#35 アーベルトVS獣人の大剣士
次郎吉は色々な泥棒を繰り返し、時にハゲッツやソリスの人と対決をしたことですっかり鼠小僧の名前が広がり、15歳になった。そんなある日『アルバ』にとって大事件が発生することになる。
ここはシルファリッド王国の下にあるビャク王国に近いシルファリッド王国の左側にある港町、スカリフォーの町。ここにゲオリオとゲオリオのパートナーであるクインという背が小さいコーネと同じ年のジト目の女の子がいた。
彼女はゲオリオのパートナーとして狙撃を得意としている暗殺者だ。功績でいうと次郎吉が依頼した教会の襲撃とゲオリオと再会したときに次郎吉を狙った狙撃が彼女の仕業である。
教会の襲撃のせいでソリスが結構混乱したので、彼女の実績は結構大きい。そんな『アルバ』が誇る最強ペアが任務で港を監視していたコーネに質問する。
「あれが奴隷商人が利用している港か?」
「間違いないです。ゲオリオさん、クイン。この目で大きな荷物をあそこに停泊している大型船に積み込んでいる奴隷たちと船に入っていく子供の奴隷の一団を確認しました」
「……珍しくコーネのお手柄」
「珍しくは余計です! 私も組織に所属して長いんですからね!」
ゲオリオは次郎吉のソーサリーファクトがコーネの大きな力になっていることを知っている。というかゲオリオもクインも他の組織のメンバーも次郎吉が開発したソーサリーファクトがかなりの助けになっており、『アルバ』の活動がかなりやりやすくなっている。
その結果、貴族たちも警戒感を強めているのが現状だ。ただこれはシルファリッド王国での話である。他国がシルファリッド王国で何が起きているのか新聞で知ることは出来ても実際の動きがどうなっているのかなかなか調べるのは難しいものだ。
つまり今回のターゲットはビャク王国の奴隷商人である。コーネの調べによるとビャク王国で商売が出来ないので、隣国で左側の海に面しているシルファリッド王国を利用として商売しようと考えたらしい。もちろん普通なら商売は出来ない。しかしこの町で一番偉いゼルガード伯爵と取引しているなら話は別だ。
ゼルガード伯爵は一応国から海での防衛を担当しており、普段は貿易で商売している。その結果、貴族の中でもかなりの大富豪だ。その人と取引しているなら他国の人間でも商売は可能。それだけの権力を持っている大物だ。
もし彼が奴隷商人を守っているとするならソリスや国は動けない。そんなわけで『アルバ』に仕事の依頼が来た流れとなっている。
「準備を整えて夜に仕掛けるぞ。クイン」
「……了解」
「コーネは姐さんにこのことを連絡してくれ」
「了解!」
こうしてゲオリオとクインは夜になると暗殺者の仕事に移る。まずクインが狙撃ポイントを見つけて、準備に移った。クインがバックから取り出したのは組み立て式の銃のソーサリーファクトだ。作成者はもちろん次郎吉でクインと共同開発した。
銃は完全に人殺しの道具だが、この銃で撃てるのは相手を痺れさせる麻痺弾か相手を眠らせる麻酔弾のみとなっている。これで次郎吉はアーベルトの爺さんの教えを守るということにした。殺傷武器として使用した場合、次郎吉は『アルバ』との取引を停止し、ソーサリーファクトの全ての情報は破棄することになる。
クインもそれに理解を示した上で次郎吉にスコープを取り付けて欲しいなどの注文をした結果、完全な狙撃銃が爆誕した。正直クインからすると相手を痺れさせるか眠らせるだけで十分。何せそれらの相手をゲオリオが殺せば仕事完了になるからだ。
クインはスコープで港の様子を確認していて人の配置やターゲットの情報をゲオリオに伝える。
「……港には一般人多数。……普通に仕事をしているみたい」
『港だからな。漁業の人たちもいれば貿易商人もいる。暗殺には不向きの場所だが、クインいけるか?』
「……問題ない。……いつも通り全員眠らせる」
痺れさせると意識があってしまうが麻酔弾で眠らせた相手には意識がない。これで一般人を巻き込まずターゲットのみを暗殺することを可能にした。ゲオリオとしても姿を見られたら一般人でも手を下さなければならない悩みを抱えていたので、次郎吉のソーサリーファクトには非常に感謝している。
「……ゲオリオ。魔道車が来た……ターゲット確認。……車に乗っているのは四人。一人は運転手。残りは護衛と予想。……車から降りた。一人はターゲットの奥さん。もう一人はフードで顔が見えないけど、背中に大きな武器を持っている大男かな? 護衛とみてよさそう」
『了解。仕事を始めよう』
「……了解」
クインが次々一般人を狙撃して眠らせていく。クインが持っている次郎吉の作製したソーサリーファクトは発射した銃弾の周囲を真空状態にする能力がある。つまり風や空気抵抗を計算せずに狙撃することが可能となっている。この案を出したのがクインだったりする。
「……完了」
『了解』
ゲオリオが奴隷商人の前に姿を見せる。
「どうも。すみません。港の管理を担当している者ですがお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「えぇ。構いませんよ」
ゲオリオと奴隷商人が近づき、ゲオリオの間合いに入った瞬間、ゲオリオは剣を抜き、奴隷商人の首を狙った。しかし次の瞬間、フードの男が背中の大剣でゲオリオの剣を止めた。
「残念だったな。お前さん、血の臭いがしすぎだよ」
「チッ!」
