#5 少女の選択と初めての買い物
明日も三話更新いたします。時間は今日と同じ9時、12時、23時です。
脱走に成功した次郎吉が次に必要とされるのが潜伏拠点だ。これについても目星を付けていた。次郎吉が選んだのは教会の屋根裏だった。神父が親玉であることは分かりきっているからこそ自分の仕事先の屋根裏に泥棒が住んでいるとは思わないと考えたからだ。
教会の屋根裏に侵入した次郎吉は布が被された木箱をいくつも発見する。確認すると毛布や服などの日用品が入っていた。支援者による贈答品なのか案外ちゃんと教会として寒さ対策を考えていたのかわからないが埃の具合から考えて屋根裏はしばらく使われていないことだけは分かった。
これは次郎吉にとっては予想外のことで朗報だ。早速次郎吉は服を着替えて、温かい毛布に包まって眠むことにした。
翌朝、孤児院で騒ぎが発生した。どうやら子供たちが一斉に逃げ出したらしい。あの時鍵を渡した少女の仕業だろう。同じ目にあっている子供たちのことをほっとけなかったのか木を隠すなら森の中理論で自分の逃走確率を増やそうとしたのか次郎吉には分からない。だがあの少女からは悪者の臭いを次郎吉は感じなかったので、ほっとけなかった可能性のほうが高いだろう。そもそも普通の子供がそこまでの悪知恵を働かせるとは思えないしね。
次郎吉にとっては子供たちの大量脱走が発生したせいで赤ん坊がいなくなっていることに気づかれていないことが大きい。そんなことを考えているとたくさんの子供が孤児院に送られてきた。
「おいおい……これは俺っちが思っている以上に手広くやってやがるな」
子供たちを連れてきたのは次郎吉目線では町奉行、現代でいうところの警察がなんと孤児院から逃げ出した子供たちを孤児院に連れてきたのだ。そこで孤児院の実態を調査するならわかるが子供たちを預けるとさっさと警察たちは帰ってしまう。
その時の子供たちの顔は絶望に染まっていた。恐らく助けを求めたのだろうが警察はすでに教会と協力関係にあるのだろう。金の受け渡しか何か次郎吉にはわからないが少なくともこれで孤児院がここまでやってこれた理由が分かった。
どうしても脱走や商売をばらされるリスクは存在している。それなら助けを求めるであろう警察に手を回しておくのは悪者からすると当然の選択肢ではあった。
「あの小娘の姿はなしか……どうやら上手く逃げ切ったようだな。運がいいのか感が鋭いのかそれとも全部知っていたのか……いずれにしても見どころがある小娘だったな」
孤児院に連れてこられた子供たちの中に例の少女の姿はなかった。このことから子供たちの中で警察に頼る子供と頼らずに逃げる選択で別れたのだろう。今回に関しては警察を頼らなかった子供の勝ちというわけだ。
「異世界だろうがどこだろうが人間の世界はごみになる運命なのかね?」
数多くの悪事をしてきた次郎吉だからこそこの感想には世界の真理が詰まっているのかも知れない。
その後、しばらくしてから孤児院で泥棒が発生したことが判明し、騒ぎになったが町にチンピラたちが動いたくらいで終わる。警察が泥棒について調べることはなかった。これを確認した次郎吉は教会と警察との関係はごく一部だと予想した。
恐らく本格的に調べるとなると孤児院の実態が多くの警察の人に知られることになる。それをしてしまうと教会は恐らく詰んでしまうんだろう。警察の中にも正義がぶれない人はいるだろうからな。それを考えると捕まってしまった子供たちは偶然教会の手にかかっている警察に出会ってしまったのが運の尽きと言えるのかもしれない。
「腹は減ってきたが今動くとあいつらに見つかるな……食べ物盗むのは格好悪いし、あいつらが平常運転に戻るまで寝て待つしかねーか」
空腹を紛らわす一番の方法は睡眠である。最も見つかると終わる状況ではあるので安眠は出来ない。ただ次郎吉レベルの悪党になると気配や音ですぐ起きるので、寝ることに問題なかった。
そして数日が過ぎた夜、孤児院の奴らが動き出したタイミングで次郎吉は初めてお金を持った状態で町に
出る。すると屋台をしているお店からおいしそうな匂いが漂ってきた。見るとそこには美味しそうな焼き鳥の串焼きが売られていた。
「おっちゃん、これくれ」
「はいよ。ん? どうした? 坊主? やけに小さいな。お母ちゃんはいねーのか?」
