#50 サヤの村と次郎吉からの提案
魔獣の狼の群れを撃退した次郎吉たちはその後もサルとイノシシの魔獣に襲われたがガルザとヤイバの活躍でこれを撃退する。ここで次郎吉は馬車内で自分の魔獣の認識を話す。
「魔獣って確か魔素が関係しているんだよな?」
「一般的には野生の動物が大量の魔素を体内に取り込むと理性を失い、大量の魔素が体に影響を及ぼすのが魔獣の始まりらしいな。平坦な山道なら魔素は風で流れてくれるから通常だが、風通しが悪いここのような切り立った場所は風通しが悪く、魔素が溜まりやすいことから魔獣が生まれやすいと言われている」
「魔素というのは知りませんが確かに風通しが悪い場所は魔獣たちがよく発生しやすいですね」
次郎吉は獣人の切り札の魔獣転昇は野生動物の魔獣化と同じ原理だと予想する。その予想が正しいなら使い続けると獣人たちは魔獣化してしまうという結論に至ってしまう。そして恐らくガルザたちはそれを知っている。だから乱発はしないし、本当に獣人にとっては奥の手となっているのだろう。
そんなことを次郎吉が考えているとガルザが朗報を伝えてくれる。
「もうすぐ俺たちの村に付くぜ」
「おぉー! やったぞ!」
「夜になる前に付けて良かったな」
「魔獣の襲撃のことを考えると意外にハニットの村の近場にあったんだな。まぁ、それでも朝に出発して到着したのは夕方なんだけどよ」
それでも一日かからないのは次郎吉からするとありがたい。もし次郎吉の正体がバレてハニットの村の拠点にソリスの捜査が入ったとしても獣人の村に入ったならソリスは手出し出来ない。ましてやシルファリッド王国のソリスがビャク王国に入ることは簡単じゃないだろう。
次郎吉たちのようにバレずに侵入することは出来るがもし暴露させたら国際問題となる。なので一つ正体がバレたとき用の逃げ先を確保できそうなのは次郎吉としては嬉しい誤算だった。しかし現実はそんな甘い話ではなかった。
洞窟を抜けると緑が目の前に広がる。そこは山の空洞がある場所で日の光が入ることで草木が育つ場所だった。洞窟から出たときは美しい光景に思えたが目が馴れて、村がある地面を見るとその光景に一同絶句する。
獣人たちの村が崩壊していたのだ。ガルザたちはそれを予想していた。自分たちが奴隷になったということはガルザたちの村は奴隷商人たちによって襲撃させたことを意味している。彼らの様子からすると捕まった時点では村は恐らく無事だった。しかしその後、人間が村に恐らく火を放ったのだろう。家の木が炭になっているところからそれが知れた。
「くそ! 人間め! よくも俺たちの村を」
「お兄様! 次郎吉さんたちの目の前ですよ!」
「あ……いや、その……」
「……気にすることはねーよ。ヤイバ。これは紛れもなく俺っちたち人間がしでかした罪だ。その被害を受けたお前たちには人間を非難する資格がある」
次郎吉の言葉を聞いたことでガルザたちは一旦落ち着く。するとガルザが言う。
「もうすぐ夜だな。俺たちの家に来てくれ。地下があるから瓦礫をどかせば寝ることぐらいは出来るはずだ」
「助かるよ」
「ちょっと待ってください!」
「その前に俺たちの家を確認したい」
一同は村に当直するとガルザたちの家に向かうと完全に崩壊していた。それを見たエメリは悔しそうに握りこぶしを握ったがガルザが頭に手を置くと握りこぶしと解いて、ガルザにそっと抱き着いた。それを見た次郎吉はガルザが本当にいい父親をしていることを改めて認識する。
その後、一同はヤイバの案内で村の奥の小さな洞窟というかむしろトンネルに近い道を通り、村同様に光が差し込む広い場所に出た。しかしそこにあったのは焼け落ちした家だった。
「……村から離れているので、少し期待したのですが」
「そんな甘くはねーよな……すまねぇ。みんな」
「ごめんなさい」
二人がそういうと改めてガルザの家に戻り、次郎吉たちも協力して瓦礫を撤去すると地下への入口が姿を見せて、そこで夜を迎えて食事を取りつつ、まずは村の話とガルザたちの話を聞くことになった。まずヤイバたち兄弟の話から次郎吉たちは聞く。
「俺たち兄妹の両親はこことは違う別の村で巫女と宮司っていう村の象徴と村長をやっていてな。俺たちの一族は代々その役割を担ってきた。そんな自慢の両親も人間たちに襲撃させた時に戦闘で亡くなっている」
「あの事件の後、ガルザさんが見つけていたこの場所に逃げ込んで、村人総出で村を作ったんです」
「なるほど。さっきの言葉は家を作ってくれたみんなに対する謝罪だったわけね」
獣人たちは本当にビャク王国と戦い続けてきたことを次郎吉は改めて認識する。そして次郎吉は獣人たちの巫女と宮司が江戸時代で言うところの天皇と徳川家の関係に似ていると思った。するとここでグソウさんが当然の疑問を投げかける。
「ビャク王国の人間はそんなに強いのか? 普通に戦えば獣人たちが勝ちそうなものだが」
「もちろん一対一なら俺たちのほうが強いがあいつらは数が多い上に遠距離攻撃してくるからな。俺たちが防戦に徹するとやられたい放題になっちまうんだよ。かといって攻めに出るとその間に村は陥落するって感じだな」
