#39 ガルザの娘
5日目、次郎吉は怪しまれないようにお仕置き部屋に送られながらガルザの人質を探すために怪しい牢屋の情報収集をする。
「……エルフやダークエルフまで捕まえてやがるのか。こりゃ、ますますプラムにとって引けなくなったな」
この他にも人間の子供や大人の女性も何故か他の奴隷と違う牢屋で隔離されていた。
「人間の方は身代金か獣人と同じで人質だろうな」
どこかの金持ちの子供を誘拐して身代金を取るもよし、人質にして何かしら自分たちに有益なことをさせるのもよし。いずれにしてもろくなことじゃないことは確定している。ここまで調べてここを取りまとめている奴隷商人は裏社会でもかなり大物なんじゃないかという説が次郎吉の中で浮かんだ。島だけでも規模が出かかったが流石に商売範囲が広すぎるというのが次郎吉の感想だった。
裏社会のボスと敵対するというのは裏社会において賢い選択肢ではない。同じくらいの影響力なら問題はないが大抵は潰させて終わる。潰されなかったとしても情報は裏社会にすぐ広まるから商売の妨害などを受ける可能性は非常に高くなる。次郎吉からすると出来ればそういう流れになってほしくないが時間も残り少ない。そろそろ強硬手段も視野に入れないといけないぐらいにはなってきている。
「……これが今日最後のソーサリーファクト。残す牢屋は左右の四つ。獣人たちが働いている場所から遠い右に賭ける!」
ギャンブラーの次郎吉は自分が今まさに賭けをしている気分を味わう。外れたら、6日目にぶっつけ本番で誘拐と脱出を試みるしかない。そうなるとかなりの危険を伴うことになる。
(……来い! ……来い! 来い来い来い来い!)
次郎吉が目を閉じて祈りながら情報を見るとソーサリーファクトの映像に獣人の子供や大人の女性の姿が写った。
(賭けにはなんとか勝ったか……さて、明日は大仕事だ。このボロボロの身体でどこまで行けるかだな)
次郎吉は眠り、運命の6日目を迎える。するとここで予期せぬことが起きた。
「ねぇ。おじさん。ここ最近お仕置きされてばかりのあいつ、なんか怪しくない?」
「ぼ、僕も怪しいと思う!」
「絶対変だよ! あいつ!」
一緒に牢屋に入っていた一部の子供たちが次郎吉のことを怪しみ出し、看守に次郎吉を差し出したのだ。
(おーおー。これぐらいの年になると子供でもやっぱりこえーな。けどなぼーずども、自分たちは良いことをしているつもりみたいだが、人を裏切る人間は成長してもそういう人間にしかならないぞ? おじさんはお前さんたちの将来が心配で仕方ないぜ。何せそういう人間は表の社会でも裏の社会でも嫌われ者になると相場が決まっている)
これは次郎吉の持論であり、忠告でもある。何せ子供のうちに治せるなら治すことが出来ると次郎吉は考えているからだ。
「言われてみればおかしくはある。おい! お前! ちょっと来い!」
「いやだ! 僕は何も悪いことしてないのに! どうして連れていかれるの!?」
そういう次郎吉の姿を見た子供たちの顔は邪悪に染まっていた。それを見た次郎吉はもうこの子供たちは救いようがないとところまで行っていると思った。そういう快楽を一度味わったら、抜け出せないものだと犯罪者の次郎吉が一番よく知っているからだ。
次郎吉はお仕置き部屋に放り込まれる。
「さて、どうしてやろうか?」
「何もしなくていいぜ?」
次郎吉がそういうと奴隷のソーサリーファクトを外した。
「……は? ぎゃ!?」
呆気に取られている看守との距離を次郎吉は詰めて看守の真下に潜り込んだ。そして次郎吉は地面を蹴る。その結果、看守の股間に次郎吉の頭突きが炸裂する。その結果、看守は股間を手で押さえて、倒れ込む。
「子供奥義、金玉花火」
「て、てめぇ……お、俺の……大切な……玉を……」
次郎吉は愛用の手にソーサリーファクトを装備して倒れている男の首元に電気ショックを与えて、意識を奪う。
「あいにく他人の玉のことなんて大切に思ったことは一度もねーよ」
ここで次郎吉は時間切れが来て、大人の姿に戻ると看守の服を全部盗んで装備を整える。
「おし。出来れば夜に仕掛けたかったがこうなったからにはしょうがないよな」
次郎吉は全裸状態の看守に奴隷のソーサリーファクトを装備させてお仕置き部屋に放置する。次郎吉を何度も鞭打ちにした罪は重かった。
