#46 ゼルガード伯爵との決着
ゼルガード伯爵とメイド長は魔道車に乗って、王都に向かっている。完全に勝利を確信している状況だ。無理はない。魔道車が出せる速度はほぼ均一だ。雷速や光速を出そうとすると制御が出来なず、事故を起こしてばらばらになるだけという結果が報告させている。
例外があるとするなら次郎吉のような雷速や光速をコントロールするようなソーサリーファクトを持っていれば追いつくことは出来る。ただそれをするためには索敵が必要不可欠だ。どこに向かえばいいかわからないと打つ手がない。
次郎吉たちからするとゼルガード伯爵がどんな魔道車に乗っているのかわからないので、見つける方法がないのだ。
ビオラもゼルガード伯爵の動きを監視しようか迷いはしたが諦める決断を余儀なくさせた。その理由がプロじゃない人間がそんなことをしたら、逆にゼルガード伯爵やメイド長にビオラたちが補足される危険があったからだ。
ビオラが『アルバ』の最高責任者でビオラが潰されると『アルバ』は組織として終わることになる。リーダーが不在になるだけではなく、ビオラの元に組織の行動の全ての証拠があるからビオラの死は『アルバ』という組織の終わりを意味している。
更にビオラは現在一人で巫女のサヤとエメリを保護している状況だ。彼女たち二人を危険に晒すと獣人たちが黙っているわけがない。それらを考えた上でビオラは余計な行動は取らない判断を下した。ビオラがそう決断するしかないとわかっているゼルガード伯爵は流石という他ない。
一応次郎吉の雷速のソーサリーファクトを使えば先回りすることは出来る。しかしその場合でも結果は変わらない。一人先回りしても車が分からない上に例え見つけてもメイド長に勝てる人材が『アルバ』にはいない。
それならゼルガード伯爵より先に今回の一件を国に報告すればいいと思うかもしれないがビオラたちはあくまで一般人の枠だ。その一般人の枠と伯爵の発言権にはかなりの差がある。ラピーシア王女の力ならひっくり返せる力はあるがそのためにはゼルガード伯爵に対して口で勝たないといけない。まだ幼く未熟なラピーシア王女では歴戦のゼルガード伯爵にまず勝てないだろう。逆に追及が激しく自滅する可能性のほうが高い。
そんなわけでゼルガード伯爵からすると完全にチェックメイトをしている気でいた。しかし彼らは重要なことを知らなかった。それ故に重要な対策を講じなかったことが彼らの致命的なミスとなる。ゼルガード伯爵が載っている魔道車の前に何かが落下してくる。
「なんだ!?」
「ご主人様!」
何かに魔道車がぶつかると魔道車はぶっ壊れながら吹っ飛ぶ。咄嗟にゼルガード伯爵を抱きかかえてソーサリーファクトを起動させて着地を華麗に決めたメイド長も流石の身のこなしだが、土煙の中から現れた存在を見た瞬間、自分と自分が守るべきご主人の死を悟る。
「よう。ゼルガード伯爵。ようやく追いついたぜ」
そこには真っ赤な毛並みと真っ赤な瞳に変貌したガルザの姿があった。
「その声……ガルザか!? どういうことだ? お前たちは生き埋めになったはずだ。例え生き残ったとしても魔道車の速度に追いつけるはずがない!」
「一つ目の疑問に答えると生き埋めになりそうなときに俺が捕まえた魔術師が目覚めて竜巻を発生させてくれたんだよ。土砂や瓦礫を全部吹き飛ばしてくれたお陰で俺たちは助かった。専門家の話によるとご自慢の人形として操るソーサリーファクトが操るという性質上、脳への負荷が限りなく少なくしたのが原因じゃないかと話していたぜ?」
専門家とは次郎吉のことである。次郎吉の予想通りで人を操るということは脳が無事じゃないと成り立たない。ゲオリオはあの場だけの使い切りの兵器として使うなら脳へのダメージを度外視にしただろうがゲオリオが優秀ずぎた故にずっと兵器として利用するために脳への負荷を出来るだけ低くしたことでゲオリオは驚異的な速さで目覚めることが出来た。
これはゼルガード伯爵の指示ではなく、ゼルガード伯爵が雇っていた魔道技師が欲張った結果だ。それを知った次郎吉は危険な遊びは身を亡ぼす実例と思った。
「あいつめ。ミスしたか」
「あぁ。地下施設にしたお前さんの仲間なら操られた男がしっかりけじめをつけたぜ? 奴隷商人も俺の仲間がけじめをつけたらしいし、こうなると俺のけじめの対象として残っているのはお前らだけになるんだよ」
