#38 奴隷島
次回の更新は来週の1月16日の金曜日にさせてもらいます。
船が出航してから暫く経過したのち、船内で騒がしく人が動き出して、外からも人の声が聞こえてきて船の動きが止まることで次郎吉は船が目的地に到着したことがわかった。
そして奴隷を運ぶ担当者がやって来ると嫌な臭いで顔が歪む。
(この惨状を作り出したお前らがそんな顔をするなよ。巻き込まれたこっちの身にもなってみろ)
次郎吉は心の中で怒り心頭になっていると牢屋の鍵が開けられて奴隷たちが外に連れ出された。そこは中央に大きな山がある島だった。次郎吉が港を確認すると奴隷たちが鉱物が入った木のコンテナを運ばされている。それを見た次郎吉はこの島がどんな島か理解した。
(なるほど……ここは鉱物資源が豊富な島みたいだな)
江戸時代は実は金銀銅などの鉱物資源の開発が一気に進んだ時代でもあった。なので次郎吉は話程度には鉱山での仕事の過酷さを知っている。何せ鉱山で悪い商売をしている人間の会話はよく聞く立場にあったからだ。
鉱山での仕事は間違いなく儲かる。ただし死と隣り合わせな場所というのが次郎吉の鉱山での仕事のイメージだった。何せ江戸時代だと鉱山病は一応医者たちによって報告はされてはいた。しかし原因については分からなかったのだ。ただ鉱山で働いた人は鉱山病の症状を出して30歳という若さで死ぬということだけ分かっていた。
悪い商売を考える人からするとそれを利用するわけだ。つまり働かせるだけ働かせて死んでくれるなら金を払わなくていいことになる。なので給料の支払いをなるべく先延ばしにして労働者が倒れるのを持つという最悪のことが江戸時代だと出来てしまったのだ。
もちろんそういう悪さがバレると裁かれる。しかし死因が病死扱いなら殺人罪で訴えることはかなり難しい。給料の支払いが遅れた理由などいくらでも説明できてしまう。そうやって逃げ切れてしまうから鉱山での悪い商売は人気があった。
それを知っている次郎吉は奴隷を働かせるには最高の場所だとこの島を評価した。何せ奴隷が各国で禁止されているなら人身売買などの裏商売で稼ぐしかない。しかし当たり前の話だが奴隷の全てが売れるわけじゃない。どうしても売れ残りが出てくる。そうなると売れ残った奴隷をどう使って商売をするか考えないといけない。
普通なら働かせて稼ぐが正解。しかしこの世界では各国が禁止しているので、表立って働かせることは出来ない。それなら国が手出し出来ない場所で働かせればいいという結論になったわけだ。
(この島に名前を付けるなら奴隷島って名前になるんだろうな)
そしてこれは次郎吉が一番予想していたことであり、最悪の結果でもあった。他国なら他の大陸なら逃げる場所も隠れる場所もたくさんあるので、比較的逃げやすい。しかし島ならかなり逃げる場所や隠れる場所は制限される。正直迷子を探すときのような人海戦術を取られるとかなりきつい。
脱出艇で逃げようにも停泊場所を制限されて見張られると上陸はおろか接近することすら許してくれない可能性が高い。そんな状況下での次郎吉の今回の仕事は間違いなく難易度は今まで一番高い仕事だと言えた。
次郎吉が奴隷島に降りると死臭が漂ってきた。どうやら既に鉱山病の犠牲者がたくさんいるようだ。次郎吉が死臭がした木のコンテナが船に運び込まれた。
どうやら死んだ者は船から海に捨てるつもりらしい。魚の餌になるならよし。運よく大陸の海岸に漂着しても自殺者扱いされて終わり。そんなことをしている悪人たちを次郎吉はこう評価した。
(悪人の自覚がない三下以下と悪人の自覚があっても目を晒す三下がほとんどだな)
つまり次郎吉から雑魚判定された。しかし次郎吉は悪人センサーに例外の人間もいた。流石に現場の指揮官や副官、この島で何かあった時のために雇われた人たちはレベルが違った。
(さーて。どうしたもんかな。殺し屋相手に俺っちは見つからない、逃げ切ることは出来ても勝つことは出来ないしな。情けないがもしそうなったら最悪プラムに助けを求めるしかないか。とにかく潜入して目的の存在がいるかどうかわからねーと動きようがないな)
そんなわけで次郎吉は他の子供たちと同じようにまずは鉱山の入口の一つに連れていかれるとその一つの入口は通路になっており、いくつも牢屋があった。その中にはみんな子供が入っており、既に咳き込んでいる。不自然に空いている牢屋があるところを見ると犠牲者が既に出ており、その度に補充していることが次郎吉でもわかった。
「入れ!」
次郎吉たちが牢屋に入れられるとここでの生活の説明が行われた。
「いいか? お前たちは売れ残りの奴隷だ。指定された場所で穴を掘って、石を運ぶのがお前たちの役目。恨むなら売れない自分たちを恨むんだな。飯は朝と夜の二回。わかったな?」
子供たちが誰も反応しないと近くの子供を蹴り飛ばした。
「あまり大人を舐めるなよ? クソガキども。そんなんだからお前たちは売れ残るんだよ! 聞かれたなら返事をしろ!」
