#40 獣人の切り札と獣人の巫女
次郎吉たちが檻から出て、走り出すと後ろから戦闘の音が聞こえてきた。
(上手く注意を引きつけてくれると助かるが無理だろうな)
流石に看守と獣人が一緒に走っていたら、看守が裏切者であることはバレバレだ。そしてこの場所にはこういう戦闘の音が大好きで非常に勘がいい輩がいる。
「「っ!?」」
「うぃ~……この先に用があるようだけど、こっちも仕事受けているんでな。わりーがここで死んでくれ」
現れたのはヒョウタンの酒を飲みながら現れた男。しかしこの男が放つ血の臭いと殺気から殺し屋であることは明確だった。しかも殺し屋のチームのようだ。相手は複数、こちらも複数だが戦闘能力の差は歴然。最悪の状況だが次郎吉たちはやるしかない。
ヒョウタンの酒を持った男がヒョウタンを投げ捨ていると姿が消える。すると狐の獣人が男が抜いた剣を蹴り飛ばしたことで男は後ろに吹っ飛ぶ。狐の獣人の蹴りも凄まじいがあの蹴りを食らって剣を離さない男も凄まじい。
「やるねぇ。獣人を殺すのは初めてだから楽しみだよ!」
「く! 先に行ってくれ!」
「わかった! しっかり捕まっていろよ」
「任せろ!」
次郎吉が走り出そうとした瞬間だった。左右に男が現れる。
「終わりだ」
「死ね」
剣が次郎吉たちに迫ると次郎吉の靴が稲妻が発生し、斬撃を躱しつつ走り抜けた。
「ソーサリーファクト!?」
「おいおい……こんな場所であんな速度出すのは自殺行為……ん?」
本来なら壁に激突して大きな音が鳴るが聞こえない。この瞬間、殺し屋たちは次郎吉が洞窟という狭く曲がりくねった場所でも雷速で移動できる超人だと理解した。
「マジかよ……おい。あんたはあんなソーサリーファクトの存在知っているか?」
「いや。聞いたことがないな。獣人の奴隷のソーサリーファクトが外されているようだし、凄腕の魔道技師とみて良さそうだ」
「ここに侵入するだけのことはあるってことか。楽しくなってきた」
殺し屋たちにとって、この島での仕事はただの護衛だ。基本的に何も起きず大金が手に入る楽な仕事だが、いかんせん暇になる。殺し屋にとって刺激がない日々は一種の拷問とも言えた。それが次郎吉の登場で変わったことで久々のアドレナリンが上昇してきたらしい。
殺し屋たちが次郎吉の後を追うために走りだそうとした時だった。狐の獣人が踵落としで攻撃したことで殺し屋たちは追うよりも回避を優先した。
「おっと……あぶねぇ。あぶねぇ。地面砕けているじゃん」
「……しっかり止めておけよ。依頼主に報告するぞ。まぬけ」
「あぁ~……こっちは酔っているからな。間違えてお前たちを殺しちまうかも知れないな?」
かき集めの殺し屋集団なんてこんなものだ。しかし全員プロであることは変わりない。喧嘩よりも優先すべきは仕事であることを理解している。そんな彼らを見た狐の獣人も覚悟を決める。それを見た殺し屋たちは忠告する。
「おいおい。やめとけって。お前じゃ、俺たちに勝てないことぐらいわかるだろ?」
「武器があれば変わっていたかも知れないが素手で何が出来る?」
「確かにこのままじゃきついな」
狐の獣人が不敵に笑ったのを見て、何かをするつもりだと感じた殺し屋たちは襲い掛かる。しかしその判断は少し遅かった。
「魔獣転昇!」
狐の獣人がそういうと殺し屋たちは狐の獣人が叫び声をあげただけで吹っ飛ばされる。
「はぁ!?」
「なんだ? あれは? 髪の毛が赤く染まっていく」
「これは……やばい!」
殺し屋たちが狐の獣人の変化を見て、自分たちの命の危険を感じ取った。こういうところもプロではある。しかし何もかもが遅かった。彼らは喧嘩するよりも早く協力して狐の獣人をいち早く殺すべきだった。
「フー! フー! ガァアアアアアーーー!!」