変装した次郎吉が向かったのが看守たちが集まっている指揮所だ。一番にここを潰さないと次郎吉は詰むと予想した。それだけここを取り仕切っている人間を次郎吉は高く評価したとも言える。
「お邪魔しまーす。お疲れさん。さようなら」
次郎吉は眠り香のソーサリーファクトを指揮所に投げ込んで逃げ出した。これで指示出し役は潰した。眠り香対策のマスク型のソーサリーファクトを次郎吉は装備してドアを開けて中に入ると指揮所を次郎吉は見渡すと巨大な装置タイプのソーサリーファクトを見つける。
次郎吉が調べると次郎吉の予想通り巨大な通信のソーサリーファクトだった。これを最初に破壊しないと次郎吉の動きが島全体に筒抜けにされるほか、この島にやって来る船にまで通信させてしまう。最悪ここまで大きな通信のソーサリーファクトなら大陸まで通信が可能かも知れない。
そうなると敵からすると万全の準備を整えて次郎吉を潰しに来るので、そうなると次郎吉は文字通り袋の鼠になってしまうので、次郎吉がここを最初に潰したのは正しい判断と言えた。
「これでよし。折角のソーサリーファクトだがさようならだ」
次郎吉が通信のソーサリーファクトの中に玉型のソーサリーファクトを入れて、ソーサリーファクトを起動されると通信のソーサリーファクトの中で放電が発生して、通信のソーサリーファクトは爆発とショートを発生させて、完全な破壊に成功する。
これで後は目的の獣人の部屋に行くだけだ。しかし辿り着くと当然看守に怪しまれた。
「ん? おい! お前! どこの所属だ! ここは立ち入り禁止だぞ」
「そんな硬いことを言うなよ!」
次郎吉がソーサリーファクトを起動させて走り出すと看守は刺股のソーサリーファクトを構えて、起動させると刺股の先端に電撃が発生する。
「せやあああ!」
看守が次郎吉に向かって突いてきた。すると次郎吉は刺股をしゃがんで躱して、スライディングをしながら懐に飛び込む。そして次郎吉は看守に向けて手を伸ばした。
それに対して看守は刺股を戻して次郎吉の手をガードしようと動いた。これはいい判断だ。ただしその次郎吉が本物だったらだ。看守の目の前で次郎吉が幻となって消えた。
「タッチだ」
「何!? うぐ!?」
看守の一人が首元電気ショックで倒れる姿を見て、別の看守が次郎吉から視線を逸らす。それを見た次郎吉は別の指輪型のソーサリーファクトを起動させる。すると別の看守に謎の結界が包み込んだ。
「敵!? おーい! 誰か! 獣人の牢屋が襲われている! 援軍に来てくれ!」
「いい判断だ」
「あ……ぎゃ!?」
「ただしその声が届いて居たらな」
次郎吉は結界内の音を遮断する無音のソーサリーファクトを起動させたせいで看守の援軍を呼ぶ判断が不発する。そしてそれをしてしまった以上、看守は攻撃も防御も出来ない。結果、次郎吉の首元電気ショックで倒される。
これを見た牢屋の獣人たちは感心の声を上げる。それを見た次郎吉は獣人が人間並みの知性があることを認識する。その上で次郎吉は獣人たちに向かって話かける。
「言葉は分かるよな? この中に緑色の毛の狼の獣人を知っている奴はいるか? 武器は大きな剣らしいが」
「え? おとーのことを知っているの!?」
緑色の髪をした狼の獣人の小さな女の子が牢屋に檻に慌てて近寄って来た。その子を見た次郎吉は特徴と一致していることから彼女が人質だと判断する。
「知っていると言えば知っているが認識はないな。俺っちはお前さんのお父さんが悪い人間にこき使われるのを止めるためにここに来た」
「おとー……やっぱり頑張っているんだ」
次郎吉は子供を作ったことはないがお父さんのことを本気で心配している子供を見るとガルザが悪者の手先になったとしても守りたい存在であることに理解を示す。するとここで別の黒髪の狐の男の獣人が話しかけてきた。
「ガルザさんを解放したいなら娘だけを解放しただけじゃ、無理だぞ? 人間。あの人は根っからの善人だからな。娘だけ助かっただけじゃ解放させるとは思えない」
「あぁ~……村人とかそういう人たちを全員助けたいタイプか?」
「そういう人だな。特に俺たちにとって大切な象徴である巫女様だけは助け出す必要がある」
「あ! そうだ! 巫女様! あの……助けて欲しいんだぞ?」