「「「「は、はい!」」」」
「ふん!」
子供たちはちゃんと返事をしたが不服そうに男は帰って言った。
(偉そうに説教していたがお前は子供相手に暴力を奮っているけどな)
大人としても男としても人としても恥ずかしい奴だと思った次郎吉であった。それから一日次郎吉は生活してここが泥棒にとって、最悪の場所だと理解した。
まず洞窟の中での作業なので時間の感覚が分からない。一応朝と夜の飯の時間で分かるがそれが本当にその通りなのか知る術がなかった。しかも奴隷たちは交代制だった。つまり抜け出そうにも誰かに見られる可能性が高い。
(子供になる薬を隠れて飲めるのはありがたいが孤児院の時みたいに決まった時間に全員寝てくれるなら起こさず抜け出すことが出来るんだけどな。中途半端に知識がある年だけにやりづらい)
全員が奴隷解放のために協力してくれるなら動きやすいが次郎吉が警戒しているのは裏切りだ。ここにいるのは小学生ぐらいの子供たちだがそれぐらいの年になるといじめも裏切りも発生することを次郎吉は知っている。故に孤児院の時のように簡単には動けない。
しかし何とかして情報を集めないとただ奴隷になりに来た人になってしまう。時間も短い故になんとか突破口を開かないと行けなかった。そんなことを考えながら三日目を迎える。ここで次郎吉は突破口になるかも知れない出来事を目撃した。
一人の子供が荷物を落とした結果、お仕置き部屋という場所に連れていかれたのだ。そこから鞭打ちの音と子供の悲鳴が聞こえてきた。これは子供たちへの見せしめの意味が強いんだろうけど、次郎吉からすると情報が知れる。
(子供を残してお仕置きした奴が帰って来たな。これに賭けるしかないか?)
気配からしてこのお仕置き部屋は一対一でお仕置きする部屋だと次郎吉は理解した。そしてお仕置きが終わった子供を残して男が帰って来たということはお仕置きされた子供は今、一人であることがわかった。これを使わない手はないだろう。
そしてどうせお仕置きされるなら嫌がらせをしてお仕置きされたい次郎吉である。そんなわけで誰もお仕置き部屋にいないことを確認した上で次郎吉は動いた。
「うわ!? あ、ごめんなさい」
次郎吉は鉱石を運んでいる状態でわざと監視している男の前で躓いて倒れる。その結果、鉱石が監視をしている男に直撃した。
「こ、小僧……こっちに来い!」
次郎吉は狙い通り、お仕置き部屋に連れていかれる。そして鞭打ちを受けて、意識を失うフリをした。すると男は鞭を奮うことに疲れて部屋から出ていった。これで次郎吉はようやくソーサリーファクトを使える状況になった。
次郎吉は奴隷のソーサリーファクトをしまうと取り出したのは紫色の謎の箱。そのスイッチを押すと黒い煙が発生し、一体の鼠が現れた。これはエルフが使っていた使い魔を召喚するソーサリーファクトだ。
「獣人が囚われている牢屋を調べて来てくれ」
次郎吉が命令すると一匹の鼠が牢屋を抜け出して走り出した。この鼠は情報を調べ終えるとソーサリーファクトに帰還するようになっている。そしてソーサリーファクトに帰還すると使い魔が得た情報全てを使った人に付与するというソーサリーファクトだ。
痛めつけられた次郎吉は牢屋に戻されると壁に倒れ込むように体を休める。しばらくすると鼠が帰って来て自分と壁の間に隠したソーサリーファクトに鼠が入ると次郎吉は目を閉じる。すると暗闇の中で使い魔が走り回って得た目の情報と音の情報が共有される。
次郎吉が目を閉じたのがこのソーサリーファクトの弱点となっている。目を開けている状態だと自分の脳に自分の目の情報と鼠の目の情報が流れ込んでくることになるので、脳にかなりの負担がかかる。最悪脳死のリスクがある結構怖いソーサリーファクトなのだ。
しかし命の危険があるソーサリーファクトなだけに得られる物は絶大だった。
(なるほど……あそこからこういうルートで獣人たちの牢屋に行けるわけね。それに偶然とはいえ看守たちがいる部屋を確認できたのはでかい。いい仕事してくれたぜ)
次郎吉は獣人たちが囚われている牢屋の位置とそこに辿り着くためのルート、更に看守たちが集まっている部屋を確認できた。次郎吉は恐らくこの部屋には島の全体地図があると予想した。これは看守たちの配置が組織的な配置をされていることから予想できた。全体の地図がないとそういう組織的な配置は取れないからね。
次郎吉はその後、もう一回お仕置き部屋に行くように仕掛けて、島の全体地図の情報を得た。すると島の牢屋の位置でおかしな場所がいくつもあった。基本的には牢屋が集まっているのだが、いくつか離れた場所に一つだけの牢屋があったのだ。
(まぁ、普通に考えるなら重要人物を隠すならそこだよな。ただ罠の可能性も捨てられない。やれやれ……まだまだ痛い目に合わないといけないな)
そういうと次郎吉は目を閉じて傷ついた自分の身体を休ませるのだった。




