#42 奴隷島からの脱出
プラムはエルフたちからの援護を受けて、大穴が開いた場所に飛行魔術で飛び上がり次郎吉を見つけるとエルフたちを無視して抱きついた。
「旦那様! よかった……」
「プラム! よく来てくれたな」
「いえ。再開出来てよかったです。ん? 旦那様? もしかしてお怪我していますか?」
「色々あってな。ちょっと拷問を受けるしかなかったんだよ」
これを聞いたプラムはとんでもない魔力を発生させると怒りに満ちた声を発する。
「旦那様に拷問をしたんですか?」
「プラム? お、落ち着こうな? 今は時間が惜しい。早く脱出して仲間と合流しないといけないだろ?」
「それはそうですが旦那様を傷つけた人を無視することは出来ません。メイドとしても妻としても許してはいけないのです!」
プラムは次郎吉至上主義になっていた。これを聞いたエルフが言う。
「奇遇ですね。わたくしたちもここにいる人間を許すつもりはありません。そしてあなたの夫の人間には奴隷から解放してくれた恩義があります。事情は詳しく知りませんがあなたたちに協力いたしましょう」
「あ、ありがとうございます! 旦那様? いかがいたしますか?」
プラムに聞かれて次郎吉は現状と今後の目標を話す。
「ここでの脱出方法は船でしか出来ない。つまり誰かが船で助けに来るか敵の船を奪うしかないってことだな。そして大人数での脱出は俺っちたちの船では無理だ。そうだよな? プラム?」
「はい。全員は魔法の補助をしてもとても無理です。つまりわたしくたちは港を制圧して奴隷を連れてくる船か荷物を運ぶ大型船を奪うしかないということですね?」
「そういうことだ。でもさっき話した通り俺っちたちには時間がない。悪いが先に脱出させてもらってもいいか? 脱出はお前たち次第になるが」
「構いません。船が来るまでに港を制圧しないといけないと思いますがすぐ来るとも思えないので、あなたたちが脱出するまで援護いたしましょう」
一応大型の通信のソーサリーファクトは潰したので、遠く放たれた連絡手段はない。しかし個人が持っている通信のソーサリーファクトで島にいる人間同士なら通信される危険性は高い。派手に戦いが起きたので、連絡出来るならもうしているだろう。
これはもう騒ぎが起きた時点で想定済みだからいい。次郎吉が危惧しているのは他に大型の通信のソーサリーファクトがあった場合だ。これを使われるとまず船までは通信させる。そうなるとエルフや獣人たちは脱出出来ないだろう。
わざわざ危険な場所に停泊しに行く船はいない。もし停泊してくるならそれは敵の援軍になるだろう。
更に奴隷島からスカリフォーの町までの長距離通信は現状出来ないが船に通信を中継するソーサリーファクトがあるとそれぐらいの距離の通信が可能となる。因みに国や『アルバ』のような組織、裏社会を生きている人たちはこの中継するソーサリーファクトを色々なところに設置してやり取りをしている。
つまり海上通信だと中継するソーサリーファクトを設置する場所がないので、船に中継するソーサリーファクトを置いておけば島と大陸との通信は理論上は可能。しかしその場合だと一隻の船では足りないので、複数の船に設置することになる。
現状を考えると他に大型の通信のソーサリーファクトがないなら島の情報を伝えるためには最低でも島から船に通信を送らないと敵側がこちらの情報を知る術はない。
一応次郎吉たちが普段使っているような通信のソーサリーファクトの距離でも船に情報を伝えることは出来る。大体その距離は水平線に船が見えてるぐらいの距離だ。その前に港や島を制圧しておきたい。それをしないと船は島に停泊してくれないからね。そんな結構劣勢な状況下でも手を貸してくれるエルフたちには感謝したい。
グソウと合流する前にまず暴れている獣人たちの様子を見ると劣勢だった。奴隷として労働を続けていたことで体力がなく疲労が蓄積されているのが原因だ。
「獣人の彼らを助けてもらっていいか? 俺っちたちが脱出に動くのは完全に指揮所を潰してからのほうが良さそうだ。プラム」
「お任せください。旦那様を傷つけた罪、その身で受けていただきます。指揮所の位置を教えてください。まとめて呪います」
完全に獣人たちを追い詰めたつもりでいた看守たちに向かって、エルフの魔法が放たれて吹っ飛ぶ。更に指揮所にいる看守たちが突如大量の蛇や虫に襲われる幻覚を見て、発狂して暴れた結果、仲間同士でつぶし合うことになる。
