#41 島での暴動とプラム出陣
次郎吉たちが最初の獣人の牢屋に辿り着くと倒れている看守の山が出来上がっており、女性の獣人たちが平然と近くに立っていた。
(やっぱ獣人こえー)
次郎吉が引いていると獣人たちは再開と巫女様との合流を喜んだ。その裏で次郎吉は残した牢屋の獣人たちのソーサリーファクトの解除をしていき、全員の解放に成功した。しかし次郎吉の視界が一瞬ぐらつく。
(睡眠だけはちゃんと取っていたが少ない食事と体罰に加えてずっと周囲に気を使っていたからな。俺っちが想像するよりずっと疲れが溜まっていたか……だが、ここからが本番なんだ。もう少しだけ持ってくれ)
次郎吉が気合を入れて視界を元に戻すが巫女様だけは次郎吉の異変に気が付き話しかけてきた。
「あの……大丈夫ですか?」
「あ? あぁ……大丈夫だ。悪いがここから俺っちの指示に従ってくれ。獣人と同じようにエルフも奴隷で捕まっている。彼女たちの解放を手伝って欲しい。戦力に間違いなくなるし、説得は俺っちがするから大丈夫だ。囚われている場所も知っている」
「いかがしますか? 巫女様?」
「彼の指示に従いましょう。わたしくたちは彼のおかげで救われたのですから」
巫女様の言葉に獣人たちは頷いて、指示に従ってくれる。これだけで巫女様は相当なリーダーシップの持ち主であることがわかる。しかし話はそんな簡単にはいかないものだ。
「そこまでだ。反逆者ども」
次郎吉たちが獣人たちが働かされている場所に出ると看守たちが待ち受けていた。どうやら一度潰した指揮所が復活したらしい。指揮所の通信のソーサリーファクトを潰しても個人が持てる通信のソーサリーファクトならこの島ぐらいならどこでも通信可能だ。
つまり指揮所の異変に気付いた看守が仲間に通信のソーサリーファクトで連絡して、指揮所で眠っていた看守たちを起こして、迎撃態勢を整えたってことだな。次郎吉も奴隷のソーサリーファクトを解除していたわけだからそれぐらいの時間はあった。
「このスイッチを押せば獣人たちがどうなるかわかっているよな?」
働かせていた獣人たちが完全に人質に取られた状況だ。流石にこれをされると獣人たちは動けない。しかし次郎吉からするとこの行動は予想通りだった。
「ん?」
「な、なんだ? うわ!?」
次郎吉の靴に奴隷のソーサリーファクトの起動スイッチが吸い寄せられる。電磁誘導だ。次郎吉の靴をプラスにして起動スイッチをマイナスにしたことで次郎吉の靴に起動スイッチが引き寄せられたのだ。ソーサリーファクトを創意工夫し、使いこなしてこその魔道技師である。
「ダメだぜ? そんな大切な切り札を自慢げに見せびらかしたさ。潰してくれと言っているようなもんだ」
「貴様! ん? がは!?」
起動スイッチを失ったことで看守の後ろにいた獣人が看守をぶん殴った。それを合図に大乱闘が始まる。
「今までよくもこき使ってくれたな!」
「妻と巫女様が解放された以上、もう脅しは通用せんぞ!」
「覚悟しやがれ! このくそ人間ども! 生きていられると思うなよ!」
この隙に乗じて次郎吉はエルフたちのところに向かった。すると同じように看守に守られており、事前に情報が伝わっている看守は警告もなく、襲い掛かって来た。
次郎吉は看守の突撃をジャンプで躱すともう一人が次郎吉の着地を狙って来る。しかしまた電磁誘導で壁をプラスにして看守が持っている槍をマイナスにすることで壁に槍を貼り付けにして攻撃を回避する。だが突撃した看守が次郎吉を狙うが次郎吉の背にいたエメリがまさかの行動をとった。
「おりゃー!」
次郎吉の背を蹴ったエメリがかなりの速度で看守の尻にエメリのかんちょーが炸裂する。
「ぎゃあああーーー!?」
絶叫を上げる看守だが、速度も相まって壁に激突した。彼の尻穴はしばらく再起不能になっただろう。
「ひ……ひでぇ……ッ!?」
「油断大敵だ」
仲間の看守の光景に引いていた看守の隙を付いて次郎吉は首元電気ショックで気絶させる。そして牢屋をみると女のエルフたちがいた。
「ちゃんといてくれたか」
「人間? 何かご用ですか? わたしくたちは争い事が嫌いなのですが」
「そんなことはよく知っている。まずはこれを見ればわかるか?」
次郎吉が予備に残していた子供になる薬を見せるとエルフたちは目を見開いた。
