#53 ソリスのトップとファリース侯爵家の失脚
翌朝、ファリース侯爵の家が何者かに放火されたニュースは王都シルファードを中心に一気に広がる。その結果不幸に襲われたのは怪盗キャリコの暴露をした新聞会社だった。
「お前たちの記事のせいでファリース侯爵が死んだんじゃないのかよ!」
「この人殺し会社が!」
「裏金政治家と悪徳貴族の回し者が! 俺たちが毎日どれだけ苦労していると思っているんだよ!」
「怪盗キャリコこそ我々市民の英雄! 彼女の仇を取らせて貰うぞ!」
怪盗キャリコとファリース侯爵のファンたちが新聞会社に集まって、抗議の声を上げたのだ。その結果、ソリスが出動し、治安維持に動いたがそれが怪盗キャリコのファンたちからすると逆効果となり、ソーサリーファクトや魔法まで新聞会社に撃ち込まれる事態となった。
「ひぃいいい!? なんでこんな目に合わないといけないんだよ! 話が全然違うぞ!」
「お前があんな記事を書いたせいだろうが! どうするんだよ! こんな状況じゃ、外にも出れないぞ!?」
「みんな外に出ろ! この建物はもうダメだ! 残っていたら、生き埋めにさせるぞ!」
社長の指示で社員たちが外に出ると同時に会社は倒壊する。危機一髪だった彼らだが、目の前には怒り狂っている市民の姿があった。
「悪の根源が出てきたぞ! みんな! やっちまえ!」
「「「「おぉー!」」」」
「や、やめてください! どうか! 冷静に! 市民の皆さん!」
「うるせー! ソリス! お前たちも汚い政治家と悪い貴族の味方だろうが! 構えねー! ソリスもまとめてやっちまえ!」
この結果、新聞会社の前で魔法やソーサリーファクトが飛び交い、市民とソリス双方に多数の死者が出る大惨事となった。その翌日に今回の事件が新聞の載る。
『市民の味方であるソリスが市民を攻撃し、死者多数。正義とは? 市民の味方とは一体何だったのか?』
この記事にソリスのトップである短髪で金髪が特徴的な筋肉ムキムキの定年近いゼファルコミッショナーは頭を抱える。
「何やっちゃってくれちゃってるの……俺は市民の怒りの鎮圧を命じたはずだよな? 誰が市民への攻撃を許可したんだよ……はぁ……頭が痛い」
「す、すみません。しかしあの場合は正当防衛だと思います。襲ってきたのは市民からでした」
「そうだね。じゃあ、君が記者会見で話してくれ。市民から先に攻撃されたので、魔法や国から支給されたソーサリーファクトで殺すことにしましたってさ」
「い、いや。それは……ゼファルコミッショナーのお仕事なので私がするわけにはいきません!」
そういった部下をゼファルコミッショナーが睨みつけると部下は素直に仕事のミスを認めて謝罪する。それを見たゼファルコミッショナーは部下に質問する。
「今回市民に向かって殺傷能力が高い魔術を使用したソリスが誰かわかるか?」
「いえ。それが市民とソリスが入り乱れた状態で発生した事件なのでわかりませんでした」
「……今回の事件に関わった者ならわかるよな? 全員に聞き取りをしろ。どうにもきな臭い」
「は!」
王都シルファードにいるソリスは精鋭だ。当然教育はかなり行き届いているおり、市民への殺傷能力が高い魔術の使用や出力を抑えているソーサリーファクトの制限解除は最終手段となっている。
今回は自分の命の危機が発生したが逃げようと思えば逃げれる状態ではあった。更に魔法やソーサリファクトを使わずとも日々肉体を鍛えているので、市民の数はかなり多かったがそれでもゼファルコミッショナーは魔法やソーサリファクトを使用せずとも鎮圧出来ると考えた上で命令を出した。
その自分の考えが外れたことが偶然なのか疑ったのだ。つまりゼファルコミッショナーはソリスが本当に人殺しに関与しているのか疑問に感じてソリス一人一人への事実確認を指示した。これで全員が認めなかった場合、市民の中に紛れ込んでいた何者かがソリスを陥れようとしていることになる。
ここで別の怪盗キャリコをずっと追い続けていた青髪のロン毛が特徴的なエッティスチーフにゼファルコミッショナーは質問する。
「怪盗キャリコの件はどうなっている?」
「完全に手詰まりです。ファリース侯爵の家は全焼。記事を書いた新聞会社も崩壊して火事まで発生したので、証拠が残るはずがありません。新聞記事を書いた記者も新聞会社の社長も今回の事件で死んでしまいましたし、調査する手段がないって感じですね。一応燃え残りを調べていますが希望薄だと思ってください」