エルフたちの援護を受けて獣人たちもエルフに負けられないと気力を絞って応戦して一旦この場の戦闘は獣人とエルフたちの勝ちで終わる。ここで獣人たちにも話をして、エルフと獣人で港を制圧して脱出することが決定した。
一方で次郎吉は指揮所で書類を漁る。すると奴隷商人とゼルガード伯爵や他国の貴族たちや闇商人との商売のやり取りの証拠がたくさん見つかった。更に金庫も開けて宝石や金の延べ棒もゲットする。
「旦那様?」
「一応証拠を押さえておかないとな。仕事の範囲外だが、ビオラやゲオリオは欲しがる代物だ。追加ボーナスぐらいは貰えるだろ? そして一応本業は泥棒なんでな。盗める宝があるなら盗まねーと泥棒じゃなくなっちまうよ」
「なるほど。流石旦那様です」
奴隷商人は次郎吉目線では真っ黒確定。しかし彼とゼルガード伯爵の繋がりを決定的にするような証拠は実はない。ゲオリオがゼルガード伯爵に捕まったことを知っていてもそれを証拠にするのは結構無理がある。というかいくらでも言い訳されて逃げられてしまう。
しかし書類という確実な証拠があるなら話は別だ。ここからの問題は人間の奴隷だが、次郎吉が放置の決定を下す。それを聞いた獣人とエルフは不思議そうだ。そりゃあ、同族を見捨てる決定は不思議だろう。
「よろしいのですか?」
「今回の一件が俺っちたちの企み通りに進んでくれるなら人間の奴隷はいずれ助かることになる。ここで無茶して俺っちが助ける必要がねーんだよ。だから無視でいい」
今回のアルバの標的は奴隷商人とゼルガード伯爵だ。悪さの証拠も手に入ったし、アルバは両者を潰しにかかるだろう。これに成功したら必然的にこの奴隷島のことも調べないといけない。ここら辺は国かソリスがやることになるだろう。
「あなたがそういうならその指示に従いましょう。あなたとの脱出はわたしくとエメリ、お兄様の三人でお願いします。ガルザさんを止めるならこの三人が適任です」
次郎吉はプラムに聞く。
「三人追加なら船に乗れるか? 船の大きさ把握してないんだよ」
「大丈夫だと思います。最悪の場合、魔術で補佐しますので、大丈夫ですよ」
「だそうだ。悪いが手を貸してくれ」
「彼らの手助けはわたしくたちだけで十分です。獣人の皆さんは体力の回復に努めてください」
こうして獣人たちはひとまず休憩し、次郎吉たちとサヤたちはエルフの助けを受けて島からの脱出を目指して動き出す。
まず最初に山から次々爆発が発生する。これは出入口はほぼ間違いなく待ち伏せされており、最初にエルフが開けた穴もプラムが入ったところなどを見られていた可能性が高いなら待ち伏せされている可能性があったために逃げ出す場所を相手にわからないようにするためにエルフたちに動いてもらった。
後は山に残っている獣人たちの助けるために数人のエルフが残るのが得策と言えた。そして次郎吉たちは魔法で開けた一つの穴から飛び出す。それを認識した島に残っている人間たちは次郎吉たちを捕まえるために動き出した。
しかし島という地形が彼らにとっては最悪でエルフたちにとっては最高の環境だった。
「う、うわぁあああああ!?」
一人の人間が動く木の枝に捕まり絞められて意識を失う。
「な、なんじゃこりゃ!? み、水……」
別の人間は体から栄養素が無くなり、ミイラのように干からびる。更にエルフに魔法を放ったつもりが仲間に魔法が直撃して喧嘩になるなどエルフたちに完全にしてやられる形となり、次郎吉たちは海岸に到着するとグソウの船を見つけて、プラムは火球を空に打ちあげて、爆発される。
それを見たグソウさんは海岸に接近し、次郎吉たちが飛び降りるとプラムの飛行魔術で船に着地した。その間も魔法が飛んできたがエルフたちは撃ち落としてくれている。
次郎吉たちはエルフたちに感謝し、島から脱出するのだった。
「ふぅ~……なんとかなったか」
「お疲れさん。船の下に部屋があるからそこでゆっくり休みな。ここからは俺の仕事だ」
「あぁ……頼むわ……流石に……疲れた……」
「旦那様!?」
次郎吉が意識を失い、プラムが慌てて次郎吉を支える。
「無理もない。慣れていない任務な上にずっと周囲に気を配っていただろうからな。失敗出来ない任務でもあったり、俺たちじゃ想像できないような負担が毎日続いていたはずだ。気が緩んで意識を失うのも無理ないさ」
「そうですね……ん? どうやらそれだけではないようです」
プラムに手に次郎吉の血が付く。これを見たプラムは次郎吉を船の中に入れて、服を脱がすとそこには相当な拷問を受けた傷があった。これを見たプラムは拳を握りしめて、怒りを目に宿す。そして船はスカリフォーの町に向かうのだった。