「そういえば姐さんがビャク王国は圧倒的に人口が多い国だと言っていたな」
「長く内乱が発生しているような状態だから出生制度の強化をしているんだろう。戦闘継続をするためには兵士がどうしても必要になる。一度の戦闘でたくさん死ぬなら尚更だ」
人がいなくなれば戦闘継続も社会制度の維持も出来なくなる。なので子供をたくさん産んで育てて貰うための制度を作るのは当然の流れと言える。その結果、ビャク王国では人口が爆発的に増えている現状なのだろう。
結局ビャク王国は獣人を滅ぼすために獣人の力に対して数と魔法という力で押し通すつもりってことだな。それに対して獣人も当然子育てには積極的なんだろうがガルザの言う通り、遠距離で村を攻撃されたら子供も簡単には守れない現状だと次郎吉は予想した。
つまり獣人からすると自分たちの住処がバレたら、基本的にアウトってことだ。そうなるとこの村の場所は人間に既にバレているので、使えないってことになる。
「また引っ越すしかねーだろうな」
「その判断はちょっと早いんじゃないか? ガルザの旦那。次郎吉はどう思う?」
「ここら辺の地形を見ていないから何とも言えないな。少なくともガルザがここを選んだ理由は恐らく魔獣がいるからだろう?」
「あぁ。ここは結構山奥の場所でな。人間がここに辿り着くためには魔獣に何回か襲撃させないといけないような場所だ。これなら人間は簡単には手出し出来ないと思っていたが俺の考えが甘かった」
そんな場所の獣人を襲撃しにわざわざ来るとはご苦労なことだ。ここで次郎吉は質問する。
「一つ確認したい。この村を襲撃したのはビャク王国の人間か? 奴隷にされていたなら奴隷商人が襲撃したと思っていたが」
「奴隷商人たちで合ってるぜ」
「あいつらはいつの間にか村に侵入して、サヤやエメリ、村の女、子供を人質に取ってたんだよ。俺たちが歯向かったら、殺されると言われたら、従うしかなかった」
「男ならそうするしかねーよな」
魔獣たちがいる山道を超えて、獣人たちに気付かれずに村に人間が侵入出来る便利なアイテムの存在を次郎吉は知っている。
「奴隷商人たちが使ったのはソーサリーファクトだろうな」
「間違いなくな。魔獣対策のソーサリーファクトは既に開発されているし、獣人対策のソーサリーファクトも意識すれば作れるだろう。現に次郎吉は作ったわけだしな」
魔獣対策のソーサリーファクトの存在を今、知った次郎吉はグソウを睨む。用意しておいてくれたなら道中危険な目にあることが無かったのでは?と思ったからだ。
「全く気付かれないっていうのは大変だとは思うが可能か不可能かで聞かれると可能だろう」
こうなると奴隷商人たちが所持しているソーサリーファクトが次郎吉としては気になるところだが、既にソリスが押収しているだろうから手に入れるのは不可能だ。ここで次郎吉は話を戻す。
「ソーサリーファクトは置いといて、問題は奴隷商人がこの村の情報を国に話しているかどうかだな」
「そこだよな。話を聞いている感じだと結構微妙だよな。村に火を放ったのは国なのか奴隷商人なのか分かればいいんだが」
ガルザたちはグソウの言葉に対して首を振る。全員が村が無事である可能性を信じていたから誰が村に火を放ったかわからないのは当然のことだ。ここでグソウさんが核心を聞いてくる。
「諸々考えた上で次郎吉はこの村についてどう思う?」
「防衛する場所としては良さそうに思える。入口が見た感じ山道の洞窟を通るしかなさそうだし、周囲が尖った山で構成させているから天然の要塞のような場所だ。しかも相手からすると時間をかけてしまうと魔獣に襲われるリスクが高くなる。現時点だと引っ越す必要性はそこまで感じないな。ここと同じような条件の場所が簡単に見つかるなら話は別になるが?」
「少なくとも俺にはもう候補はねーよ。村が作れるほどの広い場所ならいくらでもあるがそういうところは人間にすぐバレるからな」
「そういうことならもう一度ここに村を構えていいんじゃないか? 今回は俺っちも色々手を貸してやるからよ」
次郎吉の言葉にガルザたちは驚く。
「おいおい……人間のお前さんが俺たちの手助けなんてして大丈夫なのか?」
「既にダークエルフと仲良くしている上に獣人を助けた俺っちにそれを聞くのか?」
「いや、それはそうだが」
「安心しろよ。俺っちにもメリットがあるから手を貸すって言っているんだ。俺っちは悪者だからな。いつ見つかって、いつ逃亡生活になるかわからない。そうなると比較的安全な隠れ家があると安心するんだよ」
次郎吉の思惑を聞いたガルザは次郎吉の事情を全て理解した上で納得する。
「なるほどね。だが決めるのは巫女様だな。どうしますか? 巫女様。利害関係は一致しているように俺には思います。次郎吉の技術能力はこいつの戦闘と家で実証済みです。俺たちからしても相当なメリットがあると思うが」
「ガルザさんの言う通りだと思います。とにかく次郎吉さんには村でお風呂屋さんを開いて欲しいですね」
自分が最初に必要とされるところはそこなのかとツッコミを入れたくなる次郎吉だったがとにかく村の代表から許可が出たので、次郎吉はこの村の再開発に協力することが決定した。