「そうか……そこもおかしな話なんだよな。新聞会社に向かって魔法をぶっ放したのは本当に市民だったのか?」
「僕もそこが気になっています。普通の市民にそんなことが出来るのかって」
出来るか出来ないかの話になるとかなり稀だが才能ある魔法使いなら一応可能。国の目をすり抜けて魔法が使える者は実際かなりいるのだ。本来なら隠すことはマイナスだが、一般市民として生きて欲しい親は隠す傾向がある。
しかし怪盗キャリコのファンは基本的に力を持たない市民だ。力を持たないが故に権力を持っている政治家や貴族を懲らしめてくれる存在を好きになる。そんな彼らが大きな魔法をぶっ放したのが歴戦のソリスからすると信じられないのだ。
「今回の一連の騒動、怪しいことが起こりすぎている。裏で何か大きな力が動いている気がしてならない。怪盗キャリコとファリース侯爵、ソリスを邪魔に思っている存在が裏で手を引いていそうだな」
「僕もそんな気がしますが証拠はあるんですか?」
「いいや。俺の勘だ。何はともあれ二つの現場の捜査を頼む」
「「は!」」
ソリスは国に今回の一件の説明をしてから市民向けに本当にソリスが市民を攻撃した事実が確認でき次第、改めて記者会見を開き、市民の皆さんに謝罪するとした。これに対して一部の市民は怒りの声をあげたり、ソリスの意味深な発言で困惑したりと反応は様々だった。
そんなソリスに残酷な事実が告げられる。翌日、市民に魔術を放ったソリスが自白の遺書を残して自殺してしまったのだ。これにはゼファルコミッショナーも怒りの声を上げる
「なぜ死を選んだ! 俺がそんなことを教えたか!」
「お、落ち着いてください! ゼファルコミッショナー」
「くそ! 罪を犯した者を逮捕し、刑務所に送る。それがソリスの基本だと教えたはずだぞ。なぜ自分が当事者になった途端に責務から逃げ出すんだ! 馬鹿野郎!」
「正直言って俺にもわかりません。一応自分が罪を犯した場合は犯罪者同様に刑務所に入って、罪を償えと教えていたんですけどね」
しかしそのソリスはその教えを破ってしまった。これでもうソリスは今回の一件を認めるしかない。
「俺はクビだな」
「残れないですか?」
「流石に今回の一件は誰かが責任を取らないといけない案件だ。そしてその適任者は俺しかいない。問題はその後だな。お前たちは今回の一件、バレないように捜査を続けろ。いいな?」
「「は!」」
ゼファルコミッショナーは記者会見を開き、ソリスが市民を殺した事実を認めて、市民に対して謝罪と今回の一件の責任は自分にあるとし、ソリスを引退することが発表された。
その裏で国でも大変なことになっている。問題となったのが騎士団長の行動だ。
「なぜファリース侯爵から目を離したのだ!」
「申し訳ございません。ファリース侯爵の意志で私は今回の一件の証人に過ぎず、護衛は必要ないと言われたもので」
「それなら影で護衛するなりあったはずだぞ?」
「もちろん私もそのつまりでしたが、ファリース侯爵の護衛も凄腕です。気付かれないとなるとそれなりの距離を取らざる負えません。結果、私が到着した時には犯人たちは逃走し、ファリース侯爵の執事さんだけが残されている状況でした」
説明を受けた王様はこれについて納得せざるを得ない。恐るべきはファリース侯爵の護衛たちの警戒をかいくぐり、全滅させた挙句に犯行を実行した犯罪組織にある。
「ソリスのほうも大変じゃが儂らのほうも荒れるぞ」
国王の言葉にその場にいた家族が頷く。国からするとファリース侯爵の後釜問題が発生する。実を言うと先日のゼルガード伯爵の後釜を決める際にも貴族たちが一斉に立候補して選ぶのが大変だったのだ。結果的には北の海近くで多少の港町の統治経験がある子爵が選ばれて全員が納得はした。
しかし今回のファリース侯爵はそういう経験で選ぶわけにはいかない。どちらかというと侯爵は国の政治的な影響力が強い。その後釜を選ぶとなるとぶっちゃけ政治家まで候補になって来る。更に怪盗キャリコの被害者も声を上げるだろう。それらの意見を全部聞いた上で一番いい人材を指名しないといけない。それを考えると国王が頭を抱えるのは当然と言えた。
更に数日後、事件は新たな進展を見せる。
『生きていたキャティス・ファリース! 怪盗キャリコであることを認めて自首!』
このニュースが出たことでファリース侯爵は国から正式に侯爵の地位が剥奪されることが決定するのだった。




