#43 プラムの怒りと奴隷商人の最後
次郎吉たちはグソウの運転で無事にスカリフォーの町に到着し、ビオラとコーネとまだ完全回復していないクインを初めとする『アルバ』のメンバーたちと合流を果たした。
「彼女たちを盗み出すだけじゃなくて奴隷商人とゼルガード伯爵との繋がりの証拠まで盗み出してくれたのね」
「旦那様は特別手当を要求していました」
「それぐらい当然出してあげるわよ。とにかくこれであたしたちは私用ではなく、ゼルガード伯爵邸を襲撃する理由を手に入れたわ。一応作戦目的を話すわよ。第一目的はあたしたちの仲間である『殺し屋』の解放。第二目的がゼルガード伯爵の暗殺。第三目的が奴隷商人の暗殺よ。みんなそれはいいわね?」
『アルバ』のメンバーが全員頷いた。そしてコーネが報告する。
「現在ゼルガード伯爵は自身の家であるゼルガード伯爵邸にいると思われます。奴隷商人はこの町で自身が経営している会社にいます。このお店は町中にあるので、暗殺はかなり難しいと思います」
「では、その暗殺の役目。わたくしに任せてくれませんか?」
「プラムさん!?」
コーネは驚いたがそれを聞いたビオラはプラムがキレていることを察した。見事に表情には出していないがビオラほどの経営者なら少しの声音の変化で相手の感情を読み取る。
「ジロキチのソーサリーファクトにあなたの魔術があれば確かに可能でしょうけど、許可出せないわ。ジロキチに怒られるのはあたしなのよ?」
「う……」
プラムも次郎吉が暗殺を望んでいないことぐらいわかっているので、ビオラの意見に詰まる。ここでコーネが元気に手を挙げるがビオラによって却下される。プラムの手助けがあれば暗殺は簡単に出来るだろうがコーネがその道に進ませることをビオラが嫌った形だ。
そうなると一番適任はクインや他の暗殺者になるがゼルガード伯爵と戦うことになることが予想される状況下では戦力分散は悪手となる。みんなが困っていると予想外の声が上がる。
「誰もいないならその役目、俺が引き受けていいか?」
志願したのは意識を失っていた巫女の兄の獣人だ。
「仲間をこき使われて、俺自身痛み付けられもした。そして何より許せないのは妹に手を出したことだ。俺には正当な復讐する権利がある」
「……プラムさんはどう思いますか?」
「わたしくに異論はありません」
「なら決まりね」
こうして奴隷商人を罰するのはプラムは巫女の兄の獣人で決定し、残りのメンバーでゼルガード伯爵邸を襲撃することが決まった。
そんなわけでプラムと巫女の兄の獣人はフードで顔を隠した状態で町に入り、コーネの案内で町中にある奴隷商人の会社にやってきた。
「では、始めます。コーネさん、旦那様の音消しのソーサリーファクトを展開してください」
「はーい! これでよし。いつでもいいよ。プラムちゃん」
「ありがとうございます。旦那様を傷つけた罪、その身でたくさん味わいなさい!」
プラムは漆黒の魔法陣を展開し、詠唱を始める。
「傷ついた存在に救いあれ。傷つけし存在に呪いあれ。我は痛みを持って罪を教えし者。罪深き者共よ。痛みと苦しみを知りなさい! カ・ペイド・レクエムス!」
プラムの魔術が奴隷商人の会社全体に発動すると奴隷商人と社員たちは異変に気が付いた。
「ん?」
「なんだ? 今の?」
「今月もこんなにお金がたくさん。笑いが止まらんな」
「ゼルガード伯爵様には感謝しないといけませんわね。あなた」
奴隷商人夫婦が喜んでいられたのはここまでだった。
「「「「ぎゃあああああーーーーー!?」」」」
会社にいる全員が一斉に全身にとんでもない痛みを感じて倒れ込んだ。
「な、なんだ? 今のは?」
「何なのよ。これ」
「「ぎゃあああああーーーーー!?」」
カ・ペイド・レクエムス。それは痛みを相手に返す呪いの魔術。プラムは次郎吉が受けた6日間の痛みを魔術に記憶させて、会社内という範囲を設定して、魔術を発動させたのだ。そしてこの魔術の恐ろしいところは記憶した痛みが一瞬に凝縮させて襲い掛かって来るところにある。
普通の人間なら一発で意識を失うがキレているプラムに優しさはない。魔術に手を加えて、意識を失わないように改変している。これを会社に来る前という短時間で組み上げたのだから恐ろしい。普通の魔術師でも人が作った高度の魔術の改変には数年を有する。プラムが出来たのは魔術の理解度と改変できるほどの知識があってこそだ。
そしてそんな魔術をプラムは容赦なく連続発動させる。その結果、会社内で絶叫が止まらない。
「あ、あわわわ……」
(プラムちゃんだけは絶対に怒らせたらダメだ)
この地獄とプラムの容赦なさを肌で感じたコーネはプラムを怒らせないことを硬く誓うのだった。
「これで終わりです!」
最後に本来のカ・ペイド・レクエムスを使用して、会社内にいる人間の意識を完全に潰した。そして武器を貰った巫女の兄が会社に入ると地獄絵図が広がっていた。
「あーあー……これはひでぇ光景と臭いだな。獣人にはかなりきついが妹の復讐のためだ。全員残らず死んでくれ」
ボロ雑巾のように転がった人間とアンモニア臭が漂ってた。相手に与えるのは痛みという痛覚のみ。別に外傷を与える魔法ではない。しかし脳には確実なダメージを与える。その結果、彼らは痛みで悶絶し、最後の一撃で意識を奪われたのだ。
そしてここに血の臭いが加わりまさに地獄となった。巫女の兄は順調に始末していき、最後に一番の標的を見つけた。
「見つけたぜ? 味気ないがこれで終わりだ」
狐の獣人が奴隷商人の夫婦二人の胸を剣で突き刺して命を絶つ。これで巫女の兄と獣人たちの復讐が終わる。残すはゼルガード伯爵のみ。任務を終えた三人は一応ゼルガード伯爵の元に向かうのだった。