ゲオリオが力で負けて弾き飛ばされる。それを味わった瞬間、ゲオリオは目の前の大男が強者であることを理解した。ゲオリオが鎌鼬の魔術を起動されると大男は冷静に分析する。
「風の魔導師か」
「あなた! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ。ガルザよ! 分かっているな! 私の命を狙ったのだ! ボコボコにしろ!」
「はいはい……ぬ!?」
ゲオリオが襲い掛かり、ガルザと呼ばれた大男のフードが破れるとガルザの正体が判明する。
「獣人!?」
「おうよ。正確に言うなら狼の獣人な」
ガルザがフードを捨ていると緑色の毛に頭から狼の耳に生やした異国の部族っぽい装備をした男が姿を見せた。この世界での獣人は顔は人間とそこまで変わらない。体は腹筋部分は毛に覆われていないが他は毛に覆われている。
ガルザの腹筋や顔には大きな傷跡が残っており、歴戦の戦士の気配を放たれていた。そのガルザがゲオリオに感謝する。
「助かったぜ? 周囲の人間を黙らせてくれてよ。この姿を人間に見せると大変なことになるからな。おかげで俺も本気で戦える」
獣人は獣の特性を持っている。今回で言うとゲオリオの血の臭いを嗅ぎ分け、更に銃撃の音と人が倒れて眠っていることまで把握することが可能だ。
ガルザが大剣を地面に叩きつけると地面が砕ける。
「いくぜ?」
ガルザがゲオリオに襲い掛かるとゲオリオは足を速くする魔術を発動させて、ガルザの相手をせずに奴隷商人を狙った。しかしそれを許してくれる相手じゃなかった。ガルザが地面を蹴ると一瞬でゲオリオとの距離を詰めた。
「そいつは甘い判断じゃないか?」
「く!? が!?」
ゲオリオはなんとか大剣を受け止めたが力で吹っ飛ばされて、積まれた木のコンテナに激突して木のコンテナがゲオリオに崩れ落ちた。するとクインがガルザを狙撃する。しかしガルザはなんと銃弾を素手で受け止めた。
「俺を無効化される判断は正しいがそいつを食らってやるほど甘くはないぞ?」
ガルザがそういうと転がって来た大きな木のコンテナを片手で持ち上げて蹴り飛ばすとなんと遠く離れたクインのところまで木のコンテナが飛んでいき、クインに直撃する。これを見たゲオリオは決断を下し、通信のソーサリーファクトでクインに命令する。
「……クイン、逃げろ。位置がバレて相手が獣人なら逃走は不可能だ。俺が時間を稼ぐからこの情報を姐さんに伝えてくれ。はぁあああああ!」
ゲオリオの周囲に竜巻が発生して木のコンテナを吹き飛ばした。その木のコンテナがガルザの飛んでくるがガルザは大剣で全てを破壊する。そしてゲオリオとガルザがぶつかり合う。
速さのゲオリオと力のガルザの勝負だが、ゲオリオは相性の悪さを悟る。自分の鎌鼬がガルザの獣人特有の毛皮のせいでダメージが通っていないのだ。毛はカットしているがそれじゃあ意味がない。一応顔や腹筋だと切り傷は入るが致命傷にはならない。
「獣人特有の身体能力の高さに加えてこの硬さは反則でしょうが」
「魔法が使える人間に反則呼ばわりはされたくねーな」
獣人は人間よりも遥かに高い身体能力を持っている。その代わりに獣人には魔法使いが存在しないのがこの世界の法則だ。どちらが強いからは諸説ある。その諸説の理由がこの二人の対決を見ればよくわかる。
ガルザからすると大きな魔術を使用されると流石に致命傷を負ってしまう。なのでガルザは大きな魔術を発動させように常に接近して魔法を使わせないように立ち回っている。ゲオリオも大技を使おうとガルザとの距離を離そうとするが風の壁を作っても突っ込んでくる。
これをみると獣人のほうが有利に見えるがこれはガルザの力量があってこその動きと言える。それだけこのガルザは獣人の中でもかなりの実力者だった。
「おら!」
「がは!?」
しばらく戦闘が続いたがゲオリオの魔力切れが迫ったことでガルザはその一瞬を見逃さず今まで使わなかった蹴りがゲオリオに炸裂してゲオリオは吹っ飛ばされる。
「終わりか。守りたい存在のために命がけで時間を作ったお前さんに俺は敬意を表する。安心して死ね」
「待て! ガルザ! そいつは生け捕りにしろ! 私の商売相手からの注文だ」
「へーい。悪運が強い奴だ」
そういうとガルザは意識を失ったゲオリオを担いで奴隷商人のところに待っていく。
「ほらよ。持ってきてーーっ!?」
ガルザがゲオリオを放り投げた瞬間だった。ゲオリオは目を醒まして手に魔法陣を展開されると奴隷商人目掛けて手刀を放つ。しかしゲオリオの起死回生の攻撃はガルザの腕に防がれた。
「あぶねーあぶねー」
ゲオリオの攻撃も遅くはない。いやむしろかなり速いと言っていい。しかしその速さよりも放り投げたことでかなりの距離があったにも関わずその距離を地面を蹴って、一瞬で詰める脚力と速度は異常だ。
「ひ……あ……危ない……おい! 何をやっているんだ! もう少しで私が死ぬところだったぞ! ちゃんと抵抗できない状態で連れてこい!」
「そんなことはわかっているに決まっているだろ? 何が起きたのか俺にもさっぱりだ。確実に骨を粉砕したはずだが?」
「悪いがそれを話すとあんたよりおっかない奴を敵に回しちまうもんでね」
「ほーん。仲間がいることを認めるわけね。ま、狙撃していた奴がいるんだから仲間はいるか。ふん!」
ゲオリオの腹にガルザの拳が放たれてゲオリオは意識を失っていく。
(ジロキチの奴に怒られるなー……これ)
ゲオリオは最後の暗殺チャンスをくれた次郎吉の痛みを代わりに受けるソーサリーファクトの心配をして完全にゲオリオは意識を失うのだった。