ガルザがそういうとメイド長が猛毒を塗ってあるを針を構える中、ゼルガード伯爵とガルザの会話は続く。
「二つの私の疑問に対する答えはなんだ?」
「一部の限られた獣人には魔獣転昇っていう一時的な肉体強化を行える技があるんだよ。俺のこの姿がまさに魔獣転昇を使った姿だ。走る速度ならお前らが乗っている乗り物より速さが出る上に俺ならお前らの臭いを追える。襲ってきたあいつらと同じように獣人の鼻対策をしなかったのはまずかったな」
これがゼルガード伯爵の致命的なミスとなった。命が助かった次郎吉たちはゼルガード伯爵たちをどうするか協議した。案としては次郎吉のソーサリーファクトを使用して追いかけるというものがあった。次郎吉本人がいかないのは泥棒の仕事の範囲外であることと次郎吉が追いついてもメイド長に返り討ちにさせるからだ。
他のメンバーも先に話した通り、一対一でメイド長を倒せる自信を持つ者がいなかった。それだけゼルガード伯爵のメイド長は強いと言える。更に追うとしても先ほど話したようにどうやって見つけるかの問題に次郎吉たちがぶつかると立候補したのがガルザだった。
次郎吉やクインはガルザなら問題ないとビオラたちを説得し、ビオラも適任者はガルザしかいないという結論に至って、その場でガルザに仕事の依頼をすることにしたわけだ。結果としてガルザは見事にゼルガード伯爵に追いつき今に至る。この話を聞いたゼルガード伯爵は自分のミスに納得する。
「なるほど……これは私のミスだな。他人の魔道車になら信号を送るソーサリーファクトが取り付けられていることもないと考えていたがそこを見落としていたか」
次郎吉が魔道車をいじったということは発信機の可能性を考えるのは当然と言える。しかし他人の魔道車には流石に取り付けるのは不可能だ。他人が『アルバ』の構成員だったら話は別だけどね。流石にいきなりそれをすることは次郎吉にもビオラにも不可能だった。
「自分の失敗にするあんなの考えは嫌いじゃないぜ? あんたは間違いなく上に立つ資質を持っている。それがこんなことになってしまったことが俺としては残念でしょうがねーよ」
ゼルガード伯爵はガルザがメイド長が付けている他国の香水や化粧品の臭いを辿られたことに気が付いている。彼女が使っているものは金持ち故に高級品だ。それ故に逆に見つけやすくなってしまった。何せそんな他国の高級品を一般人のしかも都市から遠く離れた人が使っている人はいない。
現代のように他国の物でも気軽に手に入る社会だったなら違っていたがこの世界ではそこまで貿易や運送が自由ではない。彼女がそういうのを手に入れることが出来たのはゼルガード伯爵が他国と取引をしているからこそ出来たことなのだ。
しかしゼルガード伯爵はメイド長を責めない。寧ろ自分が化粧品や香水の使用を禁じていればこんなことにはならなかったと考えた。この考えをガルザは高く評価したのだ。そんなガルザにゼルガード伯爵は返事で返す。
「お前ほどの傑物にそう言われるのは嬉しいものだな。しかし上に立つは多少の悪事に手を染めなければ自分の意思を通すことも守りたいものを守ることも出来ないのがこの世の中だ。残念ながら私は今でも私がしたことが悪いことだとは思っておらん」
「それを聞けて良かったぜ。これで遠慮なくあんたを殺せる!」
「しっ!」
ガルザの声でメイド長が毒針をガルザに放つ。これに対してガルザは声だけで針を弾き飛ばしてしまう。それを見たメイド長は急いで太ももに隠しているナイフを両手に装備するがガルザの大剣の一振りでメイド長の身体は横に真っ二つとなり、上半身が吹っ飛ぶ。
「ご主人様……さようなら」
メイド長がそう言うとソーサリーファクトのスイッチを押す。その瞬間、下半身と上半身で大爆発が発生する。ゼルガード伯爵はメイド長の最後の姿を見届けて言う。
「見事だ」
「決死の最後の攻撃……受けてやるのも悪くなかったが娘にダサい姿を見せるわけにはいかないんでな」
ガルザはメイド長の決死の自爆を躱してゼルガード伯爵の背後を取っていた。とんでもない反射速度と脚力がなせる技だ。
「言い残すことはあるか?」
「ない」
はっきりとそういうゼルガード伯爵はガルザの大剣で斬られて絶命するのだった。