「これはダークエルフの秘伝の薬ですね?」
「そうだ。信じて貰えるかわからないが俺はプラムというダークエルフと一緒に暮らしている人間だ。バルバリス王国の魔霧の森にあるエルフの村にも行ったことがある。予定にはないことだったがエルフが奴隷で捕まっていることを知っちまってな。あんたたちを助けたい」
次郎吉の言葉を聞いたエルフたちだが、当たり前だが半信半疑の様子だ。しかしここで救世主とも思える一人のダークエルフがエルフに耳打ちをするとエルフの代表が次郎吉に聞いてくる。
「……あなたにわたしくたちを助けることが出来ますか?」
「出来るさ。実際に獣人を助け出して、今大暴れしてもらっている最中だからな」
次郎吉が看守から牢の鍵を盗むと牢屋を開けて、エルフたちの奴隷のソーサリーファクトを解除していると先ほど耳打ちしたダークエルフが話しかけてきた。
「プラムは元気ですか?」
「あ? あぁ。船酔いとかしていなかったら元気だと思うぜ? あんたはプラムのことを知っているのか?」
「はい。ただ付き合いがあったのは母親同士でしたけどね」
長寿のダークエルフならそういう繋がりも普通にあるだろう。何はともあれプラムの存在を知ってくれているダークエルフがいたのは非常に良かった。彼女がいなかったらもっと話がこじれていたかもしれない。
「あの子もこの島に来ているのですか?」
「島の近くにはいるが島にはいねーよ。流石に危ないからな」
「ふふ。いい人間に出会えたようですね。それを聞いてほっとしました」
それから次郎吉が解除している間にエルフの中で話し合いが行われて、人間たちへの攻撃が決定する。流石に奴隷にされて辱めも受けて仲間が今もこき使われている現状を見逃すことはエルフたちでも出来なかった。
「あなたはこれからどうするつもりですか?」
「外に出て、仲間に無事と救援要請を出すつもりです」
「外に出たいのですね? わかりました。壁から離れてください。火の精霊よ。我が元に集いて破壊の力となれ! シュダ!」
エルフが火球を作り出すと壁に向けて投げて着弾すると大爆発して外に通じる穴を開けた。
「これでいいですか?」
「あ……あぁ……」
エルフも獣人と同じくらい怖いと再認識した次郎吉であった。とにかくこれでプラムたちに自分の無事と任務完了を伝えられる。次郎吉が筒のソーサリーファクトを取り出すと空に向かって光の玉が発射されると空で爆発した。次郎吉が花火を再現したくて作ったソーサリーファクトだ。信号弾の代わりにはちょうど良かったので、使用した。
問題は昼間で見えにくいことだが、次郎吉のことを信じて待っていたプラムはちゃんとそれを認識した。
「旦那様からの合図です! グソウさん! 任務完了したみたいですね」
「やり遂げたか! 流石だな」
「島に向かってください。旦那様の敵はわたしくがなんとかします」
「りょーかい。それじゃあ行くぜ? しっかり捕まっていろ!」
グソウさんが船で一気に島に接近する。狙いは島の港ではなく、側面だ。流石に港に突っ込んだらハチの巣にされることぐらいグソウさんでもわかる。グソウさんからするととにかくプラムを安全に上陸されることが優先されるべきことがらだ。
しかし相手もそんな優しい相手じゃなかった。不審な船が島に近づいた瞬間、船に向かって光線が放たれた。回避できずに着弾する。
「うわ!? 魔法!?」
「いえ。これはソーサリーファクトですね」
「防犯用のソーサリーファクトかよ! 上等だよ! そんなもんで俺の船を止めれるなら止めてみやがれ!」
グソウさんは見事なドラテクを披露するが全部躱すのは無理があった。しかし接近は出来た。次の瞬間、空から魔法使いたちが現れる。敵襲を感じ取り、迎撃に動いたようだ。そんな彼らに対してプラムは魔法陣を展開する。
「闇の精霊よ。あなたたちに生贄を捧げます。ジュラール!」
「うぐ!?」
「く、くるし!?」
「ま、魔術!?」
風の魔法使いたちは苦しむと意識を失い、墜落する。プラムが使った魔術は対象者の意識を奪う魔術だ。落ちた先は崖下の海。彼らが生きているかは運次第だ。普通の人間なら崖下に飛び降りたら死ぬけど、確実な死に方とは言えないからね。