赤い眼光で殺し屋たちを認識した狐の獣人が殺し屋たちに襲い掛かり、狐の獣人のとんでもない速度を見た瞬間に逃げれないことを悟り、応戦するのだった。
そんなことが起きているとは全く知らない次郎吉は次々雑魚の看守を倒して進んでいくと目的地に到着する。
「ここか?」
「そうだぞ! サヤやん! 助けに来たぞ!」
「その声……もしかしてエメリちゃん?」
「そうだぞ! 良かった……無事だった」
友達の再開の裏で次郎吉は倒した看守から鍵を奪い取り、牢屋の鍵を開けた。すると二人が抱き合う。次郎吉が巫女様という彼女を見ると兄とは違い白毛で子供の狐の獣人がいた。巫女様と言うだけあってちゃんと巫女服を着ている。ここで巫女様と次郎吉の視線が合う。
「ん? ふぇ!? 人間!?」
巫女様は次郎吉を認識するとエメリの後ろに隠れてしまう。人間に酷い目に合わせられたのだからこの反応は当然だろう。そんな巫女様にエメリが話しかけてくれる。
「あぁ~……サヤやん。この人間はたぶん大丈夫だぞ? 私たちの首に付いている変な玩具を外してくれたんだ」
「へ? これをですか?」
「あぁ……あんたの物も今から外すからじっとしていてくれ」
次郎吉がそういうと巫女様も大人しく言うことを聞いてくれて、奴隷のソーサリーファクトの解除に成功する。
「本当に外れた……あの、でも、どうして?」
「お前さんの友達のお父さんと敵対したくなくてな。どうしてもお前さんたちをここから助け出さないといけなくなったんだよ」
「なるほど。ガルザさんを止めるためには確かにわたしくとエメリちゃんをまず助け出さないといけないですね」
子供なのに頭の回転は速いらしい。そんな子供を次郎吉は掴んで持ち上げる。
「ふぇ!? 何をしているんですか!?」
「暴れると怪我するぞ。お前も背中に早く乗れ」
「よしきた!」
「お前さんの兄が今、戦ってくれている。道は一つしかない。悪いが覚悟してくれ」
次郎吉は狐の獣人が無事だとは思っていない。しかし殺し屋たちが次郎吉が奴隷のソーサリーファクトを解除している間、牢屋に来ていないことを考えると頑張ってくれることだけは分かった。
そんな次郎吉が殺し屋たちと遭遇した少し開けた場所に向かうとそこには髪の毛を真っ赤にした狐の獣人とボコボコにされた殺し屋たちの姿があった。
「なんだ? あれ?」
「お兄様……魔獣転昇を使われたのですね。降ろしてくれませんか? お兄様のあれを治せるのはわたしくだけです」
「わ、わかった」
次郎吉が巫女様を地面に降ろすと狐の獣人が巫女様に襲い掛かる。次の瞬間だった。巫女様の強烈なビンタが狐の獣人の顔面にクリティカルヒットした。
(おいおい……俺っちでも全く見えない動きにカウンターを決めたぞ。この子)
次郎吉は巫女様がただの子供じゃないことを認識する。そして壁に激突した狐の獣人に巫女様が近づくと両人差し指を構える。
(ちょっと待て!? その構えはまさか……やめろ! やめてやってくれ!)
「悪いお兄様にはお仕置きです! えい!」
巫女様がそういうと狐の獣人の尻に向かってかんちょーした。
「んぎゃあああああーーー!?」
狐の獣人が尻を抑えながら絶叫をすると倒れ込む。その気持ちは痛いほどわかる次郎吉である。すると狐の獣人の赤毛が黒毛に戻る。
「すみません。兄とわたしくを運んでくれませんか?」
「あ……あぁ……わかった」
「やっぱりサヤやんは怒らせると怖いんだぞ」
エメリのつぶやきに次郎吉が深く同意したのは言うまでもない。とにかくこれで道中の危険はあるにしても巫女様の救出には成功したと言ってもいいだろう。後は残している獣人の解放と時間があればエルフの解放をする感じで戦力はかなり集まりそうと考えながら次郎吉は獣人の牢屋に向かうのだった。




