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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
青年期編
36/38

#36 クインからの救援依頼

次郎吉たちがこの大事件を知ったのはそれから数日後だった。クインが次郎吉たちの家まで逃げたことで発覚する。


「どうしたんですか!? クインさん!?」


「ごめん……なさい。任務……失敗」


プラムにそれだけ言うとクインは倒れ込んでしまった。プラムはクインを治療してクインの目が醒めるとそこには次郎吉とコーネ、ビオラが集まっていた。流石に任務失敗と聞いたら、ビオラに報告せざるを得ない。そしてその任務に関わっていたコーネも他人事には出来ないので、集結した形だ。


「ゲオリオは!? ッ~!?」


「あ……クインさん。大人しくしていてください。全身大怪我しているんですよ。ダークエルフの塗り薬と回復魔術は使いましたがそれでも治らないほどの大怪我なんです」


クインは高速で飛んでくる木のコンテナを思い出した。あれの直撃で体がボロボロになり、なんとか風属性の飛行魔術で全身の怪我を誤魔化してここまで辿り着いたのだ。クインがプラムにゆっくり寝かしつけられる。


クインが自分の状態を見ると包帯が全身に巻かれていることを認識する。この世界での回復魔術はせいぜい転んだ怪我やちょっとした切り傷を治す程度の力しかない。魔術を応用すれば水流を操作する魔術で出血を止めたり、骨の代わりを岩にすることで骨折を誤魔化すことは出来るがそういうことが出来るのは数少ない魔術師だけだ。


「ごめん……」


「何が起きたのかゆっくりでいいから話してくれるかしら? クイン」


「……うん」


クインから事件の詳細を話されて一同絶句する。まずビオラがこの世界の常識を話す。


「ちょっと待って……獣人が奴隷商人の味方をしたってこと? ありえないわ。ビャク王国で人間と獣人は対立関係にあるはずよ」


ビャク王国は別名獣人と人間の国と呼ばれるほど、獣人が多く生息している国として知られている。その結果、人間よりも身体能力が優れている彼らを人間は恐怖し、排除に動いたことで争いが絶えない関係になってしまった。


その結果としてビャク王国とシルファリッド王国との戦争の歴史はない。普通に内乱起こしている国なら攻め時と考えるのが普通だが獣人が自分たちの国に来られでもしたらそれはそれで困るといった判断でシルファリッド王国は手出し出来なかったのだ。


「精神干渉や奴隷にされていたわけじゃないのか?」


次郎吉がそれを聞くとクインが否定する。精神干渉を受けると人間の目に光が失われる特徴がある。スコープで直接ガルザを見たクインはガルザのギラギラ輝く目を見てあれは操られているわけじゃないとはっきり断言出来た。


更に奴隷には首輪や足枷が付けられるのが決まっている。この首輪や足枷がソーサリーファクトで電流を流したり、精神干渉で奴隷が逃げ出したり抵抗することを封じるわけだ。しかしクインはガルザに首輪や足枷などがないことを話す。まだ透明化されていたり、次郎吉が知らない方法で奴隷にされている可能性が残っているがビオラが限りなく低いと判断した。


その理由がビャク王国はソーサリーファクトの研究がだいぶ遅れている国らしい。これも獣人が原因でなかなか他国に商売しに行くのが難しいのだ。海路なら安全なのだが、結局海路で運んだ荷物を首都に送るためには陸路を使うしかない。多くの荷物を運んでいると獣人に狙われるという流れだ。


逆に言うと王都より他国や海に面している村や町のほうが発展しているのがビャク王国の特徴とも言える。ただ最近なんとか安全な輸送ルートをいくつか作ったことでようやく他国の商品がビャク王国に流れるようになったそうだ。ただそれだと技術の遅れを取り戻すのはかなり先の話になるだろう。


結果として奴隷のソーサリーファクトは従来の物が使われているとビオラは予想し、コーネが事前の調査で奴隷たちに使われていたのは従来の物だったと補足した。これらの情報を聞いた次郎吉が結論を出す。


「なら考えられるのは人質か?」


「そうね。その説があたしも一番しっくりくるわ。人間ならお金とか色々方法があるけど、獣人はお金になんて興味ないだろうし、それ以外の方法で獣人を従わせる方法はない気がする」


「反吐が出る話ね」


「それについては同意しますが少し本題からずれているのが気になります」


プラムの言葉で本題に話を戻すこととなり、ビオラが話を纏める。


「まずゲオリオの安否は不明。連絡がないってことは殺されたか捕虜になった可能性が高いわね」


「俺っちは捕虜に一票」


「……え! ッ~」


クインが嬉しくて起き上がったことで全身に激痛が走る。嬉しくて飛び起きたのが良くなかった。そしてプラムがクインをゆっくりベッドに寝かしてくれる。


「理由を聞かせてくれるかしら?」


「俺っちのソーサリーファクトが何者かにいじられた信号をキャッチした。ソーサリーファクトは誰にでもいじられるわけじゃない。相手側に魔道技師がいるのは確実。そして魔道技師は未知のソーサリーファクトを目にしたら探求心を抑えきれないものさ。つまり」