そしてプラムは風属性の飛行の魔術を使用して船から陸地に着地すると人間たちがお出迎えした。
「メイド!?」
「いえ、待て! こいつの顔……ダークエルフだ!」
「構うことはねぇ! 殺せ!」
人間たちが次々ソーサリーファクトを起動されて、プラムに襲い掛かる。しかしプラムは冷静だった。
「風の精霊よ。怒りの突風にて敵を解き飛ばせ。ヴェーゼ!」
プラムが魔術を発生させると突風が発生し、プラムに襲い掛かった人間たちはプラム側に吹き飛び、プラムは華麗に人間たちを躱す。そしてプラムの後ろは崖だ。
「「「「どわ!? へ? あ……あぁ……あああああ~!?」」」」
結果、人間たちは崖から転落した。しかしまだまだ人間はたくさんいる。今度は遠距離から火球や岩や氷の塊が飛んできた。それを見たプラムは走り出して魔法を回避して、森の中に入る。すると次々殺し屋の人間たちがプラムに襲い掛かって来た。
「シャ!」
猛毒を塗った鍵爪で襲い掛かって来た男の攻撃を躱すとプラムはカウンターで蹴り飛ばした。そして背後から別の男が襲い掛かる。
「おら!」
「く……」
「へへ!」
「どこにも逃げ場なんてねーぞ!」
プラムを叩き切ろうとした攻撃はプラムが次郎吉作製の靴のソーサリーファクトを発動させたことで回避したがその後も次々殺し屋がプラムに襲い掛かって来る。そして攻撃を躱していたプラムを遂に槍使いの殺し屋が捉えた。
しかし貫いたプラムが花粉となって姿が消える。
「何!? う!? は、は、はっくしょん! な、なんじゃこりゃ!? う!? か、かゆい!」
プラムが使ったのは草属性の魔術でアレルギーを発生させる魔術だ。これのせいでくしゃみと体全体の痒みが止まらなくなったのだ。しかもこの魔術は花粉に触れただけで発動する。つまりこれでかなりの人間がこの魔術の餌食になった。
「くそ! ん? なんだ!? このとんでもない魔力!? ま、まずい! 大魔術が来るぞ! 逃げろ!」
魔法使いがプラムの魔力の上昇を感知して、プラムを見つけた殺し屋がプラムに襲い掛かろうとしたがもう手遅れだ。
「罪深き人間よ。森の怒りを知りなさい。ウィ・シュケーダ!」
プラムの大魔術が発動する。次の瞬間、プラムに襲い掛かっていた殺し屋の身体に異変が起きた。武器を振りかぶろうとしたが手が動かなくなったのだ。更に足まで動けなくなり、プラムに近づく手段が失われる。
「な、なんだ? は?」
殺し屋が武器を持っていた手を見ると手から草の芽が生えて自分の手が木に変貌していく。
「う、うわぁあああああ!?」
殺し屋の男でも発狂する。自分の身体が次々木に変貌していくのはとんでもない悪夢だろう。そしてこの魔術の効果は遠く離れた魔法使いたちにも発生した。
「人体を木にする魔術!? 馬鹿な!? こんな魔術はあり得ない! 人体が木になるなど常識ではありえない!」
「確かにそうですね。しかしあなたは知りませんか? 生命はみな最後は土の養分となり、自然の一部となります。なので木になる要素させ与えれば生物を木に変えることは可能なんですよ」
人間は死んだら最終的には骨になる。その骨も長い年月をかけて土の一部となるのだ。プラムが言うように生物はみな最終的には自然のシステムに取り込まれるようになっている。プラムの魔術はそれを表現した魔術と言えた。
それをわざわざ説明してくれたプラムに魔法使いの一人が許しを請う。
「た、助けてくれ! 俺は雇われただけなんだよ!」
「あなたを助けるかどうか決めるのはわたしくではありません。では、さようなら」
そういうとプラムは急いで次郎吉の元に向かう。しかしそんなプラムにまたしても魔法とソーサリーファクトが降り注ぎ、足止めを食らってしまう。その結果、またしても人間の数が増えてきた。
「早く旦那様のところに行きたいのに……っ!?」
ここで山のほうから魔法が降って来る。しかしそれはプラムに炸裂するのではなく、人間たちに直撃した。
「援護してくれた? いえ、この魔力はまさか……」
ここでプラムが初めて島にエルフがいることを知った。そして魔法で自分を助けてくれたということは次郎吉がプラムのことを考えた上でエルフを助けるために行動してくれたところまで予想でき、プラムは大急ぎで次郎吉の元に向かうのだった。