「あっちにいるよ。これ使って買ってこいって言われた」
次郎吉は指をさすが当然そんな人がいるはずもない。しかし母親がいるように言わないと怪しまれてしまうからこうするのが最善策だ。
「かー! こんな子供を一人で買い物させるかね……最近の親は子育てちゅーもんが出来てねーな。っておいおい。金出しすぎだ。坊主。これ一枚でいい。これがおつりな」
「ありがとう! おっちゃん!」
「おう! ちゃんと礼が出来ていい坊主じゃねーか」
次郎吉はこんな三歳児に買い物をさせてくれるおっちゃんのほうが気さくでいい人間だと思ったのは言うまでもない。
その後も次郎吉は同じ手法で買い物をしていくと大体のこの世界でのお金の価値を理解した。基本的には現代と同じで札と貨幣が使われており、札のほうが価値が高く細かい金額には貨幣が使われる認識で良さそうと次郎吉は結論づけた。
次郎吉はこの日の買い物は早々に終えることにした。流石に長居しすぎると見つかるリスクが高い。次郎吉は町はずれに移動するとそこで腹ごしらえすると町が静かになったタイミングで教会の屋根裏に戻るのだった。
なぜそんな回りくどいことをしたのかというと食べ物の臭いに問題があるからだ。食べ物の臭いが教会に広がると見つかるリスクが高くなるので外で食べるのが基本だ。例外があるのは果物。基本的には食べないと強い匂いが発生せず、保存がある程度効くので次郎吉はこれを保存食として教会に持ち込んだ。
しかし全く匂いを発生させないわけではないので、木箱の中の服の間に入れて匂いを外に出ないようにした。服にはついてしまうがそこはどうにでもなると次郎吉は考えた。
こうして次郎吉は注意を払いながら異世界の生活に順応しようとしていたある日のことだった。次郎吉は泥棒が屋台の食べ物を盗む光景を目撃した。
「泥棒だー! ソリスの人! 捕まえてくれ!」
この世界の警察の呼び名はソリスというらしい。そしてここで次郎吉は興味深いものを目撃することになる。ソリスの人が警棒を構えると何やらスイッチを押すと稲妻が発生し、警棒が青く発光する。更に靴にも何やらスイッチを押す靴から風が発生した。
次の瞬間、ソリスは泥棒との距離を一瞬で詰めると警棒に触れた泥棒は感電すると倒れこむ。その結果泥棒はそのままソリスに捕まる結果となった。
「あれは魔法か? 俺っちが見てきたのとだいぶ違っている気がしたが……ちょっと調べねーとまずそうだな。こりゃ」
魔法が使えない次郎吉がどれだけ筋トレしても先ほど見た常人を超えた速度で追われて感電する棒で殴られたらひとたまりもない。対策は必須だろう。
「俺っちの代わりに捕まってくれてありがとよ」
次郎吉は連行される男に礼を言うのだった。そして早速次郎吉は調査を始める。最初に声を掛けたのは果物を売っているおばちゃんだ。
「おばちゃん! さっきのソリスさんの魔法凄かったね!」
無垢な三歳児の演技をするのは次郎吉からすると苦痛だが、情報を得るためならどんな手段も使うのが一流の悪党である。
「ん? あ~……さっきのは魔法じゃないよ。坊や。あれはソーサリーファクトって言ってね。魔法が使えない人でも魔法が使えるようになる道具なんだよ」
見事に次郎吉の誘導に引っかかってくれた。すると隣の衣服を売っているお姉さんが邪魔してきた。
「おばちゃん、そんな子供にソーサリーファクトの説明してもわかんないよ」
「へ~! 格好いい!」
「ほら~」
「ははは! 確かにわかんないか。ついつい答えてしまうのは年を取ってきたせいかね?」
とりあえず魔法が使えない者でも魔法が使えるようになる道具があるということとその道具の名称がソーサリーファクトであることが分かっただけで上々の戦果と次郎吉は考えて、一旦ここは切り上げることにした。
そして次郎吉は次の日の別の場所でソーサリーファクトについての情報を集めるとどうやら魔法が使えない人でもパーツさえあれば自作できることがわかった。どうやら魔力を蓄電する装置があり、それと道具を組み合わせて作られたのがソーサリーファクトと呼ばれる魔道具の正体であることが判明した。
「流石にこれは作れるようにならねーと勝負にならねーな」
というわけで次郎吉は盗んだ金でソーサリーファクト作りに挑戦することを決めるのだった。