「ゲオリオから情報を聞き出そうとするってことね。それについてはあたしも同意見。ゲオリオが貴族を狙う暗殺者でしかも仲間がいることから組織を疑うことになるはずよ。そうなると組織の情報を聞き出そうとするでしょうね。ましてや相手がゼルガード伯爵だし。噂の暗殺者を捕まえたとなったら興味を持つ貴族は多いわよ」


次郎吉が『アルバ』に売っているソーサリーファクトには次郎吉なりの保険機能を色々取り付けられている。いじられた時の信号機能はその保険の一つ。これでどこの場所でソーサリーファクトをいじったのかわかる。そしてソーサリーファクトをいじるためにはそれ相応の施設が必要だ。


つまりこれだけでいじった魔道技師の工房が特定しやすい。最も今回の信号の発信場所はゼルガード伯爵の屋敷だったのであまり意味はない。ただ奴隷商人とゼルガード伯爵の繋がりを疑う要素にはなった感じだ。


そしてもう一つ次郎吉の保険もこの時に発動している。それがソーサリーファクトの破壊機能。次郎吉以外がソーサリーファクトをいじろうとすると小規模な魔力暴走を発生させる魔力バッテリーが搭載されており、この魔力暴走でソーサリーファクトの魔力ラインを全部消し飛ばすことでソーサリーファクトの破壊する機能となっている。


更に爆発してから追加にメッセージも出る。


『残念でした~! ばーか! ばーか! 引っかかってやんの! もっとソーサリーファクトの勉強して出直してきな。あーばよ』


「ッ!」


これを見た相手の魔道技師は台パンしたのは言うまでもない。


そんな魔道技師の悔しがる姿を妄想しながら次郎吉は冷静に話す。


「特に被害者は是が非でもゲオリオを欲しがるだろうな」


被害者は加害者を許さない。アーベルトの爺さんの一件で次郎吉が加害者を許さなかった同じ理屈である。自分の手で鉄槌を下せるなら被害者はいくらでもお金を払うだろう。ましてやそれが大金持ちなら尚更だ。


「……ゲオリオが生きていてくれるならそれでいい。助けられるってことだから」


「そうね。ゲオリオなら組織の話はしないでしょうけど、時間をかけると状況はどんどん悪くなりそう。この場のメンバーでなんとかするしかないわね」


「いや、ちょっと待て。それは無理だろ。ゲオリオをボコすような相手と戦ったら、俺っちたちは一溜まりもないぞ」


次郎吉の意見にプラムとコーネは同意する。クインは認めたくないが次郎吉が言っていることは事実だと一番理解している。何せゲオリオとずっとパートナーとして戦ってきたのは彼女だからだ。するとビオラが言う。


「そうね。その獣人と戦うなら無理。でも戦う必要なんてないんじゃないかしら?」


ビオラの言葉に一同はてなを浮かべる中、次郎吉だけがビオラの意図を理解した。


「ビ、ビオラさん? まさか俺っちに獣人の人質を見つけて盗み出せなんて言わないよな?」


「正解。よくわかっているんじゃない。流石天下の大泥棒の鼠小僧だわ」


「無理無理無理無理無理! そもそもその人質の場所とか人質の姿とか色々分かっているのか?」


「分かっていないけど、奴隷が入る船なら知っているよ!」


次郎吉はコーネを捕まえて関節技を決める。


「お前は俺っちに死ねに行けって言いたいのか!」


「痛い痛い痛い痛い! ギブギブギブ!」


「……ジロキチ」


次郎吉とコーネがじゃれあっているとクインが次郎吉に声を掛けたことで静寂が訪れる。


「……お願い。ゲオリオを助けることに力を貸して」


それは一人の少女のささやかな願いだった。これを聞いた次郎吉はコーネを解放して頭を搔きむしる。


「はぁ……。それは組織からの仕事の依頼ってことでいいか? ビオラ?」


「そうね。今回の次郎吉への最終的な依頼はゲオリオを敵から盗み出すこと。そのためには獣人をまず何とかしないといけない。その対処をまずしてもらうことになるわ」


「こいつは過去一の大仕事になりそうだな……いいぜ。引き受けてやるよ。お前たちには世話になっているし、どっちみち俺っちのソーサリーファクトを触りやがった奴にはお仕置きしないといけないと思っていたからな」


「……ありがとう」


クインはそういうと安心したかのように目を閉じた。自分が今、するべきは体の怪我を治すことだと思ったからだ。こうして次郎吉はとんでもない大仕事をすることになるのだった。

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