#48 ガルザたちとの生活
ガルザたちを預かることになった次郎吉は色々大変だった。まず人数が増えたことで食費が増えた。しかも獣人は人間よりもよく食べることが判明した。
「最初は暫く美味しいもの食べてないからいっぱい食べると思っていたがそんなことは無いんだな」
「獣人は人間よりも食べ物の消化が早いかららしいな。身体能力が人間よりも高いからそういう体になったとか話に聞いたことがあるぜ?」
食べ物の消化が早いということは食べ物を栄養素に変えるのが早いことを意味している。そうなると当然筋肉や骨に栄養が行き渡るのも早くなる。結果として人間よりも身体を鍛えやすくなるってことだろう。ガルザの答えに次郎吉が返す。
「へ~。そういう話を聞くってことは獣人の中にも研究肌の獣人がいるんだな」
「もちろんいるぜ? 性格的に戦闘が向かない獣人はそっち方面に行くな」
「そこは人間と同じだな」
結局人間も獣人もエルフも基本的なところは同じだと思った次郎吉である。ここでプラムが自分の疑問を口にする。
「わたしくとしては獣人が野菜を食べることに驚きです。てっきりお肉だけを食べる種族だと思っていました」
この質問に苦笑いをしながら巫女のサヤが答える。
「好物は基本的にお肉ですよ? ですが毎日お肉だけを食べていたら、野生の動物がいなくなりまして。結果的に野菜を食べるようになった感じです」
ここも人間が歩む歴史と同じだ。動物を狩りすぎた結果、絶滅させてしまっては二度とその動物を狩れなくなる。そうなると苦しむのは自分たちだ。何事もバランスが重要であり、この結果の果てが現代の家畜や養殖に繋がっている。
残念ながらこの話は次郎吉には理解出来ない話だが、動物を狩りすぎたら、動物がいなくなる理屈は理解した。
「人間から得た知識も大きいぜ? 人間が運んでいる食べ物は自分たちも食べれるってことになるからな。んぎ!?」
ヤイバの尻尾をサヤが踏みつけた。それでヤイバはとんでもない激痛で声を上げて、顔が歪んだ。
「お兄様? 次郎吉様たちも人間なのですよ? ちょっと不誠実ではありませんか?」
「あ……あぁ……悪かった」
「ししし。ヤイバは相変わらずサヤやんには弱いな」
「うるせー」
ちょっと生活しただけだが、ガルザたちが仲睦まじいのを次郎吉とプラムは感じ取るのだった。更に次郎吉考案の風呂がガルザたちに滅茶苦茶人気となる。
「いや~。いいな~これ~。疲れが本当に取れるわ」
「水が温かいだけだろ? って思っていたが温かい水はこんなにもいいものなんだな」
「本当に。水浴びと全然違うのですね。体中がポカポカです。このタオルという物も女性としてはありがたいですね」
「ジロキチは天才だぞ!」
男は体をふくことに無頓着のようだが、髪の毛が長い女性にはタオルの存在は非常にありがたいらしい。
次郎吉としては巫女や宮司という聞きなれた言葉が聞こえたから風呂も獣人たちにはあると思っていたがないことに驚いた。ただ人間社会のビャク王国なら銭湯や天然温泉があるかもしれないと希望を抱く次郎吉であった。
その後、次郎吉から人間の姿になるソーサリーファクトを全員に渡されて、ガルザたちはハニットの村の人たちと人として接する。村人とエメリたちが仲良くしている姿をみていたガルザが感想を言う。
「こいつは凄いな。本当に人間に見えているんだな」
「泥棒をする時にも便利なものなんだぜ? 他人になりすませるからな」
「姿がバレるとまずい仕事には一役買うってことか。俺としては人間の国に潜伏して人間の技術を盗むのに一役買いそうだと思ったぜ?」
「実際組織でも密偵の人たちが主に使っているソーサリーファクトだからな。使い方は任せるけど、他人に取られるのだけは注意してくれ。獣人でも例外はない」
獣人と人間に生き物としての差がないなら獣人にも良い獣人と悪い獣人がいることになる。結果として次郎吉は獣人も人間と同様に警戒せざるを得ない。それについてガルザは理解を示してくれる。
「それは当然の判断だろうな。寧ろ自由に使わせてくれる許可をくれただけで万々歳だ。というかいいのか? 一応俺たちは人間と敵対しているんだが?」
「ビャク王国がどうなろうが俺っちには関係ねーよ。ソーサリーファクトから俺っちの関与が疑われると面倒臭くはあるくらいか」
疑われたとしても次郎吉には逃げ切る自信があった。何せ幻を作り出すソーサリーファクトは結構市場に出回っている。魔道技師によって、魔術式に差があるので関与は疑われるがだれかに真似されたと言えばそれ以上の追い打ちは出来なくなると次郎吉は考えていた。
そしてその考えは正しい。どうしても現代より技術的に劣っているこの世界では犯罪の証拠を揃えるのが非常に難しいのが現状だ。ただソリスも現行犯逮捕しか確実な逮捕手段がないこの現状をよしとしない。魔道技師たちに犯罪の証拠となりえるソーサリーファクトの開発に力を入れているという情報をビオラから次郎吉は得ている。どういうものか知らないがこれからの犯罪は荒れると次郎吉は予想する。
ソリス側がこれが犯罪の証拠だと言われたら、犯罪者側は真っ向からそれを否定しにかかる。それに対してソリス側は自分たちの意見を押し通しにかかるだろう。そして正義側はそれが出来てしまう。それは正義の暴走とも言えることだが悪側はそれに対してそっちがその気なら実力で逮捕してみろよと受けて立つしかない。
犯罪者としては生きづらい世の中になるがそんな世の中でも犯罪をして楽しむのが真の犯罪者と言える。だから次郎吉はかかって来いスタイルを貫き通すつもりだ。
そんないずれ来る時代の流れを感じつつガルザたちとの生活を送っているといよいよガルザたちの故郷に送る日がやって来た。運び屋として選ばれたのはグソウでガルザたちとグソウから次郎吉の同行を求められた。
「何かあったときのための保険は必要だろ? 彼女たちは要人だしな」
「それはそうだが……ゲオリオや『アルバ』のダメージを考えると仕方ないか」
「そういうことだな。悪いが頼むわ」
「俺たちとしても次郎吉の旦那が一緒に来てくれた方が助かる。道中の危険は俺が排除してやるから安心してくれ」
それはつまり道中危険が発生すると言っているようなことでは?と次郎吉は思った。
「はぁ……プラム。留守を頼めるか?」
「お任せください。皆様、旦那様をよろしくお願いいたします」
「おう。任せておけ」
こうして次郎吉は初めてビャク王国に行くことになるのだった。




