわかっておりません。しかしファリース侯爵の執事さんの話ではファリース侯爵の家を襲ったのは相当な手練れの暗殺者集団だったらしいです。並みの人物では雇うことは出来ないでしょう」


「仕事の内容が仕事の内容ですからね。相当なお金のやり取りがあったと見るのは普通だと思いますわ。となると今回の事件で美味い汁を吸えたのは大物政治家か高位の貴族ということになるますが」


「絞れませんね。怪盗キャリコの被害者が多すぎるんです。怪盗キャリコの証拠も不十分なのにファリース侯爵の失脚を望む声が多すぎてお父様も押し通されちゃいましたからね」


今回の事件で王様に直談判した政治家や貴族の数は100人を超える。政治家の数も貴族の数も過半数を超えている抗議であったために国としてはどうすることもできなかった。


これは単に被害者だけの数ではない。自分がいつ被害に会うかわからない貴族や政治家たちは当然批判側に付く。更に犯罪者は犯罪者であり、裁かれるべきという正義派もいたことで今回は圧倒的な数で押し通された形だ。それについてビオラは言う。


「ファリース侯爵が生きていれば口で戦うことになったんでしょうけど、今回の事件の黒幕はそれを嫌ったってことになるでしょうね」


「ファリース侯爵は自分の発言を絶対に譲らない強さと口の上手さ、信念を持っていましたからね。お父様とお兄様も惜しい人を失ってしまったと残念がっていました」


つまり今回の黒幕はファリース侯爵と口で勝負するのを避け、暗殺を選んだということになる。この結論に至ったビオラは黒幕が随分小物に感じた。しかしそんな小物に今回の事件が起こせるのかが問題だ。


「……新聞の記事が新聞会社の単独でそれに便乗した形で邪魔なファリース侯爵の排除に動いた? それにしては流れが速すぎるのよね」


ビオラからするとファリース侯爵の放火暗殺は明らかに事前準備がされた犯行に見えている。僅か数日で暗殺者をたくさん雇って、放火の準備までするとなると時間が足りない。暗殺者もみんながお金を貰ってどんな汚れ仕事でもしますという存在ではないのだ。


仕事の内容を見て、貴族の暗殺は大犯罪だから関わり合いたくない暗殺者もいるし、女子供の暗殺はしない次郎吉と同様に独自の主義を持っている暗殺者もいる。また即断即決する暗殺者ばかりじゃない。凄腕であるほど、仕事内容の確認や犯行場所の情報、逃走手段など知らないと仕事を受けることはまずないと言っていい。


そして今回の放火暗殺に関与した人物たちはソリスに捕まっていない。つまりこの閉ざされた王都シルファードで暗殺を成功させて隠れることに成功したかもしくは王都シルファードからの脱出に成功したことを意味している。


これが小物に出来ることなのかビオラは考えた上で不可能ではないが限りなく不可能だという結論に至る。


「とにかくお話はわかりました。情報提供ありがとうございます。黒幕についてはこれからの流れで怪しい人物は出てくるでしょう」


「わたしくたちもそう考えています。そちらの情報については引き続きお渡ししますね?」


「感謝申し上げます」


怪しむべきはファリース侯爵の後釜に立候補する人とその人を支持する人となる。この辺りは当然国やソリスも怪しむだろう。問題は今回の事件を起こした黒幕もそんなことは分かっているからどう動いてくるかだ。ここでラピーシア王女が聞いてくる。


「今回の一件、『アルバ』は動きますか?」


「黒幕がまだわからない上に汚い金のやり取りをしている確証もありませんから『アルバ』としては現状動けないですね。ラピーシア王女はどう考えていますか?」


「わたしくも『アルバ』の組織のことを考えたら、今回の事件の関与は現時点ではなしです。ただファリース侯爵の娘さんとはわたしくも面識がありまして、出来ることなら助けてあげて欲しいです。彼女もまたわたしくと同じ思想の持ち主でしたから。後、執事さんからの情報によると彼女は暗殺集団に誘拐されたそうです。なので今回の自白は彼女の意志じゃない可能性が高いんです」


侯爵の地位の娘なら当然国主催の晩餐会などに招待は受けて参加している。そこで二人は話をして意気投合したことがあったのだ。


「誘拐されていたのなら自白は仕込まれたものと見るべきですね。あれでファリース侯爵家と怪盗キャリコの関係が決定的になりましたから」


「わたしくたちも彼女が生きていて、怪盗キャリコのことを議会で否定してくださっていたら、まだファリース侯爵の地位剥奪に待ったをかけられたんですがその逆をされたことで詰みましたね」


「そうでしょうね。しかしそれを知ってもなお『アルバ』としては動けません。ただラピーシア王女の願いを叶えてくれるかも知れない存在が『アルバ』には一人おりますわ」


刑務所から一人の犯罪者を盗み出し、組織とは別で単独で動ける人材にビオラとラピーシア王女は心当たりがある。


「彼が受けるかどうかわかりませんがラピーシア王女のお話はしておきますね?」


「よろしくお願いします。では、失礼しますね? わたしくのお願いが届くことを祈っています」


ラピーシア王女は自分の願望をビオラに伝えて、店を去るのだった。

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