言葉遣いがちょっと変だが子供はこういうときに限って上目遣いが上手いのは種族共通だと次郎吉は知った。そして狐の男の獣人は次郎吉が詰んでいることを分かった上で話しかけていることに次郎吉も理解した。
「助けるも何もお前さんのお父さんを解放するためにしないといけないことなんだろ? なら俺っちに拒否権はねーよ」
「だよな?」
「お前さんは俺っちの動きに気付いていたな?」
「獣人は目がいいからな。あんな気持ち悪い鼠が急に現れたら嫌でも気づくさ。因みに俺はその巫女様の兄だ。解放して損はないぜ?」
次郎吉がどうするか悩む。この狐の獣人は相当な実力者であることは疑いようがない。
「悩む時間も惜しいな。どうせ父親が善人ならこの子も色々譲らないタイプだろ? 全員解放してやるよ」
次郎吉が看守から鍵を奪うと牢の鍵を開けて、牢の中に入ると一人ずつ奴隷のソーサリーファクトを外していく。看守たちは牢屋の鍵と奴隷のソーサリーファクトを発動させるソーサリーファクトは持っていたが奴隷のソーサリーファクトを解除する鍵のような物は持っていなかった。
奴隷の鍵は恐らく奴隷商人が管理しているんだろう。わざわざ看守に持たせるメリットがないし、この判断は当然と言えば当然だ。そんなわけでまず次郎吉は奴隷のソーサリーファクトを発動させるソーサリーファクトを踏みつぶして破壊する。
その後、奴隷のソーサリーファクトの解除に動くが流石に時間がかかる。それだけデリケートな代物なのだ。それでも普通の魔道技師より次郎吉は圧倒的に速い。ここら辺は流石アーベルトの弟子だと言うべきだろう。
「外れた……外れたぞ!」
「解放された! そうだ! 旦那を見つけに」
「待て! 気持ちはわかるが解放してくれたこの人間に対して迷惑をかけるな。少なくとも俺たち全員解放されてから動いたほうがいいだろ?」
「そ、そうですね。すみません。宮司様」
どうやら狐の獣人は相当位が上の存在らしい。言葉の通りなら宮司は神主より上の人で神社の責任者だ。次郎吉が獣人について考えてながらソーサリーファクトを外していくと足音が聞こえた。
「俺に任せてくれ」
狐の獣人が次郎吉に言うと実力を見せてくれる。
「ん? おい! どうした! お前たち!? っ!?」
やって来た看守が仲間に近づくと檻から狐の獣人が飛び出して襲い掛かる。それを認識した男が刺股で攻撃した瞬間、狐の獣人はジャンプして回し蹴りが看守の顔面に炸裂して看守は壁に頭がめり込む。脚力があるということはそれだけ蹴りも強烈である証明だ。しかしこれは問題行動となった。
「やべ。音出しすぎたか?」
「宮司様?」
「やれやれだぞ。これはサヤやんに報告するしかないな。格好付けようとするからそうなんだぞ。ヤイバ」
「ぐ……」
小さな子供に正論を言われる宮司である。次郎吉からすると狐の獣人はかなり若いので、失敗は付き物だとは思っている。ただ今はして欲しくなかった。
「完全にバレたな。こうなったら実力行使で脱出するしかない。悪いが手伝ってもらうぜ? 俺っちはこう見えて人と戦うのは苦手でね」
「そうは見えなかったが実力行使で脱出には大賛成だ。ただそのためにも巫女の解放は最優先事項で頼む。巫女を人質に取られたら、俺たちは動けない」
「りょーかい。場所はわかるか?」
「妹の臭いを兄が忘れるものかよ」
次郎吉の中でこの狐の獣人は重度のシスコン説が浮上した瞬間だった。次郎吉は判断を下す。
「まだ全員解除していないが人数は十分。この騒ぎを利用して巫女の救出したいと思うがどうだ?」
「私たちもそれがいいと思います。ここで暴れますので、巫女様をよろしくお願いいたします」
「わ、私も行くぞ! サヤやんは私の友達だからな! ダメか?」
「いや。ダメというよりむしろありがたい。俺っちからするとお前さんの命は最低限守らないといけないからな。おんぶしてやるから離れるなよ」
「おー! おんぶされるなら大得意だぞ! おとーにいつもして貰っていたからな!」
こうして次郎吉は宮司の獣人とガルザの娘と一緒に巫女の救出に向かうのだった。
刺股とは警察などが犯人を取り押さえるときに使用される捕具。リーチがあることでナイフなどの持っている犯人が相手なら比較的安全に犯人と戦える捕具となっている。




